第91話 迷宮の主

 扉を開き中に入ると、広い部屋の中心に1体の悪魔が直立不動の姿勢で立っていた。


 少し前に進むとリバークと同じように勝手に扉が閉まる。

 そして扉が閉まると同時、悪魔が動き始めた。


 最初はゆっくりと、しかし徐々に動きは早くなり数歩分進む頃には目で追うのがやっとの速度に達しそのまま殴りかかってきた。


 ドゴン! と凄まじい音と共に襲ってくる衝撃。


「うおっ!」

「キャア!」


 テーブルの上のカップが倒れお茶が零れる、立っていたソフィアとアンナは壁に手を着いて体を支えている。


「ウルト、大丈夫か!?」

『申し訳ありません。フロントに多少ダメージ、すぐに直りますので問題ありません』


 ウルトに守られていてもあれだけの衝撃、あの攻撃をまともに受けたらひとたまりもないだろう……


『マスターの愛車たる私にこれだけの傷を……万死に値します』


 初めて感じるウルトの怒気。

 ウルトに怒りの感情ってあったんだな……


 ウルトは先程の攻撃で数メートル後退している、悪魔は攻撃を繰り出したあとバックステップで距離を開けている……

 ウルトが加速するには十分過ぎる距離がある。


 次の瞬間、景色が切り替わっていた。

 ウルトの全力での加速、全速力での体当たり、まさに瞬く間に悪魔に迫り撥ね飛ばしていた。


 間違いなくウルトの全力攻撃。

 それを受けた悪魔は……空中で姿勢を整え着地、すぐに駆け出しウルトに向かって殴りかかってくる姿がはっきりと見えた。


「ウルト!」

『問題ありません』


【瞬間加速】をバックに使ったのか瞬時に悪魔との距離を広げて空振りを誘う。


 攻撃直前に対象が消えたことで悪魔はバランスを崩す。

 その隙をウルトが逃すわけもなく攻撃、再び悪魔を撥ね飛ばした。


 今度は姿勢を立て直すことが出来なかったのか悪魔は背中から地面に落下、しかしすぐに立ち上がる。


 口を大きく開き顔を上に向ける、なあにやら咆哮をあげているようだか俺たちには聞こえない。


「あれは……」

「魔法……みたいね」


 悪魔を注視していたサーシャとリンが冷や汗を垂らしながら呟く。

 じっと目を凝らして見てみると膨大な量の魔力が悪魔の両手に集まっているのが視えた。

 真っ黒な炎、アレはヤバそうだ。


 悪魔はもう一度咆哮するように動いてから魔法を放つ。

 黒い炎は空気を巻き込んで居るのか大きくなりながらこちらに飛んでくる。


「ウルト!」

『なにも問題ありませんマイマスター』


 回避と続けようとしたがそれはウルトに遮られてしまう。

 さらにウルトは回避するどころか黒い火球に向け突っ込んでいく。

 なんで!?


 声を出す間もなくウルトと黒い火球は接触、火球は道を開けるかのように真ん中が開いた。


 だからなんで!?


『【魔力霧散】の効果です。このまま突っ込みます』


 言葉通りそのまま……黒い炎を纏ったままウルトは悪魔に突進。

 ぶつかると同時に黒い炎も操り同時に叩きつけた。


 なんでだよ……【魔力霧散】の効果で魔法を無効化するのは分かるけどなんで操ってるんだよ……


『マスターの技である【魔法剣】の応用です。マスターは実にいい技をお持ちですね』


 おかしい、絶対におかしい。

 俺の魔法剣は決してそんな技では無い。


 炎と共に撥ね飛ばされた悪魔は再び地面に落下、よろよろと立ち上がり今度は黒い稲妻を放ってくる。

 ウルトは先程の炎と同じように稲妻をその車体に纏い体当たり、悪魔は手を替え品を替え氷、水、岩などを放ってくるがウルトには一切ダメージは通らない。


 魔法が通用しないことが分かってないのだろうか? やはりマンモンとは違い自我は無いようだ。


 20回ほどだろうか、それだけの回数の体当たりを受けようやく悪魔は沈黙した。


『魔力反応の消失を確認、討伐完了です』

「お疲れ様でした……魔力反応?」

『はい。この者に生命反応はありませんでしたので魔力反応での確認となりました』


 つまり生命体では無いのか?


「マンモンにも生命反応無かったのか?」

『はい。ありませんでした』


 そうなんだ……マンモンは神に創造されたと言っていたし俺たちみたいな生物とは違う理の存在ってことか……


「クリード様、魔法陣が出現しました」


 サーシャの声に反応して部屋の中央を見るとリバークと同じように魔法陣が出現している。

 あれを踏めば地上に戻れるのだろう。


「クリードくん! 悪魔が!」


 ケイトの叫びに驚きながら振り向くと、悪魔の死体がなにやら赤い光の玉に変化しているのが見えた。


「なにあれ……」

「分からないけど……凄まじい魔力を感じるわ」


 攻撃? いやしかし嫌な感じはあんまりしないな……


『害はなさそうです』


 どこで判断してるの?


 話している間に悪魔は完全に赤い光球へと変化した。

 ふわふわと漂っている光球を見てちょっと綺麗かもしれないと思っていると、いきなりこちらに向かって飛んできた。


 なんかあってもウルトが弾いてくれる、そう思って見ているとなんと赤い光球はウルトをすり抜けて俺目掛けて飛んできた。


「うわ!」

「クリード様!?」


 すぐ近くにいたサーシャは驚いたように叫ぶが光球は俺の胸に吸い込まれるように消えていった……


「クリード様大丈夫ですか!?」

「うーん……異常はないと思うけど……ん?」


 なんだか左腕に違和感、何かに巻き付かれてるような……


 着ていた鎧と作業着を【無限積載】に積み込んで左腕を見てみると、二の腕部分に見覚えのない腕輪が装着されていた。


 なんぞこれ?


「これは……さっきの赤い光が原因かしら?」

「クリードくんこれキツくないの?」


 リンは興味深そうに、ケイトは心配そうに腕輪を見つめている。

 ソフィアとアンナは若干俺から離れたような……傷つくぞ……


「うーん……キツくも痛くもないよ。ウルト、鑑定頼む」

『かしこまりました』


 少しだけ間が空いて鑑定が終了したようだ。

 スマホの画面を開いて確認すると……



 ◇◆


 憤怒の腕輪


 神器級装備。


 この腕輪は装着者が死亡するまで外すことは出来ない。


 装着した時点で筋力に補正がかかる。


 装着者の怒りの感情により補正値は上昇する。


 装着者と敵対するものは怒りの感情が湧き上がり冷静な判断を下すことが出来なくなる。


 ◇◆


「外すことが出来ないって……呪いの装備かよ……」


 スマホの画面から腕輪に視線を移して右手で触ってみるが腕輪の感触はしない。


「あれ?」


 何度触ってみても腕輪を透過して自分の腕の感触しかしない。

 左腕の方も触られている感触があるので腕輪は見た目だけ?


「クリード、ステータス開いてみてくれない? 筋力の補正が反映されてるかもしれないわよ」

「確認してみようか、ステータスオープン」



 ◇◆


 名前……レオ・クリイド レベル71

 職業……トラック運転手

 年齢……21

 生命力……A 魔力……B 筋力………A+ 素早さ……B

 耐久力……A+ 魔攻……C 魔防……B


 スキル

【トラック召喚】【トラック完全支配】【魔法適性(雷、氷、水、風、光、音)】【瞬間加速】【瞬間停止】【自己再生】【魔力吸収】【気配察知】【剣術(上)】【直感強化】【知覚強化】【金剛力】【魔力視】【魔力撃】【無限積載】【鉄壁】【空歩】【弱点看破】


 ◇◆


「レベルは71か、筋力に+が付いてるな」

「ほら見て、スキルも変化してるよ! 【剛腕】が【金剛力】になってる!」

「【堅牢】も【鉄壁】に変わってるッスね」


 AからA+になったのは補正か、スキルの変化も腕輪の影響だろう。


「凄いじゃない、クリード2つ目の神器よ?」

「2つあってもなぁ……筋力増加ならケイトかソフィアでも良かったと思うんだよね」

「僕も神器級装備は強欲の剣があるし……」

「なんで俺に来たんだろ?」


 あの赤い光の玉は明らかに俺に向かって飛んで来た。

 確かに能力的には俺にピッタリであるとは思うけど……


「考えても仕方ありません。私ではなくクリード殿に与えられたのも何らかの意味があるのかと」

「確かにそうね。ソフィアの言う通りだと思うわ。さて……もうやることも無いし戻りましょう」

「それもそうだね。ウルト、ガーシュに戻ろう」

『かしこまりました』


 俺たちは魔法陣を使って地上へ転移、まっすぐガーシュへと帰還した。

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