第76話 新装備
マンモンが消え去り全員頭を上げてマンモンの居た場所を見つめる。
するとそこには魔法陣が浮かび上がり眩く光を放っていた。
「あれってなんの魔法陣?」
「分からないけど……このタイミングだし移動だと思うわよ」
この中で1番魔法に関しての知識が深いリンに尋ねるがリンにも分からないようだ。
テンプレだと更なる階層への転移か地上への転移のどちらかだろうけど……
「クリード様、とりあえず入ってみませんか? 何かあったとしても私たちなら大丈夫だと思います」
「それもそうね、あたしもそれでいいと思うわ。警戒だけはしっかりしつつね」
「そうだね。俺とアンナが前で警戒、みんなはその後で着いてきてくれ」
全員に警戒を促して俺たちは魔法陣に踏み込んだ。
その瞬間視界は真っ白に染まり体は浮遊感に包まれた――
数秒で浮遊感と白い光は消えしっかりと地面の感触がした。
「ここは……」
目を開けて周囲を確認するとそこは迷宮入口前だった。
迷宮にやって来た冒険者やいつも迷宮前に居る子供たち、露店の店主たちが不思議そうにこちらを見ている。
「な、なぁあんたらどこから……?」
近くに居たゴールドランクの冒険者に声を掛けられた。
「いやぁ……」
少し言い淀んだが隠すことも出来ないと思い直す。
「攻略……しちゃった」
マンモンは魔物は生まれるが相当弱体化すると言っていた。
なら下手に隠すより公表してしまった方が安全だろう。
「は? 攻略?」
「うん。10階層までだったよ」
固まる冒険者に報告があるからと別れを告げとりあえず冒険者ギルド出張所へ。
ソフィアとアンナには子供たちへの食事をお願いして俺たちは出張所の責任者である所長に緊急の面会を申し込んだ
ケイトは強欲の剣の説明のためにこちらに残ってもらう。
「こちら出現した魔物のリストと各階層の地図です」
事の顛末を説明していつの間に書いていたのか階層ごとの地図と魔物リストを責任者に手渡すサーシャ。
「そしてこちらが10階層の悪魔を倒し手に入れた【強欲の剣】です」
サーシャはチラッとケイトに視線を向ける。
その視線を受けたケイトは【アイテムボックス】から強欲の剣を取り出してテーブルに載せた。
「おぉ……これは……」
テーブルの載せられた強欲の剣の目の前にして目を見開く所長。
「か、鑑定してみてもよろしいですかな?」
バッと顔を上げた所長は目を輝かせてケイトに詰め寄る。
近い。ぶん殴るぞコノヤロウ。
「ど、どうぞ……」
若干引きながらケイトが許可を出すと所長は剣の上に手をかざして魔力を放出、この人鑑定魔法使えたんだな。
「む……」
所長は眉をひそめて首を傾げる。
なんか変な能力が付いてたのかな?
「プロテクトが掛かっていますね……私には鑑定出来ないようです……」
所長は自分の両手を見つめて残念そうに呟く。
説明してもいいけど分からないなら吹聴するものでも無いか。
「まぁ話は以上だ。俺たちはとりあえずリバークのギルドマスターに報告に向かいたいのだが」
「え、あ、はい。分かりました。これから来る冒険者には注意喚起しておきますので」
じゃあ、と席を立ち出張所を後にする。
外で子供たちに食事を振舞っているソフィアとアンナと合流、柵の通路を抜けてウルトに乗り込む。
「ケイト、ちょっとあたしも鑑定魔法掛けてみてもいい?」
「いいけど、なんで?」
ケイトが聞き返しているが俺も思う。なんで?
「術者のレベルが上がれば成功率も上がるの。所長さんよりあたしの方がレベルが高いからね、あたしなら鑑定出来るかなって」
マンモンの説明した能力以外にもあるかもしれないしねとリンは続けた。
ケイトは納得したようで再び【アイテムボックス】から強欲の剣を取り出してリンに手渡した。
「ん……」
手を剣にかざしリンは小さく呻く。
「ダメね、あたしのレベルで鑑定出来ないってどれだけ強いプロテクトが掛かってるのよ」
ふぅ、とため息を吐くリンを見て少し興味が湧いた。
ポケットからスマホを取りだして強欲の剣をパシャリ、画面の左上に小さく表示されている【解析鑑定】の文字をタップしてウルトの【解析鑑定】を試してみる。
◇◆
強欲の剣マンモン
凄まじい強度と斬れ味を併せ持つ剣。その強度はオリハルコンをも上回る。
斬った相手の能力を奪う能力を持つ神器級の武器。
使用者を選び認められた者以外には決して力を貸さない。
使用者に最適な形状に変化する。
この剣は使用者が喚ぶと使用者の手元に現れる。
◇◆
「おぉ……」
鑑定できた。
リンやあの所長が出来なかった鑑定がスマホで出来てしまった。
スマホとはいえウルトの一部みたいなものなので実質ウルトの能力なのだが、これでリンの鑑定能力よりウルトの方が優れていることが目に見えてわかってしまった。
どれだけ便利なのか最早想像もつかない。
『到着しました』
俺がスマホを全員に見せて強欲の剣の鑑定結果を全員で見ているとウルトから到着を告げられた。
剣の説明に注目し過ぎててだれも気づかなかったな。
ウルトから降りて歩く。
迷宮から一番近い門を守る門兵は見慣れたのかウルトに関して何かを聞いてくることは無い。
「ギルドは長くなりそうだし先に工房へ行って装備を受け取ってからにしましょう」
リンの提案に全員が賛成、まずは工房へ向かうことにした。
確かに迷宮を攻略しちゃったなどと報告すれば根掘り葉掘り聞かれるだろうから先に済ませておいた方がいいだろう。
「お、やっと来たな」
工房に到着して扉を開けるといつもの大柄な店員が迎えてくれた。
「装備はとっくに出来てるぜ、ケイトの嬢ちゃんの分もな」
別の店員に合図して装備を取りに行かせる。
「すぐ持ってこさせるから少し待っててくれ」
「分かったよ」
「それにしても随分遅かったが何かあったのか?」
まぁ完成予定と聞いていた日から1週間ほど遅れて取りに来てるからな……
まさか迷宮内で修行パートあるとは思ってなかったからなぁ……
「ちょっと迷宮攻略してきた」
「装備も出来てないのにか!?」
ごもっとも。
「まぁ色々とね、戦う手段は他にもあるんだ」
「魔法か? いやそれにしても……」
ブツブツと呟く店員だが冒険者に戦う手段などを聞くのはマナー違反なのか、聞いても理解できないと割り切ったのかは分からないが気にしないようにしたらしい。
「それで何階層まであったんだ?」
「10階層だよ。最深部には悪魔が居た」
「待たせたな!」
そんな話をしていると、親方に連れられて数人の若い男が俺たちが注文した武具を持って現れた。
「やけに遅かったがそれはいい、中々の自信作だ!」
若い男たちは俺たちの前に並ぶ。
「身につけますか?」
「よろしく」
前の男に鎧をつける手伝いをして貰う。
一度身につければ二度目以降は【無限積載】を使えば簡単に身につけられるからね。
ちなみに女性陣は別室に案内されている。
「どうぞ」
「おぉ……」
別の店員が持ってきた姿見を見て感嘆の声が漏れた。
かっこいい……
薄らと青みがかった軽鎧が大変にかっこいい。
着ているのが俺というのが少しアレだがとても気に入った。
「クリード様とてもよくお似合いですよ」
色んな角度で見てみながら動きづらさが無いか確認しているとサーシャから褒め言葉を頂いた。
「ありがと。サーシャも似合ってるよ」
サーシャとリンは灰色のマントを羽織っている、おそらくグレートウルフの素材を使ったマントだろう。
傍に控えるソフィアは凛とした表情で立っていてまさに騎士といった感じがする。
ポニーテールにしている美しい金髪に鎧と槍の青が映えとても絵になる。
サーシャの一歩後ろに控えるその姿は正に姫を守る女騎士だ。
「クリードさん自分はどうッスか? 似合ってるッスか?」
俺と同じ薄ら青い全身鎧を身につけ兜の面帽を上げたアンナがクルクル回りながら聞いてきた。
アンナもサーシャたちと同じマントを身につけていて回る度にマントがヒラヒラしていて面白い。
「いいなぁ、フルプレートもかっこいいなぁ」
俺がそう呟くとアンナは何を思ったのか俺に向けて剣と盾を構えた。
かっこいい……
いいなぁとアンナを見ているとちょんちょんと肩をつつかれた。
「ど、どうかな……?」
振り向くとモジモジしたケイトが立っていた。
ケイトは俺やソフィアの鎧よりも更に軽装、本当に急所のみを守るような鎧だった。
そのせいか体のラインがよく分かってしまう。
確かに胸は控えめというかほぼ無いというか……しかしそれ以外の締まったウエスト、丸みを帯びた腰周りが目に毒である。
「ケイトそれは……」
薄着過ぎない? と続けようとしたが口を開く前にケイトは顔を真っ赤にしてマントで体を隠した。
「軽装なんだから鎧下もこうしたら可愛いよってリンに言われたけどやっぱり恥ずかしいね」
リンなんてことを……けしからん。
俺もマントを貰い装備する。
これは予想した通りグレートウルフの毛皮を使ったマントで魔法に対してかなりの防御力を誇るんだとか。
また刃物を通さないので余程の名剣でないと斬り裂くことは出来ないと言っていた。
剣や鎧にも爪や牙などが使われており通常のミスリル製の武具に比べてかなり頑丈で鎧も魔力を弾くらしい。
逆に剣は魔力の通りが非常によく魔力を纏わせる攻撃、【魔力撃】との相性が抜群とのことだ。
【魔力撃】がメインアタックスキルの俺には非常にありがたい剣だ。
「ありがとう」
「いやいや、こっちこそ楽しい仕事が出来た、ありがとよ!」
親方に礼を言って店を出る。
さてギルドに行きますかね……
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