第75話 卒業試験

 マンモンと出会ってちょうど2週間、この日のマンモンは雰囲気がいつもと違っていた。


 《今日は今までに学んだ全てを我に見せてみよ》


 剣を取り出し構える。

 今までマンモンから殺気を感じたことは無かったが今日は肌がビリビリとするほどの殺気を放っている。


 《来い!》


 一気に空気が重くなる。

 一瞬でも隙を見せれば殺す、そう伝わってくる。


「リン!」

「分かってるわ!」


 いつも通り魔法による先制、ここに来る前とは比べ物にならない魔力が込められたリンの魔法が次々とマンモンに向けて放たれていく。


 少しでも援護に、少しでもマンモンの意識をずらせればと俺もマンモンを包囲するように移動しながら電撃を放つ。

 俺の魔法ではダメージは期待出来ないだろうが少しくらいは意識して欲しい。


 魔法による攻撃が止まった瞬間に俺たちは動く。

 まずは俺、敢えて正面から堂々と姿を現し【剛力】と【魔神剣】を発動させて斬り掛かる。


 《甘いわ!》


 マンモンの反撃、間違いなく俺の剣が届く前に俺の両腕を斬り飛ばす軌道。


「【瞬間加速】!」


 半歩踏み込み一気に最高速度まで加速、目測を誤らせマンモンの剣は空振り。

 反対に俺の剣は肩口から入り浅くは無い斬撃を与えることに成功した。


 《ぬぅ……》


 マンモンから強烈な魔力が放たれ俺の追撃は叶わない。


 だが放たれた魔力に合わせてバックステップで距離を取りながらでも放てる技はある。


「【飛翔閃】」


 ここでの訓練の合間にケイトから教わった遠距離斬撃技。

 基本的には【魔力撃】に似た技だが魔力を剣に纏って叩き込む【魔力撃】と対象的に振りに合わせて纏わせた魔力を解放して遠距離まで斬撃を届かせる技が【飛翔閃】だ。


 まぁこの程度の技でダメージは期待していない。

 俺の役目は前線にてマンモンの気を引くことだからな。


「一以を之を貫く、奥義【一以貫之】!」


 側面からソフィアの奥義が放たれる。

 自身の【魔力撃】と槍に付与されている【魔力撃】を合わせて全ての魔力を穂先に込めて全てを貫く奥義だ。

 これはケイトのスキル【乾坤一擲】から着想を得た奥義らしい。


 《ぐおおお……》


 マンモンは躱そうと身をよじるが躱し切れず、脇腹を大きく抉られた。

 真っ青な鮮血が飛び散る。


「【天翔閃】!」


【飛翔閃】が【魔力撃】の応用技ならこちらは【魔神剣】の応用、【飛翔閃】の何倍もの魔力を剣に込めて斬撃と共に打ち出す。

 ソフィアの【一以貫之】を受けかなりのダメージを負ったところにこの攻撃、マンモンは何とか魔力で防御するが数歩後ずさった。


「【乾坤一擲】! やああああ!」


 大ダメージを受けたところに俺の【天翔閃】で体勢を崩し隙を晒すマンモンにケイト渾身の一撃が放たれた。


 《ぐっ……!》


 魔力を込めた両腕でガードしようとするがケイトの方が一歩早い。

 ケイトの魔力と生命力を燃やした一撃はマンモンの首を刎ね飛ばした。


「はぁ……はぁ……」


 その一撃に全てを込めたケイトはその場に崩れ落ちる。

 本来なら最後の切り札とすべきこの技を初手から使ったのはそうしないとマンモンには通用しないと判断したからだ。


 《見事、真に見事である》


 地面に転がったマンモンの首がふわりと浮き上がり言葉を発する。


 首を落としたくらいではこいつは死なないだろうとは思っていたがこの光景には流石に言葉も出ない。


 《これにて卒業とする。レベルと技術はこれで釣り合ったとは思うが精進を欠かさぬようにな》

「分かった。努力は続けるよ……それで卒業ってことは」

 《うむ、我はこのまま倒されることにする》


 軽く言うけどそれでいいのか大悪魔……


 《さて卒業祝いだが……これをやろう》


 マンモンの体の方が起き上がりケイトに握っていた剣を差し出した。


 《我の【強欲】の力の宿った剣である。効果は倒した相手の力や能力を奪うことの出来る剣だ》


 剣の説明をしてくれるが効果がヤバい……


 《ちなみにこの世界の存在では無いので一応神器という扱いとなる。魔王にも効果のある剣だぞ》


 全員が驚愕する。

 神器と同じ剣を持つということは俺や他の勇者と同じくケイトも魔王を倒せる存在になるということ、驚くなという方が無理がある。


 《最初はクリードに渡そうかと考えていたのだがな、クリードにはウルトがあるし2つ目の神器を得ても仕方が無いであろう?》

「いやまぁ……そうかもしれないけど」

 《うむ。我の力が剣という形を成している以上使えるとすればクリード、ケイト、アンナのいずれかだ。クリードには既に神器がある。アンナは攻撃よりも防御特化。ケイトが適任だろう》


 確かに攻撃力という観点からアンナよりケイトが適任、アンナに持たせるなら盾だろうしね。


 《そういうことだ。それから迷宮についてだが、我が一時的に消えるということは迷宮から瘴気が消えるということ。魔物は生み出されるが瘴気が無いゆえ相当に弱体化するだろう。それに合わせて獲得出来る経験値も少なくなることを覚えておけ》


 魔物は出るけど弱体化、経験値は激減か……


「それは確実にそうなるのか?」

 《あぁ、先日神より神託が下ったゆえ間違いない》


 神様が言うなら間違いないか。

 神という単語にサーシャが反応しているが質問はしなくていいのかな?


「神は他になんと?」

 《いや、それだけだな。神に生み出されたとはいえ我も末端、本来神より言葉を賜れる立場では無い》

「そうですか……ありがとうございます」

 《構わぬ。それと我が所有していたアイテムは全てウルトに渡してある。なにかの役に立てよ》


 だんだんとマンモンの姿が薄れていく。

 このまま消えてしまうつもりなのだろう。


「マンモン、ありがとう。あなたのおかげで俺たちは強くなれた」

「ありがとうございました。この聖女の力、マンモン様に誓って必ずやこの世界の役に立てて見せます」

「ここで出会えたのも何かの縁、他の迷宮の最奥まで行ったらあなたの話をしておくわ」

「ありがとうございました。マンモン殿のお陰で私は1段階強くなれました。この恩は生涯忘れません」

「マンモンさんの攻撃は凄かったッス!これで他の奴の攻撃なんて怖くないッスよ。ありがとうございました!」

「この剣は大切にします。ありがとうございました」


 俺たちは口々にお礼を述べて深く頭を下げる。

 最初の出会いの際の冗談はかなりアレだったがマンモンはかなり話のわかる悪魔だった。


 《ふふ……我が自我を得て数百年、初めて出会った人間がお前たちであったこと嬉しく思う。ではさらばだ》


 マンモンはそう言い残して消えていった……

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