第103話 くだらない理由

「クリード様おはようございます」

「あ、う、うん、おはようサーシャ」


 ヤバい、昨日あんな話を聞いてしまったからかまともにサーシャの顔が見れない……


 サーシャは少し不思議そうに俺の顔を覗き込んで来てるけどやめて欲しい……


「さて、今日はどうしますか?」


 朝食を終えて食後のコーヒーを味わっていると今日の予定を尋ねられた。

 近々国や教会の重鎮を集めた報告会が行われるそうなので聖都から離れる訳にはいかない。

 とはいえ聖都内でやることなんて……


「そうだ、リンたちは実家とかに顔出さなくてもいいのか?」


 自分のやることなんて思いつかないがリン、ソフィア、アンナの3人は教国出身、せっかく戻ってきたのだから顔くらい出さなくていいのかな?


 リンだけは嫌そうな顔をしていたが……


 サーシャも実家にいるし最悪俺とケイトも居る、護衛の心配は無いとの事でリンたちは一度実家に顔を出すことにしたようだ。

 さて俺はどうしようかね……


 サーシャも自室で報告会の資料を作成すると言って戻ってしまった。

 今はケイトと2人きり……いや使用人が隅で控えてるから2人きりってわけでもないか。


「ケイトはどうするんだ?」

「んー……僕は特にやることないかなぁ……」


 コーヒーのお代わりを貰いしばらくダラダラ過ごす。


「……ケイト、訓練でもしようか」

「うん、そうだね」


 結局やることが無くていつも通りに訓練を行う。

 ただ公爵邸の裏庭を借りての訓練なので軽くだ。


 昼食の後はサーシャもまとめ終わったのか会話に混ざってきた。

 時折エレーナさんが顔を出して話に入ろうとしてきたり……

 そんなこんなで1日を過ごしているとリンが戻ってきた。


 あれ? 実家に滞在するんじゃないの?


「戻ったわ、やっぱり胸糞悪いから顔なんか出すんじゃなかったわ……」

「おかえりリン。そんなに仲悪いのか?」


 怒っているというより疲れ切った顔で戻ってきたリンに質問してみる。


「仲は……まぁ悪いわね。親も兄弟もみんなあたしに嫉妬してるのが分かるから肩身が狭いのよ……」


 よくよく聞いてみると、リンの実家ヒメカワ家というのは優秀な魔法使いを多く輩出している伯爵家らしい。


 リンも大概お嬢様だな……


 当主と次期当主は2人とも就職の儀で賜った職は魔道士。

 魔法使いとなったリンは当時は鼻で笑われたそうだ。


 だが魔法使いでありなから明らかに父や兄を超える才能を持っていたリンに対して風当たりはさらに強まったらしい。


 父と兄はさっさとリンを嫁に出そうとしたらしいが嫌がったリンほ家を飛び出して冒険者になった。

 そこであっという間にソロでシルバーランクまで上り詰めたリンはその実力と家柄を買われて宮廷魔法使いとして国に迎え入れられた。


 その中でも実力を発揮して女性宮廷魔法使いの中で最強となりサーシャの護衛の任に付くことになったそうだ。


 なんというかリンにも色々あったんだなぁ……


「それで大魔道士になったから初代の残した神器を扱えるか試させろって言ったんだけど、喧嘩になったから飛び出してきたわ……」

「なんかお疲れ様……初代の残した神器って?」


 話を聞いている中でとても興味深いワードが出てきた。


「言葉通りよ。ヒメカワ家初代マナブ・ヒメカワが使っていた神器が家宝として残ってるのよ」

「へぇ……てっきり国が教会に寄贈してるものかと思ったよ」


 各家で保管してるもののんだね。


「そうね、元の世界に戻った勇者やその仲間の神器はそうやって寄贈されている物もあるけど家のご先祖さまみたいにこっちに残った人の神器は家宝として代々引き継がれていることが多いわね」


 なら俺が残った場合ウルトが引き継がれていくのかな? うるさいよ?


「でもその神器を使えるか試すってのは?」

「今までは初代しか扱えなかったけど、大魔道士になったあたしなら使えないかな? って思ったのよ。あたしがその杖を使えればあたしもクリードとケイトみたいに魔王と戦えるようになるからね」


 神器で無ければ魔王を倒せない、だったか。

 確かにリンがその神器、杖を使えたらもしも勇者たちが失敗しても勝算はあるな。


「それ俺も一緒に行って頼んでみようか?」

「無理よ無理。あの人たちプライドだけは高いんだから」


 プライドねぇ……

 魔王の脅威を払うことより大切なものなのかね?


「魔王討伐を確実にするならさ、俺が勇者たちと共に行くのが一番だと思うんだけど」


 昨日も考えていたことだ。

 アンドレイさんから話を聞いて当然俺もサーシャを死なせたくないと思った。

 そのために抱けというのは正直どうかと思ったけどね。


「確かに確実性は大幅に上がるかと……」


 サーシャは言葉では肯定してくれているが難しそうな顔をしている。


「クリードくんが行くなら僕も行くよ。強欲の剣なら魔王とも戦えるし」

「確かにそれが一番可能性は高いけど、国同士の話になるから難しいと思うわ。王国もそれを認めるくらいなら初めからサーシャちゃんの同行を認めるだろうしね」

「リンさんの言う通りです。残念なことですが……無理やりにでもついて行って魔王を倒したとしても今度は教国と王国の戦争になる可能性もあります」


 ……この世界のお偉いさんってどうなってるの?


「クリード、なんとなく考えてる事は分かるけど、勇者が魔王討伐に失敗した事例は無いの。だから国同士の面子って話になるのよ」

「王国が勇者を召喚して聖女も用意した……ここに教国の私やリンさん、追放されたクリード様が加わるとなると王国の面子を潰すことになりますから」


 なんとも無責任な話だ。

 そもそも面子がどうのこうのって勇者は自国民ですら無いでしょうに……


「僕はそういうのはよく分からないけど、そんなことで争うくらいなら早く魔王を倒して欲しいよ」


 ケイトの発言でサーシャとリンも神妙な顔で俯いてしまう。

 多分2人も思うところはあるんだろうな。


「一応……報告会で聞いてはみますけど……」

「多分無理だと思うわよ」


 2人は大きくため息を吐いた。

 うん。俺もそんな気がしてきたよ。

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