第87話 巡回
「リリオット!」
「リンじゃない! どうしてここに!?」
半日ほど掛けてグリエル周辺のカブトムシを潰してからソトルに到着。
ソトルの冒険者ギルドを訪れてリリオットのことを聞いてみるとビンゴ、ソトルまでなんとか逃げ延びていたようだった。
リリオットと再会を喜びあっているリンを残して俺たちはギルドマスターと面会、まずはグレートビートルが討伐されたことを伝えて避難民の確認。
ここにもかなりの数の避難民が逃げ込んでいるらしいので明日の朝街の広場に遺体を降ろして確認してもらう手筈を整えてもらう。
それからやはりここでも流通が停滞しているため魚は獲れるが肉や野菜などは余裕が無いようなのでガーシュと同じ条件で魔物を卸すことにした。
今日はギルドが用意してくれた宿で泊まることにしてウルトも休ませる。
ウルトは大丈夫だと言っていたがここ数日走りっぱなしだったのだから少しは休ませないとダメだと思う。
宿の場所を聞いて移動しようとするが、リンはまたリリオットと話し込んでいる。
まぁ10年近く会ってなかったようなので積もる話もあるのだろう。
一応宿の場所だけ伝えたが個人的にはリリオットの夜通し語り合ってもいいと思う。
5人で宿に戻り食事を摂る。
あまり食材の無い中でも俺たちがやった事、やっている事を聞いた宿の主人はかなりのご馳走を用意しようとしてくれた。
気持ちは分かるが申し訳ないな……
「これも使ってもらえる? 余ったら宿のみんなで食べてくれて構わないから」
「そ、そんな……」
ハイオークの肉の塊を2キロほど取り出して固辞する主人に笑顔で俺が食べたいからと押し付けることでなんとか受け取って貰いそれも夕食として調理してもらう。
「うん、美味い」
「クリードさんはお人好しッスね」
「僕もそう思うよ」
アンナとケイトはケラケラ笑いながらそんなことを言い出した。
「俺は美味い肉が食いたかっただけだよ。魚も美味いけど肉が食いたかったんだ」
「ふふ、そういう事にしておきましょうか」
穏やかな雰囲気での夕食を終え部屋に戻る。
この宿には部屋に浴室があり久しぶりの風呂を楽しむことができた。
ゆっくりと浸かりしっかりと疲れを癒し鋭気を養った。
翌日起きて食堂に降りるとリンが戻ってきていた。
「おはようクリード」
「リンおはよう。もういいの?」
「えぇ。ありがとうね」
この数日思い詰めた表情の多かったリンだが今日のリンは清々しい表情を浮かべている。
心配事の1つが解決してスッキリしたのだろう。
「さて……」
食事も終えたのでそろそろお仕事の時間だ。
避難民には9時頃に広場に集まってもらうように手配したと聞いているのでそろそろ向かった方がいいだろう。
「行きましょう」
サーシャは依頼や迷宮に潜る時とは違いいかにも聖女という装いをしている。
神聖なオーラというかなんというか、サーシャに祈ってもらえれば安らかに逝けそうだと感じた。
全員の準備が整ったので街の中央広場へ。
辿り着くとそこには思ったよりも多くの人が集まっていた。
これは避難民だけでは無いだろう。
近隣の村やグリエルに知り合いや家族がいた人も多いんだろうな。
ギルドから派遣されて来ているであろう職員に案内されて1体1体丁寧に遺体を取り出して並べていく。
その作業中、サーシャはソフィアとアンナに護衛されながらも祈りを捧げる。
広場に集まった多くの人がサーシャに倣って祈りを捧げている姿は圧巻だった……
それから数時間、避難民と住民による遺体の確認が終わるまでサーシャは祈ることを辞めなかった。
未だに身元の分からない遺体を再度【無限積載】に積み込んで出発準備、次はパーペットか。
ここでも多くの人に見送られながらの出発となりなんとも言えない気持ちだ。
あなたたちこそ英雄だ! などと言われたが嬉しくはない。
英雄願望が無いとは言わないがこんな凄惨な事件が起こらなければ英雄なんて必要無いのだから。
出発直前にはパーペットに行くならついでに魚を運んでもらえないかと打診を受けた。
もちろんギルドからの依頼であり報酬もある。
運ぶのは構わないし無料で大丈夫なんだけど……
報酬はいらないと断ってみたがこのような時だからこそ報酬は受け取るべきと押し切られてしまった。
被災地での崩壊した物流を自分が担うのはトラック運転手としてはむしろ誉れだ
ボランティアで構わないと思ったけど……甘やかすなと言うことか。
これ受け取らないとあちらの顔が立たないな……
依頼を受けて出発、次の目的地はパーペット。
道中現れるカブトムシを言葉通り踏み潰しながら進み完全に日が落ちる前に辿り着くことが出来た。
街の近くでは街付近まで近付いてきたカブトムシと戦う冒険者の姿もあり少し援護してグレートビートルが倒されたことを一応伝えておく。
これ以上新たに迷宮からカブトムシが湧いてこないことを伝えると冒険者たちは一様に安堵したような空気になっていた。
張り詰めることは大切だけど張り詰めすぎると無駄に疲れるからね、適度に気を抜いて欲しい。
街に入ってその足でギルドに向かい預かった魚を納品、報酬を受け取りギルドマスターへの面会へと流れるように進んだ。
「はじめまして。パーペットのギルドマスターを努めますメイと申します」
「こちらこそはじめまして。ミスリルランク冒険者パーティ自由の翼リーダーのクリードです。こちらがパーティメンバーの……」
パーペットのギルドマスターは女性のようだ。日本出身の俺からすれば特に違和感は無いがリンなどは女性の身で……と驚いているようだった。
冒険者には女性は多いけどこういった組織の中で出世する女性は少ないのかな?
軽い自己紹介と雑談を混じえて場を温めてから本題へ、どうやらガーシュやソトルほど食料には困っていないようだ。
この辺りはグリエルから割と離れているため被害は軽微、避難民もここまでは来られなかったようだ。
先程街の外で戦っていたように数匹〜数十匹くらいで襲ってくるカブトムシがいるので油断は出来ないらしいが……
「緊急支援物資の運搬をお願いできませんか?」
メイさんから頼まれたのはこれだけだった。
街や周囲の村の防衛は現状問題は無い、被害の大きい街に支援したいがそこまでは手が回らないと……
まぁ普通の商人や冒険者じゃこのカブトムシの中物資を運びながらの移動は不可能だろう。
「承ります」
俺たちならば問題無い。むしろ得意分野だ。
職員の案内で物資を積み込んで俺たちはパーペットでは宿泊せずそのままガーシュへと戻ることにした。
まだ昼過ぎだから十分日が落ちる前に到着出来るからね。
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