第77話 攻略報告
「クリード様、1回宿に戻ってもよろしいでしょうか?」
工房を出てギルドへ向かおうとしたところでサーシャが宿に戻りたいと言い出した。
「どうしたの?」
「はい、ちょっと着替えようかと……ケイトさんもアレですし」
うん、アレだな、ちょっと扇情的過ぎるのは同意だ。
俺たちは一度宿に戻りサーシャとケイトを着替えさせる。
従業員にいきなり2週間も音沙汰なく外泊したことを詫びながら待っているとケイトはいつもの格好、サーシャは修道服で現れた。
「あれ? サーシャその格好は?」
「迷宮攻略にも成功したことですし、隠すことはもうありませんから」
まぁサーシャがそう言うなら……
俺にはそういうしがらみとかは分からないからね。
「ではギルドへ」
宿の従業員にぺこりと頭を下げてサーシャは外へ、俺たちも慌てて後を追った。
「自由の翼リーダークリードだ。大至急ギルドマスターに面会したい」
「お待ちしておりました、こちらへ」
ギルドに到着して受付に声を掛けるとすぐに案内された。
どうやら出張所から伝令が走っていたらしく待たせてしまったようだ。
「待っていたぞ! ロフーレから伝令が来て聞いたが本当に攻略したのか!?」
受付に案内されてギルドマスター執務室に入るとギルドマスターが椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がり俺たちを迎え入れてくれた。
それよりロフーレ? 出張所の所長の名前かな?
「おぅ、攻略したぞ! これ地図と階層ごとの出現する魔物とその見た目な」
サーシャから受け取っていた紙束を【無限積載】から取り出し執務机の上に放り投げる。
かなり失礼な行動だがこのギルドマスターにはこうやって対応するのが正解な気しかしないからこれでいい。
「おぉ!?」
投げ渡された紙束を広いパラパラと捲り中身を確認していく。
「ギガンテスにミノタウロス、サイクロプスか……」
一通り目を通して魔物の名前を呟くギルドマスター。
「デカかったよ。サイクロプスなんか街の防壁よりでかかったんじゃない?」
「そうですね。そのくらいはありそうです」
サイクロプスの大きさを語り目で仲間に同意を求めるとサーシャが肯定してくれた。
「防壁よりデカい……想像もつかんな……」
チラリと窓の外、おそらく防壁を見ながら小さく呟いた。
「それに悪魔か」
窓から手に持った紙束に視線を戻すギルドマスター。
「悪魔はヤバかった。良い奴だった」
「は?」
俺はマンモンの人柄やマンモンから聞いた話をギルドマスターに伝える。
もちろん今後迷宮がどうなるかも忘れずに伝えた。
「はぁぁ……それで魔物はどれぐらい弱体化するんだ?」
「それは分からない、一応所長には伝えて冒険者が調子に乗って深く潜りすぎないように注意してくれとは言っといたけど」
「そうか、ロフーレにも伝えてくれているのなら問題は無いな……それで……」
ギルドマスターは一瞬サーシャの姿を見て俺に向き直った。
「どうやって深層を攻略したんだ? 勇者サマ」
「知ってたのか?」
いきなり俺の事を勇者と呼ぶギルドマスター、もしかしてサーシャの格好からアタリをつけたとか?
「いやショーンから聞いてるからな? 出来ればプラチナへの昇格試験を早期にやってやってくれとも頼まれていた」
ショーン? あぁ、王都のギルドマスターがそんな名前だった気がするな。
「してくれてないじゃん」
「する前にミスリルになっただろうが」
確かに。
ここに来て割とすぐだったもんなぁ……
「ちなみにお前らがここに到着して2日後に連絡来たからな? 早馬より早いってどういう事だよ」
ウチのウルトは馬なんかに負けるわけないだろ。
「まぁ俺たちの正体知ってるなら別にいいか。俺の神器の力だよ」
「だろうな。あのデカくて走る箱だろ? 門兵や冒険者連中から報告入ってるしな」
やっぱり隠さなかったら情報回るのも早いのな。
「そうそう。それに全員乗ってドーンって」
ざっくり説明するが理解は出来ていないようだ。
まぁ理解出来たとして真似は出来ないからどっちでもいいでしょ。
「まぁ分かった。じゃあ報酬の話をしようか」
理解を諦めたのだろう一度首を左右に振ってギルドマスターは話を続ける。
「まず迷宮攻略の報酬に迷宮が残っているからこの地図も買い取れる。魔物の情報ももちろん買い取る」
そこまで言ってギルドマスターは何かを考えるように指先で執務机を何度か叩く。
「白金貨5枚、これでどうだ?」
個人的には問題ない。他のみんなはどうかなと思い振り返ってみると全員おぉ……といった表情をしているので問題無さそうだ。
まぁ俺たちは攻略って意味じゃほとんど何もしてないしな。
俺たちがしてたのは攻略じゃなくて修行だ。
「それでいいよ」
「よし、なら書類を作る」
チリンと執務机の隅にあるベルを鳴らして職員を呼び指示を与えて退室させる。
それから紙を取りだしてサラサラと書類を作成し始めた。
それが書き終わると引き出しから別の書類を取り出して2枚の書類を俺に差し出してきた。
「迷宮攻略の報酬と
2枚の書類を受け取り目を通す。
1目は今ギルドマスターが書き上げた書類で先程言っていたことが内訳として書かれていて白金貨5枚を支払うという内容。
もう1枚はなんだか堅苦しい文面だが要約するとよくやったという事だろう。
褒美として白金貨3枚出すと書かれている。
「サインはまだするなよ? 今金を取りに行かせてるからサインは届いてからだ」
「キッチリしてるのな」
まぁ不正があってもいけないしそういうものかと納得して少し待っていると先程出ていった職員が戻ってきた。
「待たせたな、合わせて白金貨8枚、確認したらサインしてくれ」
職員の持ってきたトレーから白金貨8枚を受け取り確認、間違いないのでそのままサインする。
「よし、じゃあ次は魔石やら魔物の素材だが……どれくらい回収してるんだ? 高値で買い取るぞ?」
そんな事言っていいのかな?
俺はニヤリと口角を上げて告げる。
「総数で言ったら3000匹くらいは持ってるぞ?」
9階層だけで1500以上倒してるからね、全部合わせたらそれくらいあるだろ。
「さんぜ……」
予想通りアホ面を晒すギルドマスター、いいね、その顔が見たかった!
「さて……いくらで買うかね?」
「辞めなさい!」
パシーンといい音がした。
ニヤニヤとギルドマスターを弄って遊んでいると背後から頭を叩かれたのだ。
「もう、クリード様は何故ギルドマスターにだけそんな意地悪するんですか?」
「僕はそんなクリードくんもいいと……ごめんなんでもないよ」
「ん? なんて?」
サーシャの小言は聞こえたけどケイトの呟きは聞き取れなかった。
「な、なんでもないよ!」
「そう?」
なんでもないってことは別に大したことじゃ無かったのか、なら気にしなくていいかな?
とりあえずケイトのことは置いておいて真面目に話そうか。
ある程度の魔物をとりあえず1匹大金貨1枚で卸すことを了承、あとで解体所で適当に出そう。
「さて……迷宮関連はとりあえずこんなものか?」
本当はマンモンが所持していた魔力のこもった武器も大量にあるんだけど……
どうしようかな?
「あー……魔力のこもった武器が山ほどあるけど……いる?」
俺の問いかけにギルドマスターはすごい勢いで立ち上がり執務机に両手を着いた。
「マジックアイテム化した武器か!? どれくらいある!?」
おぉ……予想以上の反応だな……
「い、いっぱいあるよ?」
付与されている能力や武器の種類を問わなければそれこそ数百本単位である。
ただそのうち何割かは呪いでしかないけどね。
持ち主の血を吸えば吸うほど切れ味が上がる剣とか怖いわ!
あ、あと振ったら光るだけの剣とかもあるよ?
「譲ってくれ! いくらだ!?」
圧が! 圧が強い!
なんでこんなにグイグイ来るの!?
そんなに欲しいの? コレクターなの?
「近い近い! 売るのはいいけど相場とか分かんないから任せる、どれくらい欲しいの?」
「剣、槍、斧、弓、なんでもいい、極力数が欲しい」
近付いてくるギルドマスターを押し返して何が欲しいのか聞くがなんでもいいとな?
「なんでそんなに欲しいのさ? コレクション?」
「そんなわけあるか! ってお前らは知らなくて当然か……」
ギルドマスターはふむ……となにか考えるような仕草をした。
なんだろう? と思いみんなの方を見るがみんな分からないようだ。
「グリエルが……陥落した」
「「え?」」
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