第104話 教国の思惑

 アルマン教国聖都に到着してから早1週間が経過した。

 俺たちはまだこの街に足止めされている。


 理由は簡単で、報告を終えたあとの会議で今後の対応についての合意が取れず未だに議論が続いているからである。


 俺たちを勇者パーティに合流させるか否か、その1点で何日も争っているのを見ているのは非常に馬鹿らしい。


 確実に魔王を討伐するために合流させたい教国首脳陣、これ以上エルヴニエス王国の発言力が強まるのも気になるらしい。


 万が一の時のためにサーシャは聖都に居てもらわないと困ると言う教会側。

 なんでも勇者召喚を行うには最低でも聖女のレベルが10以上でないとダメなんだそうだ。

 そのため俺たちを勇者たちに合流させた上で全滅なんてことになるとどうにもならなくなるとの意見だ。


 そもそも1回断られてるんだから無理でしょと言っている人も少なくは無い。


 これだけの意見に別れて争っている。


 俺たちが勝手に動いて勝手に合流するのだけは厳禁だと釘を刺されている。

 なんでもそんなことをするとエルヴニエス王国の面子を潰すことになるので大変よろしくないらしい。


 俺だけなら国際問題にはならないのでは? とも思ったがそもそも追放された身で何を……って空気になったからもう言えない……


 ダラダラと会議をしているけどそもそも勇者たちが出発してしまえば話にならないわけで何をやっているんだと心の底から思う。


 会議が終わらないため聖都から離れるわけにもいかずずっと足止めを食らっている。


 ライノス屋敷に戻るとサーシャはこんなことになるなんて……と謝ってきた。

 だけどサーシャは悪くないと思うよ。


「帝国にも聖女はいるのですからそこまで私にこだわる必要は無いはずなんですけどね……やはりこれも教国が召喚した勇者が世界を救ったと言いたいがための方便でしょうね」

「自国の召喚した勇者が魔王を倒すってそこまでなんだね……ところでそれならなんで王国が召喚してすぐにここや帝国は召喚しないの?」


 ふと思いついた疑問を聞いてみる。


「それは一応暗黙の了解というか、前回魔王が現れた時は帝国が召喚、王国の聖女が同行して魔王を討ったのよ。だから今回は王国が召喚、教国の聖女、つまりサーシャちゃんが同行する順番だったのよ」


 ここでもローテーションかよ……


「明確なルールなわけでは無いのですよ、ただいつからかそういう暗黙の了解が出来たそうです」


 なるほど、王国はそれを破った、そして教会としては王国の勇者が失敗すれば次に召喚するのは教国……

 レベル10以上の聖女が居ないと召喚出来ないなら万が一にもサーシャを失うことは出来ないってことか。


 反対に教国としては暗黙の了解を守らせるためにもサーシャを参戦させたいのだろう。


「なんとなく分かってきたよ、ありがとう」

「どういたしまして。それで分かってきた異世界の勇者クリードはこれを聞いてどう思ったのかしら?」


 ニヤニヤとなんだか面白そうにリンが聞いてくる。

 俺の答えは変わらない。


「くだらないなって。魔王って人類の、世界の脅威だろ? 面子だの順番だの気にしてるなんて平和ボケかよって思ったね」


 俺としては俺の仲間のサーシャが死ぬ可能性があることが許せない。

 なんなら王国の勇者が失敗したらサーシャを攫って帝国に乗り込んで帝国の聖女に召喚させてもいい。

 サーシャが生き延びることができるなら俺が悪評を被るくらい問題はないしな。


 だからサーシャを抱くのはナシの方向で……


「あたしもそう思うわ」

「僕も……そう思うよ」


 俺たちがいくらおかしいと思っても変わらないんだろうな。


「それならいっそ俺たちで魔王倒しちゃう? サーシャの【聖浄化結界】とウルトが居れば倒せるんじゃない?」

「ふふ、それは面白いかもしれませんね」

「あら、あたしは賛成よ?」

「ねぇクリードくん、それじゃ僕もリンもいらなくない?」


 軽い冗談で場を和ませることに成功、これで重苦しい空気はどこかへ行ったな。


「さて……それでいつになれば結果は出るのかな?」

「さぁ……こればかりはなんとも……」

「下手に結論出るのが遅くなると勇者出発しちゃうんじゃない?」


 もう暇で暇でたまらない。

 リンの言う通りこのままここで待っていてもその間に勇者が出発しそうな気はする。

 というよりグレートビートルを討伐して自信をつけたのならもう出発しててもおかしくないとすら思う。


「せめてもう少し自由があれば……迷宮でも攻略するんだけどなぁ」


 元々迷宮が溢れ出しオーバーフローしていないかの確認もしたかったしね。


 してないならしてないで安心だし、これだけ時間があれば攻略も出来たと思う。


「今聖都から離れるわけには……」

「そうだよなぁ……」


 ちなみにアンドレイさんからはここの迷宮の攻略は控えて欲しいと言われているから行ったとしても攻略はしない。


 なんでも教会の騎士や国の兵士のレベルアップに活用しているので経験値を得られなくなるのは困るそうだ。


 特に素材となる魔物もいないのでほかの迷宮のように攻略してしまうと本当に価値が無くなるんだって。



 それから数日、街から出ることも出来ず観光や訓練、たまに会議に出席したりして過ごしていた俺たちにとある報告がもたらされた。

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