第92話 強化
「な……本当に!? 本当に攻略されたのですか!?」
「はい。最速で向かった為に地図や出現する魔物などのリストは完成していませんが……」
魔物リストは進行中に書いておいたものを、地図はウルトの【万能感知】を利用したマップを適当に紙に書き写したものを提出、適当に書いただけなのにその完成度にさらに驚かれてしまった。
「す……すごいですね……」
「すごいのは俺じゃなくて神器ですね。神器が無ければ攻略は不可能です」
これは謙遜ではなく事実だ。
純粋な魔物の強さも問題だが虫系の魔物ということで女性陣が本来の力を発揮することはまず無理だろうし、少なくとも9階層のボス、巨大ムカデには勝てるビジョンが浮かばない。
迷宮の主のあの悪魔にも勝てる気がこれっぽっちもしない。
マンモンがどれだけ手を抜いてくれていたのかよく分かったな。
「それでは報酬のお話ですが……」
「はい」
白金貨10枚だよな? すごく言いづらそうな顔してるし用意できてないとか?
「申し訳ありません。まさかこんなに早く攻略が完了するとは思っていませんでしたので……」
まぁ早すぎるよね……
「今朝使いの者を王都に行かせたので……お支払いは早くても明後日以降になってしまうかと……」
額に汗を浮かべながらそう説明してくるが別に構わない。
「じゃあ数日後ということで……それでフライングビートルの討伐は進んでますか?」
「すみません……ありがとうございます。討伐の方は順調に進んでいます」
待つと伝えるとジェイクさんはホッと安堵のため息を吐いた。
討伐も順調か……ならば一旦リバークに戻っても大丈夫かな?
ギルドマスターに依頼達成も伝えないとだしね。
「なら俺たちは1回リバークに戻りますね、数日中には戻ってきますので」
「リバークまで? かしこまりました」
それからいくつか話をしてジェイクさんと別れてリバークまで戻ることにした。
街を出る前に避難民の集まる区画に顔を出す。
俺たちは遺体発見や葬儀などでで何度も顔を合わせているためか歓迎してもらえた。
そこで気になっていたこと……俺たちが保護した子供たちのことを聞いてみた。
「あの子たちでしたら偶然この街に血縁者が居ましたので今はそちらに引き取られています」
との事、よかった、頼れる大人が居たようで何よりだ。
さて気がかりはひとまず解決したので出発しよう。
時刻は昼過ぎ、夕方には到着するだろう。
『マスター、ご報告があります』
「なに?」
ガーシュを出てウルトに乗り込んですぐ報告があると言ってきた。なんだろ?
『実はあの悪魔との戦いで新たな能力を得ました。マンモン様と同じく経験値は無かったのかマスターのレベルは上がっていません』
ん? 俺のレベルが上がってないのに何かを得たの?
勝手に成長するシステムも導入したの?
「どんな?」
『はい、何度も魔法を受けたことで魔法を解析しました。魔法の使用が可能となりました』
「へ?」
魔法? ウルトが?
『ただし放出は出来ません。悪魔と戦っていた時のように車体に纏わせての使用となります』
「いやそれでも……」
攻撃力激増じゃない?
「ウルトさんにも強欲の剣みたいな能力があるの?」
『いいえケイト様、私にはそのような力はありません』
むしろ何で無いのに使えるようになってるんだよ……
『強欲の力の言うなれば【奪う】能力です。私が行ったのは【奪う】事ではなく【学習】です』
学習って……
「今までしてこなかったのは?」
『学習するには解析してかつその攻撃を受けることが必要となります。今までは学習できる攻撃を受けておりませんでしたので』
そういえばウルトが魔法受けたの初めてか……今まで魔法を使う魔物って居なかったし。
「なるほどわかった、他には?」
『魔法を習得したことでマスターの【空歩】と魔法を組みあわせてある程度の距離ですが空中を走ることの出来るスキル【天駆】を習得しました。マスターにもフィードバックされているのでマスターの【空歩】も【天駆】に進化しています』
「わぁお……」
空歩って確か空中を一度だけ蹴れるスキルだったはず、1回も使ってないスキルなんだけど進化しちゃったのか……
「魔法を受けたら覚えられるならあたしが使ってあげたのに」
『リン様、これまでは特に必要と感じておりませんでしたので』
「確かにウルトが魔法を使わないといけない場面って無かったわね……」
これからもあんまり無いと思うけどね。
しかし今回の迷宮攻略はケイトが強欲の剣を使って強化されるイベントだと思ったけどまさかの俺とウルトが強化されるとは……
事実は小説よりも奇なりってやつだな。
雑談したり食事したり、ゆったりとした時間を過ごしながら移動して予定通り日が落ちる前にリバークに到着した。
見知った門兵に片手を上げて挨拶、顔パスで通してもらい冒険者ギルドへと移動する。
「この時間は多いな……」
冒険者ギルドの扉を開けて中に入るとそこには大勢の冒険者たちが居て受付に並んでいたり飲食スペースで飲み食いしていたりた様々な過ごし方をしていた。
「これは結構待つかもね」
「別に急いでるわけでもないしいいんじゃない?」
それもそうだなと受付の列に並ぼうとしたところで「クリードさん!」と声を掛けられた。
「ん? ディムたちじゃん、久しぶり!」
「戻ってきていたのか、クリードさんたち自由の翼がグリエルに向かったと言うのは聞いていたし心配していたんだが……」
「そうなんだ、ありがとう」
心配してくれていたのは素直に嬉しい。
「しかし1週間ほど前に出立したと聞いていたのだが……」
あれ、ディムたちってウルトのこと知らなかったっけ?
「まぁ大っぴらに言うのはあれだけど……」
俺が周りに視線をやるとディムは察したらしく一度頷いて話題を変えてくれた。
「せっかく会えたんだ、食事でもどうだろうか?」
「いいね、みんなは?」
仲間を見ると全員首肯する。ギルドマスターは明日でいいや。
「じゃあどこにする?」
「いや……クリードさんギルドに用事あるんじゃないのか? それくらい待つぞ?」
「明日でいいよ。多分長くなるしね」
アポだけでも取ろうかと思ったが並ぶのもね……
明日の朝冒険者の少なそうな時間に訪ねてその時無理なら約束取り付けといたらいいだろ。
ジェイクさんならともかくここのギルドマスターならそんな扱いで大丈夫だ。
「まぁクリードさんがいいならいいが……」
いいんだよ、普通だったらまだグリエルにたどり着いても無いくらいだから。
俺たちは連れ立ってギルドを後にしてどこで飯を食うか話しながら移動した。
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