第88話 迷宮内訓練

 数日掛けて3つの街を巡回して支援物資の運搬、遺体の確認をしてもらった。


 途中一度リバークまで戻って追加で食料も運んできたのでこちらの食料不足もかなり改善された。


 遺体の方も多くは家族、親戚、知人の元に帰すことが出来た。

 半数ほどは未だ身元が分からないため合同葬儀という形でサーシャに送ってもらうことで話が纏まっている。


 勇者たちがまだ滞在していれば聖女ベラに手伝いを頼もうかと思っていたがグレートビートル討伐の翌日にはガーシュを発ち王都に戻ったようなのでサーシャが1人で執り行うこととなった。


 これにも3日ほど掛けて執り行い恙無く葬儀を終えることが出来た。


 さて、これで一段落ついた。

 まだフライングビートルは完全に殲滅が完了した訳では無いがそれでも相当数倒したのであとは他の冒険者に任せても大丈夫だろう。


 俺たちはガーシュギルドマスタージェイクのもう一つの依頼、迷宮攻略に着手することにした。


 しっかりと準備を……とはいえ準備するものは食料くらいのものである。

 一応解消したとはいえこの辺りで調達するのもアレだと思ったので王都へ行き王都の市場で買い物を済ませた。

 ついでにギルドにも寄ってたくさんある手形を全て換金したので懐も大変暖かい。


 正直数えていないのでいくら持ってるのか分からない。

 途中までは分配もしっかりしていたのだが「多すぎるからクリード持ってて、手持ちがなくなったら適当に貰うから」と分配まで放棄された。


 今度ウルトに数えてもらおう。


「さて、準備も出来たし早速行こうか」

「そうですね。なんだか久しぶりな冒険な気がしてワクワクしますね!」


 サーシャはやる気に満ちている。

 ここ最近の聖女然とした立ち振る舞いをずっとしていたからストレス溜まっちゃったのかな?


 まぁ冒険と言ってもウルトに乗ってるだけなんだけどね……


 他愛もない話をしているうちに迷宮に到着、ウルトから降りることも無くそのまま突入する。


 前回、リバーク迷宮を進んだ時はローテーションを組んで順番に前の席に乗っていたが今回は誰も乗らない。


「だってここ最近ずっとウルトで移動してたしその時にたくさん乗ったから満足よ」

「それにここ見えるのむ虫ばかりだから逆に見たくないッス」


 なるほど、若干飽きたし虫を見たくないって理由なのね……


 1階層に出現する魔物はイモムシ、魔物としての名前は知らないが30センチはありそうなデカいイモムシだった。

 もちろんなんの脅威にもならず踏み潰して終了、ボスは成長したのか大きな蛾だったがあっさりと終わってしまった。


 2階層にはもはやお馴染みのカブトムシ、グリエルに来た時ほどの数がいる訳もなくスイスイと進んでいく。

 ウルトの【万能感知】で地形すらも把握出来るのでもはやただ移動しているだけである。

 ボスは少し大きなカブトムシとクワガタが10匹ほど。

 普通の冒険者にとってはそれなりの強敵かもしれないがウルトにとっては路肩の石の方が邪魔なのでは? くらいの雑魚である。


 そのままの勢いで3階層、4階層と突破。

 その間俺たちはあーでもないこーでもないと雑談しながらお茶を啜っていただけで何もしていない。


 一応どんな魔物が出るのかな? くらいの感じでたまに前を見るくらいである。

 サーシャには悪いがこれは決して冒険では無いと思う。


 6階層を突破した時に確認すると18時を過ぎたところ、このままウルトで突き進みながら食事、睡眠としても良いのだが流石に動いて無さすぎるということで6階層の安全地帯で運動することにした。


 運動なら魔物と戦えばいいと思うのだが虫とは戦いたくないらしい……

 冒険者としてそれでいいのだろうか疑問である。


 サーシャとリンはひたすら安全地帯をランニング、俺を含めた戦士組は軽くランニングで体を温めて模擬戦を行う。


 なぜかケイトが俺と模擬戦をする時に強欲の剣を抜こうとしていたのでなんとかそれだけは許してもらい体を動かす。


 ここ数日まともに動いていなかったからか違和感がある。

 これは普段からしっかり動くようにしないと不味いかもしれない。


 それはソフィア、アンナ、ケイトみな同じようで初めは軽い打ち合いだったものが段々と熱を帯び割とガチめの訓練となった。


「おぉう……」

「ご、ごめんクリードくん! 大丈夫!?」


 ケイトが慌てて持っていた鉄剣を投げ捨てて駆け寄ってくる。

 俺の額にできた傷を手で抑えるがあんまり意味無いよそれ。


「大丈夫だから」


 そのまま回復魔法を使用して額の傷を治す。

 ついでに浄化魔法で俺とケイトに着いた血を綺麗にしておく。


「ごめんなさい、まさか斬れるとは思わなくて……」

「いや俺もだよ……びっくりしたよ」


 最初はお互い木剣を使っていたのだが俺とケイトが本気でぶつけ合えば一撃でへし折れてしまう。

 なので一応刃を潰した鉄の剣で訓練していたのだが、ケイトの上段からの斬り下しを防御したまでは良かったのだがまさかの防御した剣を両断、ケイトは慌てて寸止めしようとしたし俺も慌てて回避しようとするが間に合わず……


 ケイトの振るった剣は俺の額に直撃した。

 人間予想外過ぎる出来事が起こると動けないものだね。


「でもすごいね、防御したとはいえ鉄の剣頭に受けてそれだけで済むなんて」

「むしろケイトのほうが……刃引きした鉄の剣で耐久力A+の俺にダメージ与える方がすごい気がする」


 マンモン戦以外での負傷って初めてな気がするしね。

 オークキング戦も殴り飛ばされはしたけどノーダメージだったし……


「今日はもう終わりにしよう? 頭だし心配だよ」

「回復魔法も掛けたから大丈夫だと思うけど……まぁケイトが言うなら辞めとこうか」


 改めて自分とケイトに浄化魔法を掛けて訓練は終了。

 次回からケイトと模擬戦する時はもっと頑丈な剣を持とうと心に決めた。

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