第56話 ケイトたちの決断

 そろそろいい時間なので昼食を食べることにした。

 なんでギルドからの帰りに食べて帰らなかったのだろうか……


 今から改めて食べに出るのも面倒なので【無限積載】の中に積み込んでいるそのまま食べられるものをいくつか取り出してそれを昼食にする。


 また色々と買っておこう。


「そうだ、せっかく全員居るんだしパーティ名決めましょうか」

「パーティ名? あぁ、そういえばギルドマスターが決めとけとか言ってたね」


 パーティ名か……そういうの考えるのは苦手だ。


「そういうわけでクリード、何か決めてちょうだい」

「え? 俺が?」

「当たり前でしょ? リーダーなんだから」


 リーダーはまだリンだろ。


「まだリーダーはリンだしほかのパーティがどんな名前なのかも知らないから決めれるわけないだろ」

「それもそうね……1番有名なパーティは『竜翼の絆』ね」


 それは聞いたことある。竜騎士なんちゃらさんがリーダーのパーティだよね。


「他に有名なのは王国のプラチナパーティの『剣士の誇り』とか教国のプラチナパーティ『魔法使いの園』なんかが有名ね」


 剣士の誇りに魔法使いの園……


「剣士の誇りは中位職の剣闘士が2人いる近接特化のパーティで魔法使いの園も中位職の魔道士ティナが率いる魔法特化のパーティよ」


 仲悪そう。


「それってパーティ名って言うよりパーティの特徴じゃないの?」

「パーティの特徴がそのままパーティ名になることなんて珍しくないわよ? 分かりやすくていいじゃない」


 確かに分かりやすいけども!


「それなら俺らは『聖女様御一行』とかでいいんじゃない?」

「絶対嫌ですよ!」


 俺の提案に噛み付いたのはサーシャだった。


「なんで? 分かりやすいし俺らのパーティの特徴じゃん」

「かもしれませんけどなんで私なんですか!?」

「だって……ねぇ?」


 ソフィアとアンナに顔を向けると2人は頷いている。


「2人共なんで頷いてるんですか!?」

「いえ……」

「自分たちはサーシャ様の護衛ッスから間違ってはないかなぁと……」


 だよね?


「うー! でも嫌です、聖女は使わない方向でお願いします!」


 そんなに嫌か……他にも聖女の剣とか考えてたんだけど聖女使用禁止されたら全滅じゃないか。


「クリード様の勇者やリンさんの大魔道士を使ったらいいじゃないですか……」

「そりゃダメだろ? 大魔道士はまぁいいとして俺の勇者は使ったらダメだろ」


 やんわりと追放されてるんだぞ?

 それに大魔道士を使うパーティ名とか大魔道士の下僕たちくらいしか思い付かないぞ?

 大魔道士リーダーじゃなくなるし下僕とか嫌だろ?


「なんか無いッスかねぇ」

「私は……すみません、こういうのは苦手です」


 ソフィアとアンナもコソコソと相談しているが期待は持てそうに無いな。

 リンは……ダメだ、ニヤニヤしてる。

 これは俺がまた変なパーティ名思いつくの楽しみにしてる顔だ……


 ほんとリンって自由だよな……


 ん? 自由?

 確かサーシャって最初の頃に教国には戻りたくないとか俺と一緒なら自由に旅ができるとか言ってたような……

 だったら俺はサーシャにとっての羽? いや羽と言うより……


「自由の翼?」


 声に出ちゃった……


 俺の声に反応して全員こっち見てる……こっち見んな!


「自由の翼? クリードにしてはいいじゃない。それでなにか由来みたいなのはあるの?」

「自由の翼! 私はいいと思いますよ!」


 あれ案外高評価なの?


「リンがニヤニヤしてるの見てこいつ自由人だなーと思ってたらふとサーシャが言ってたこと思い出してさ」

「私が言っていたことですか?」

「うん。パーティ組む時かな? 教国に戻りたくない、俺と一緒なら自由に旅ができるみたいなこと言ってたろ?」


 サーシャは少し昔を思い出すように視線を動かしてから頷いた。


「はい、確かに言いましたね」

「うん、だから俺はサーシャにとって翼になれたのかなって思ってたらつい口から漏れてたみたい」


 俺何言ってるんだろうね? 自分で言っててよく分からないよ。


「なるほど、気に入りました! パーティ名は自由の翼がいいです!」

「私もいいと思います」

「自分もッス!」


 サーシャ、ソフィア、アンナは賛成か、ならリンは?


「いいと思うわよ」


 俺がリンの方を見ると目を合わせて頷いてきた。

 これで満場一致、俺たちのパーティ名は『自由の翼』に決定した。


「それで今日はどうするの? また迷宮?」

「いや、今日はやめとくよ。俺も少しこの街の散策でもしてみようかな」

「良いですね。私もご一緒してもよろしいですか?」


 俺が街ブラするつもりと答えるとサーシャが一緒に行きたいと言い出した。

 断る理由もないのでもちろんと頷く。


「では自分も」

「たまにはあたしも行こうかしら」


 アンナとリンも来るようだ。あれ?ソフィアは?


「私は残ります。この後ケイト殿やディム殿が来られるかもしれませんし1人は残った方がいいかと思います」


 ふーむ、それも一理あるか?


「わかりました、じゃあソフィアは留守をお願いしますね」

「かしこまりました」


 サーシャが認めたので口を出す必要は無いな。


 4人で街に繰り出して散策、先日色々見て回っていたサーシャとアンナに案内してもらいながら街並みや店の品揃えを眺める。


 見たのことの無い道具を見かける度つい衝動買いしそうになるのを3人に止められながらも楽しい時間を過ごした。


 ちなみに気になるものはたくさんあったがそのほとんどが説明を聞いて興味をなくしたか興味はあったが止められたかで買えていない。

 許可が出たのははほとんどが食べ物だ。


 気の向くままに色々買って【無限積載】に放り込んでいる。

 食べてみたいけど夕食が食べれなくなるからね。


 空もいい具合に茜色に染まってきたので宿に戻る。

 今日はいい休日だった……


「お帰りなさいませ」


 部屋に戻るとソフィアが出迎えてくれた。


「1時間ほど前にディム殿が来られました。パーティ同士での夕食の誘いでしたがどうなさいますか?」


 あぁ、来たんだ。

 ソフィアに残ってもらったのは正解だったな。


「ケイトさんのお話ですかね?」

「クリードどうする? 断る理由は無いと思うけど」

「無いな。せっかくの誘いだし受けようか。返事も気になるしね」

「ではその旨伝えて来ます」


 わざわざメンバー全員呼ぶくらいだ、あっちのパーティでも何らかの結論が出たのは間違いないだろう。


「戻りました。皆さん1階でお待ちです」


 今からなの? 待ち合わせとばかりおもってたよ。


 ソフィアに連れられて1階に降りるとそこにはケイトたち4人が待っていた。

 あれ? 4人?

 えーと、ハンスとミナが今日も居ないのか。


「お待たせ」

「待ってないよ、それじゃあ行こうか」


 4人が歩き出したので行く店は決まっているのだろう。

 俺たちは大人しく着いて行き10分もしないうちにとある店に到着した。


「ここだよ」


 ケイトの先導で中に入る。

 声を掛けてきた店員に一言二言伝えると俺たちほ奥の個室に案内された。


「早かったね」


 個室の中にはハンスとミナの姿があった。

 先行して席を確保していたのか。


「じゃあとりあえず注文を……」


 適当に注文を入れてまず飲み物が届いた。

 全員の前にグラスが行き渡ったことをしっかり確認してケイトが口を開いた、


「まずは急に誘っちゃってごめんね。どうしても全員で話したいことがあったんだ」


 ケイトのパーティメンバーの顔が引き締まる。

 これは重大発表の時の顔だな。間違いない。


「僕たちはパーティを解散することにしたんだ。それに伴ってって言い方もおかしいんだけど……」


 ケイトは一度言葉を切って大きく深呼吸をした。


「僕を君たちのパーティに入れて欲しい」


 ケイトは立ち上がって深く頭を下げた。


「俺たちからも頼みたい。どうかケイトをそちらのパーティに入れてやって欲しい」


 ディムたちも立ち上がり並んで俺たちに向かって深々と頭を下げたのだった。

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