第105話 勉強会

「勇者がすでに出発してる?」


 緊急会議に呼ばれていたアンドレイさんとサーシャが戻ってきて俺たちに告げたのは2週間以上前に勇者が魔王を倒すために旅に出たという情報だった。


「2週間ってことは……ちょうどあたしたちと入れ違いになったのかしら?」


 2週間前に王都を発ったとしてリバークまでおよそ1週間、俺たちがリバークを出たのが1週間と少し前だから、俺たちがリバークを出てすぐにリバークに到着してる計算かな?


 王国から見て魔王の支配する領域、通称魔王領は北に位置する。

 そしてリバークは王国でもかなり北にある都市、必ず立ち寄っているだろう。


「それで会議はどうなったんだ?」

「静観するとなりました。今から追いかけても追いつけないだろうと……国王陛下は苦虫を噛み潰したような顔をされていましたね」

「追いつけるって言わなかったのか?」

「言いましたが信じて貰えず……申し訳ありません」

「いや、サーシャが悪いわけじゃないよ。普通は信じられないと思うし」


 ここから丸一日あればリバークまで行けるとか絶対信じて貰えないよな……


「魔王領ってどんな場所なんだ?」

「そうね……草木も生えない荒野がひたすら広がってるとは聞いた事あるけど……」

「眉唾だけど、僕の住んでた村では魔王領にはいくつか魔族の村があって僕たちと同じように生活してるって聞いたことがあるよ」


 ケイトの生まれた村は王国北東部にあるらしくそこは魔王領との境に近い場所にあるらしい。


 魔王領との境にはソイソスという城塞都市がありそこに収穫した農作物を運び込むそれなりの規模の農村でそんな場所にあるからこそ魔王領の情報も少しは入ってくるのだとか。


「ふぅん……なら今勇者たちはその城塞都市辺りかかしら?」

「ガーシュで聞いた話だとよく休むそうだし、まだ着いてないんじゃないか? 下手したらまだリバークに居るかもね」

「……有り得そうね」


 あら? 冗談のつもりで言ったんだけどみんな苦笑いしてる……

 まぁ俺もちょっとは有り得そうって思ったけどさ。


 この日は時間もいい時間になっていたので解散、翌日からもまた待機だ。

 サーシャやアンドレイさんを通じて2日もあれば魔王領まで行ける、追いつけると国や教会に伝えてもらったが結果は変わらずに待機命令だ。


 さらにアンドレイさんからはまだ? という目で見られるし落ち着かない。


 今では暇すぎてサーシャに本を借りて勉強までしている。


「こうして帝国は数十年前に教国と帝国の間にあった小国家群を併呑、それから長年にわたって教国帝国は国境を挟んで睨み合っています」

「へぇ……帝国ってやっぱり軍事に力入れてるものなんだね」


 うん、小説とかRPGで見た帝国って感じだな。


「かなり力を入れていますね。帝国によって小国家群が滅ぼされてしまったので今この大陸にある国は北西の帝国、南西の教国、南東の王国、それと大陸中央にあるレイス商国ですね」

「北東は魔王領ってことだよね? レイス商国ってのは初めて聞いたな」

「国と言うより商人の街と言った方が正しいかもしれませんね。3カ国に囲まれた位置にありますから物流の要になっていますね」


 なるほどね、でもそんな美味しい街帝国がすぐにでも食いつきそうなものだけど。


「なんで帝国は商国を狙わないんだ?」

「商国には各ギルドの本部が置かれていますからね。ほらリバークのギルドマスターが昇格の話を本部に……と言ってましたよね?」

「言ってたね、なるほど、だから狙われないってこと?」

「そうですね。商国を攻めた国からは商人ギルドや冒険者ギルドが撤退しますのでかなり国が荒れるかと」

「ふーん……」


 色々あるんだなぁ……


「まぁ……そういった訳で教国は王国に対してあまり強く言えないのです。王国が暗黙の了解を破ったのもこの辺りの事情もあるのでしょう」


 教国は王国に対して強く出れない……それは帝国と睨み合っている状態で王国から攻められでもしたら一気に崩壊するからか。

 教国の国王陛下がこれ以上エルヴニエス王国の発言力を強くさせたくないのもこれが理由か?


 うーん、なんとなく国際情勢は見えてきたけど……

 それでも魔王なんていう人類の脅威が現れたのに一致団結出来ないのか。


 未だかつて召喚された勇者が魔王を倒せなかったことが無いから甘く見てるのかな?

 教会側の人も万が一勇者が負けたら……とは言ってたけど本当に負けるとは思ってないって顔してたし。


 はぁ……これじゃ心配してる俺たちが馬鹿みたいな状況だな……


「よし、キリも良さそうだし訓練してくるよ。サーシャ今日もありがとう」

「いえいえ、お気になさらず。訓練頑張ってくださいね」


 サーシャに礼を言って部屋を出る。

 すれ違う使用人に軽く会釈しながら裏庭に出て【無限積載】から剣を取りだして素振りをする。


 色々なことが頭に浮かんでは消える。

 今は何も考えないようにして無心で剣を振れるようになるまでに少し時間がかかってしまった。

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