第107話 悪巧み

 俺たちが聖都に到着して1ヶ月、俺たちは未だに聖都から出られずにいる。

 ここまで来ると国も教会も絶対に行かせないという感じになって来ていて正直鬱陶しい。


 先日も会議に呼ばれたので「早く行かせろ」とか「偵察だけでもいいから!」など提案してみたが採用されず、未だに待機を命じられている。


 こっそり抜け出して勝手に行こうとした事もあるがことごとくサーシャに発見されお説教を受ける毎日だ。


 最近は国も教会も明言はしないが「王国の勇者失敗しろ」といった空気になっていてサーシャを生贄に勇者召喚を行いたいというのが透けて見えなくも無い。


 そうなるとアンドレイさんからの圧力が強くなるので非常に居心地も悪いのだ。


 ……本当にサーシャを攫って逃げてやろうか。


 そのまま魔王領まで走って魔王の生存確認を行い倒れていたらそれでよし、生きていたら帝国に乗り込んで勇者を召喚させる……


 真剣にアリな気がしている今日この頃だ。


 ライノス邸に居るとアンドレイさんからの圧力がすごいので逃げるようにお出かけしたある日、ケイトが俺を追いかけてきた。

 ケイトなら賛成してくれるかな? ちょっと怖いけど話してみようか……


「という感じの計画立ててるんだけどどう思う?」

「いやごめん、何の話?」


 それもそうか、リンたちは当然知っているだろうけどケイトは俺と同じで知らなかったのだろう。


 俺は以前アンドレイさんから聞いた話をそのままケイトにも話した。

 サーシャは勇者昇召喚を行えば死ぬ。

 切り札である【聖女の祈り】を使用しても死ぬという話は初耳だったらしく驚いている。


「俺はサーシャを死なせたくない。だから攫おうかなと」

「それから魔王の生死の確認、生きていたら帝国の聖女に召喚させて帝国の勇者とサーシャと一緒に魔王を倒そうってことだね」

「そういうこと」


 そこまで話すとケイトは少し悩む素振りを見せた。


「それだと帝国の聖女さんは死んじゃうよ? クリードくんはそれはどう思うの?」

「正直言って心苦しいし申し訳無いとは思う。けど帝国の聖女とサーシャなら迷わずサーシャを選ぶ」

「そっか、そうだよね……」

「まぁ勇者が倒してくれてたら全部解決なんだけどね」


 ハハ……と苦笑い。

 そうは言ってみたけどなんかあの勇者って頼りにならない気がするんだよな。


「いいと思う。僕は全面的に賛成だし協力するよ」


 ケイトの試案顔を見てこれは断られるかと思っていると賛成の言葉が返ってきた。


「ほかの3人はどうするの?」

「うーん……リンは引き込めるかもしれないけど、ソフィアとアンナは『サーシャ様が望まれるのなら……』とか言って反対しそう」

「なんか想像できたよ……サーシャさんはこの計画聞いたら絶対反対するよね」

「やったら恨まれるだろうし、勇者が魔王に負けてたら帝国に乗り込むから大悪党だよ」

「ハハ、そうだね」


 ケイトは軽く笑ってるけどそれでいいのか?


「話を戻すけどさ、クリードくんはその……サーシャさんを抱かないの?」

「それは……本当に最終手段かな……まず絶対同意の上でっていうのは無理だろ?」

「それはまぁ……」

「ということは無理やりってことになるけど……それは絶対に嫌だ」


 ケイトは続きを話せとばかりに頷く。


「抱くとしたら全部終わらせてから同意の上で……って違うな、まぁ無理やり抱くより攫うほうがまだ俺の中でハードルが低い」

「ハードル?」


 何それとケイトは小首を傾げている。

 ハードルは通じないか。


「なんて言うか……まだマシみたいな感じかな?」

「なるほど、分かったよ。それでいつやるの?」

「明後日の会議でも行かせろって言うつもり。それを断られたら……その夜かな」

「分かったよ。そのつもりでいるね」


 力強く頷いてくれているが最後にちゃんと確認しておかないと。


「ケイト、いいのか? 間違いなく大悪党、犯罪者になると思うぞ?」

「それでもクリードくんはやるんでしょ? お父さんとお母さんには悪いけど、僕も付き合うよ」


 ケイトは覚悟を決めた目で俺を見つめてくる。


「わかった、ありがとう」


 そこからも2人で意見を出し合って計画を練り上げていく。

 俺だけでは思いつかなかった点をケイトが指摘してくれたのでスムーズに計画は完成した。


「よしこんなもんかな?」

「そうだね、よく出来たと思うよ」


 もう一度最初から確認して穴がないかチェック、大丈夫そうだ。


「まずは明後日の会議だな、そこで上手くまとまればそれはそれでいいし」

「無理だとは思うけど頑張ってみようよ」

「頑張ってみるさ。さてどう転ぶかな」


 頷きあって立ち上がり店を出る。

 上手くいくことを願い気分を上げて楽しげに会話しながらライノス邸へと帰っていく。


 すぐにこの決定を後悔することを知らないままに……

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