第57話 加入

「まずは頭を上げてくれ、そうじゃないと答えられない」


 俺はケイトパーティ6人の頭を上げさせてから座らせた。


「ケイト加入の件だけど……」


 リンの顔を見るが頷くだけ。俺に言えってことか。


「俺たちは……俺たち『自由の翼』はケイトの加入を歓迎する」


 せっかく決めたパーティ名だしここで言わないでどこで言うんだって。


 俺の答えを聞いた6人はホッと大きく息を吐いた。


「ありがとう、これからよろしくお願いします」

「こちらこそ」


 今度は座ったまま軽く頭を下げたのでこちらも同じように返しておいた。


「それでお前たちはどうするんだ?」

「俺とミナは故郷に戻って狩人でもやって生活しようと思ってる。それなりに蓄えもあるし大丈夫だ」


 ハンスはミナの顔を見ながら答えた。

 ミナも頬を赤らめながら頷いている。


「俺たちは3人で冒険者を続ける。無理のない範囲でレベル上げと装備を整えて今より成長して見せる」


 ディムは昨日聞いたのと同じ言葉を返してきた。

 クレイ、ロディも強い瞳で頷いている。


「そうか、ならみんなの新しい門出に」


 俺が酒杯を持ち上げると全員が俺に合わせて酒杯を掲げた。


「乾杯!」

「「カンパーイ!」」


 それからは堅苦しい雰囲気など全くない飲めや騒げやの宴会となった。


 色々な話をしてこれからの目標を語り……、いつの間にか俺も相当な量の酒を飲み気が付けば眠っていた。




 翌朝目が覚めると、宿のベッドに寝ていた。だれかが運んでくれたのだろう。


「きもちわる……あたまいたい……」


 頭を押さえながら大きく息を吐く、そのまま起き上がって昨日のことを思い出すが……


「ぜんっぜん覚えてない……何してたっけな……」


 昨日の飲み会のことを思い出そうとするが乾杯してからの記憶はほとんど残ってない。

 我ながら弱すぎるだろ……


「変なこと言ってなければ良いけど」

『私のことを皆さんに紹介したり日本での思い出を熱く語っておりましたよ』


 思い出そうと必死になっているとベッド脇のテーブルからそんな声がした。


『おはようございますマスター』

「あれウルト? どうしてここに?」


 迷宮内で魔物狩りと地図作成してたんじゃ?


『昨晩魔物の出現率が激減したと報告した際にマスターが私を召喚しました。そこで私を皆さんに紹介、自分が勇者の1人だと明かして日本でのことを話し始めました』


 俺そんなことしてたの?


「全く記憶に無い」

『始めはサーシャ様たちも止めようとしていましたが結局止められず、あの場に居た方には全てお話しておりました』


 あらぁ……まぁ……ディムたちは友達みたいなものだしいいかな?


「俺どんな話してた?」

『主に仕事や学校の話でしたね。あとは家電製品がいかに便利か熱く語っておりました』


 学校とか仕事の話はわかるけど家電製品!?

 俺別に家電マニアとかじゃないんだけどなんでそんなこと語ってたんだろ……


「反応はどうだった?」

「好評でしたよ。皆さん興味深そうに聞き入っていました」


 ならセーフか。

 あとで一応あんまり広めないようにだけお願いしとこうかな。


 あまり気にしないことにして朝の身支度を整える。

 時間は8時時過ぎ、朝食まで少しだけ時間はあるな。


 二日酔いの時って水いっぱい飲んで軽く汗流したら良かったっけ?

 あれ? 運動はダメなんだっけ? どっち?


「クリード様起きてますか?」


 悩んでいるとノックとともにサーシャの声が聞こえてきた。


「起きてるよ、どうしたの?」


 立ち上がって扉を開くとサーシャが1人で立っていた。


「おはようございますクリード様。二日酔いがお辛いようなら回復魔法をお掛けしようかと」

「回復魔法って二日酔いにも効果あるの? ならお願いしようかな……」

「分かりました。ではベッドに横になってください」


 指示に従い先程まで寝ていたベッドに仰向けに寝転がる。


 サーシャは枕元に腰掛けて俺の額に手を置いた。


「気を楽にしてくださいね、眠ってしまっても大丈夫です」


 じんわりと額から暖かいものが流れ込んでくるような感覚、とても気持ちがいい。

 そのまま身を任せて数分、サーシャが手を離した時には頭痛と気持ち悪さはすっかり消えていた。



「クリード、一旦王都に戻ってみない?」


 すっきりしてみんなで……6人で朝食を食べている時にリンがそんなことを言い出した。


「王都に? なんで……って勇者の動向を調べにか?」


 ここのギルドには情報届いてなかったからね。

 王城のお膝元の王都ギルドなら詳しい情報もわかるか?


「王都って……数日後には僕とクリードくんのランク昇格があるからここに居ないとマズイんじゃないの?」

「あぁ、それは大丈夫よ」


 往復2週間くらいかかるよね? とひどく常識的なことを述べるケイトにリンが説明する。


「ウルトは見たでしょ? ウルトに全員で乗り込んで移動すれば1日掛からず王都まで行けるのよ」

「え?」


 ケイトはパンを片手に固まる。

 サーシャたちは微笑ましそうに見ているがついこの前まで固まる側だったの忘れてない?


「だから王都で情報収集してから戻って来ても十分間に合うと思うのだけど、どうかしら?」

「そうだね。勇者の動向も気になるし行ってみようか」


 ちょうどウルトもこっちに戻って来てるしね。


「いつ出発する?」

「夜でいいんじゃない? ウルトの中で寝てれば朝には着くと思うよ。それで1日情報収集、また夜王都を出て朝には到着、これでどう?」

「そうね、それが1番効率的ね」


 唖然としているケイトを放置したまま話を進めその予定で動くことに決まった。


「じゃあ今日はどうする?」

「僕は工房に行こうと思ってるよ。ミスリルも貰っちゃったし装備も新調したいんだ」

「なら私も一緒に行きますね。ケイトさんとはもっとたくさんお話したいですし」


 ケイト、サーシャ、ソフィア、アンナは工房か。


「俺は迷宮かな? 出来る限り魔法の練習したいし」

「あたしも行くわ。どれだけ魔法が使えるようになったか見せてもらうわね」

「いいけど迷宮までは時間もったいないし走るよ? 大丈夫?」

「それこそウルトに乗っていけばいいじゃない。もうミスリルに昇格するんだから隠す必要無いでしょ?」


 そう言われてみればそうだな。

 ウルトを隠してたのは上位ランク冒険者から絡まれるのが面倒だからって理由だったし……


「分かった、なら食い終わったら軽く準備して行こうか」


 サーシャたちもウルトに乗りたそうな顔をしていたが夜には乗れるんだから我慢して欲しい。


 食事を終えサーシャたちは工房へ、俺とリンは迷宮へ向かう。


「ウルト、頼む」

『かしこまりました』


 2人でウルトに乗り込み迷宮へ、徒歩でも1時間もあれば到着する距離なんてウルトならほんの数分で到着してしまう。


「やっぱり早いわね、もう少し乗っていたいけど」

「まぁ今夜は一晩乗りっぱなしだからそれまで我慢してよ」


 迷宮前の柵の中をそんなことを話しながら歩く。


 迷宮前の広場にたどり着くとあとはいつも通り。

 子供たちに食事を食べさせて5人ずつ連れて迷宮に潜り角ウサギを狩る作業だ。


「収束、変換、発動の流れもスムーズだし魔法の形もしっかりイメージ出来てる。もう立派な魔法使いね」


 1組目の狩りが終わり子供たちに小遣いを渡した後そのような評価をリンは口にした。


「次の段階は魔法の複数同時展開、これが出来たら魔法使いとして一流よ」

「同時展開? でも俺【ツインマジック】のスキルは持ってないよ?」

「大丈夫よ。【ツインマジック】や【トリプルマジック】は別の魔法を同時展開するスキルなの。だから同じ魔法、例えばクリードが右手から放出してる電撃を両手から放つようなものよ」

「ふむふむ……」


 なるほど、同じ魔法なら複数同時展開は出来るのか……


「これはかなり難しい技術だから頑張って練習してみなさい」

「分かった、練習してみるよ」


 2組目以降の狩りで早速試してみるが片手からしか発動しない……

 試行錯誤しながら子供たち全員を狩りに連れ出したがこの日は成功する兆しは全く無かった。

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