第116話 ボス戦
多少の息苦しさを感じて目が覚めた。
目を開くがそこは暗闇、何も見えない。
顔にはなにか柔らかいものが当たっており後頭部もロックされている。
「ぷはっ!」
モゾモゾと拘束から抜け出して見てみるとそこにはリンが眠っていた。
察するに俺の頭を抱いて眠っていたようだ。
これはよろしくない。
ぐっすり眠れたのはリンのおかげだがこの状況は大変によろしくない。
うっかり【絶倫】が発動してしまいそうだ。
昨日と同じようにコップを取りだして水を満たして一気にあおる。
ふぅ、と息を吐いて寝ぼけて変なことを考えていた頭をリセット。
リンを起こさないよう気を付けながら寝室を後にした。
「ウルト、今何階層だ?」
『おはようございますマスター。間もなく7階層ボス部屋です』
7階層か、俺が寝室に入った時は3階層だったから結構進んだな。
「スキルを持つ魔物は?」
『アンデッド故なのかほぼ居ません。今のところ発見しているのは5階層で現れたオーガゾンビが持つ【剛腕】のみです』
そうか、あまり期待出来ないかな?
現状確認を行っているうちにボス部屋が見えてきた。
『突入します』
扉を開いて中に入ると、そこに待ち構えていたのは1匹のアンデッド。
身長は2メートルと少し、ボロボロだが長剣と大きな盾を装備している。
『解析鑑定の結果あの魔物の名称はデスナイト。保有スキルは【状態異常無効】と【痛覚無効】です』
2つか。
「ウルト、俺が出るよ。譲り受けたこの力を馴染ませるには実戦が必要だ」
『かしこまりました。お気を付けて』
ウルトから降りて強欲の剣を取り出し構える。
まだ距離があるので挨拶がわりに【天翔閃】を放ち牽制、デスナイトが盾で防いだのを見て【疾風迅雷】と【瞬間加速】を同時に使用、1歩目で最高速度まで加速、音を置き去りにするかのような速度で駆ける。
はや……
あまりの速さに動体視力が追いつかず攻撃を空振りしてデスナイトの横を駆け抜けてしまった。
これは【知覚強化(大)】も併用しないと使い物にならないな……
まぁ【疾風迅雷】の感覚は分かった。次は【タイタン】だろう。
【要塞】は攻撃を受ける必要があるので機会があればだな。
デスナイトはこちらに向き直り走り始めた。
盾を構えての接近、盾で殴りつけるつもりか?
「【タイタン】」
他の攻撃スキルは使わない。
まずは【タイタン】単体での使用感をと思いあえて真正面からデスナイトの盾に向かって剣を振り下ろした。
キンっと甲高い音を立てて盾が両断、構えていた左腕ごと斬り落とす結果となった。
「これは……」
あくまで体感だが【剛力無双】の倍近い上昇率を感じる。
デスナイトは斬り落とされた左腕のことなと気にもとめず剣を振りかぶった。
【見切り(上)】を発動して攻撃を見切り体を少し傾けて回避、返す刀でデスナイトの右腕も斬り裂いた。
さらに振り上げた剣に【魔力撃(極)】を発動、デスナイトを真っ二つに斬り裂いた。
体が軽い。力が溢れる。魔力が充ちている。スキルの使用もスムーズだ。
《【状態異常耐性】を獲得しました。【痛覚鈍化】を獲得しました》
無効じゃなくて耐性か……
痛覚に関しては無効にされると傷が分からなくなるからちょうどいいかもしれないな。
両方ともパッシブスキルなのがいい、いちいち発動しなくていいから楽だ。
『お見事です。お疲れ様でした』
「ああ、次も戦おうかな」
『かしこまりました』
ウルトに乗り込み出発、リンはまだ起きていないようだ。
8階層に降りてさらに進む。
この階層に出現するのはレイスという魔物で【物理攻撃完全無効】と【精神攻撃】と2つのスキルを持っていた。
ウルトの通常攻撃、体当たりも透過するのでどうするのかと思えばグリエル迷宮で身に付けた魔法を纏った体当たりで粉砕していた。
俺も一度降りて戦ってみたがただ剣を当てるだけではダメージを与えられなかった。
【魔力撃(極)】を使えば倒せるし、【魔法剣】に光属性の魔力を使用すればほぼ触れただけで倒せた。
得られたスキルは【物理攻撃耐性】と【精神攻撃】。
【物理攻撃耐性】はこれもパッシブスキルのようで戦闘中に受ける物理的なダメージを軽減してくれるスキルらしい。
原理がさっぱり分からない。
何にしても【物理攻撃耐性】と【痛覚鈍化】があれば物理的な攻撃はあまり怖くは無い。
【精神攻撃】は攻撃を受けた相手の記憶に干渉して一番思い出したくない記憶を強制的に思い出させるスキルのようだ。
レイスの攻撃を受けなくてよかった……
スキルも獲得したのであとはウルト任せで8階層を踏破、ボス部屋に突入した。
「ウルト、アイツは?」
『名称ハイレイス、スキルは【物理攻撃完全無効】【精神攻撃】に加えて【魔法攻撃耐性】を有しています』
【魔法攻撃耐性】か……欲しいな。
剣聖は死んだが賢者は生きている。勇者も魔法を使うかもしれない。
奴らを確実に殺すためには必要だな。
「ウルト、トドメは俺が刺す。弱らせてくれ」
『かしこまりました』
ウルトが魔力を纏い疾走する。
ハイレイスは何も警戒していないような佇まいでこちらを見ているのでなにか対抗手段でもあるのかと思ったがあっさりとウルトに撥ねられた。
ボス部屋の壁は透過できないのか壁に叩きつけられ地面に落ちる。
ハイレイスはまだ動けるようでよろよろと浮き上がる。
これなら一撃で屠れるかな?
ウルトから降りて強欲の剣に光属性属性の魔力を大量に流し込み上段に構える。
【天翔閃】を放つと同時、ハイレイスもその腕を振るう。
この距離で何を? とも思ったがもうこちらも技を放ってしまった。
俺の【天翔閃】がハイレイスを消滅させると同時に俺の体を何かが通り抜けた。
瞬間、ケイトが貫かれた姿がフラッシュバックする。
『マスター!』
遠くでウルトの声が聞こえた気がするが反応出来ない。
俺の頭の中ではあの瞬間が何度も繰り返され呼吸も上手く出来ない。
「クリード!」
どこかでリンの声が聞こえた気がした。
その瞬間、頭になにか暖かいものが流れ込んでくる。
「落ち着いて。大きく息を吸って……そうよ、はい、息を吐いて」
何かが流れ込んできたことで少しだけ落ち着いた。
指示された通りに深呼吸わや繰り返すことで頭の中でループしていた映像は止まった。
「落ち着いた?」
「ああ、ありがとう」
どうやらリンの光属性魔法に助けられたようだ。
誰だよ、神器が使えなかったら置いていこうとか言ってたのは……
「まさかあれだけ距離があったのに攻撃を受けるとは思わなかったよ」
「死霊系の魔物は見た目が全てじゃないのよ。覚えておきなさい」
頷きを返してウルトに乗り込む。
攻撃を受けたことで思い出さないように必死に押さえつけていた蓋が外れてしまった。
これは今夜も眠れないかもしれない。
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