第58話 王都へ

 全ての子供たちと狩りを共にして迷宮から街に戻る。

 来る時は奇跡的に誰からも見られず来ることが出来たが帰りは日が落ちる直前だったためか多くの冒険者に目撃されてしまった。


 まぁもう隠すつもりも無い、見たいなら存分に見ればいいさ。


「ちなみにプラチナランクまでウルトを伏せたのは上位冒険者から絡まれるのを避けるためと同時に貴族からの接触を避けるためでもあったのよ」

「そうなの? なんで?」


 帰りの車内で突然リンがそんなことを話し始めた。


「上位冒険者や貴族がウルトを見たらどう思う?」

「そりゃ……この世界には無いものだから欲しがる?」


 冒険者が相手ならどうにでも出来るけど貴族に言われると断るのは難しいって話かな。


「そうね。冒険者が相手ならあたしやクリードが居ればまず問題ないわ。けど相手が貴族だと相当面倒なことになるのよ」

「まぁ……貴族って言うくらいだから権力に物言わせて強制的に接収するとか言われたら面倒だよな」


 想像すると非常に面倒くさい。

 おそらく実際にことが起これば想像の倍以上面倒なんだろうな。


「立場がね、問題なの。追放されたとはいえクリードは勇者、サーシャちゃんはアルマン教国の聖女。立場的には王国貴族でも簡単には手を出せないけど、勇者と聖女が一緒に居るのがバレる方が問題なの」

「なんで?」

「エルヴニエス王国側が断ったからよ。国が勇者と教国の聖女が行動を共にすることを拒んだ、なのにクリードとサーシャちゃんが行動を共にしているこの現状を見たら?」

「国としては面白くない」


 そういうことよ、とリンは頷いた。


「それでもプラチナランクまで上がれば跳ね返すことも出来る。だからプラチナランクになるまではウルトの事は秘密にしてたの」

「サーシャのことは?」

「サーシャちゃんが聖女ってことはあまり隠しては無いからね……ソフィアなんて堂々とサーシャちゃんのこと聖女様って呼ぶでしょ? あたしも何回か注意したんだけどね……」


 はぁ……と疲れたようにため息を吐く。

 お疲れ様です。



 そんな会話をしているうちにリバークの街に到着、門の近くでウルトから降りて歩いて街に入る。


 門兵は俺がグレーとウルフ討伐の関係者であることを知っているのであろうか不思議そうに見ていたが声を掛けて来ることは無かった。


「戻ったわ。みんな準備は出来てる?」


 宿に戻りサーシャたちの部屋に訪れ開口一番リンはそう言った。


「おかえりなさいクリード様、リンさん。何時でも出発出来ますよ」


 準備は出来ているようだ。

 とはいえ準備するものなど元々無いのだが……


「ではケイト殿を呼んできます」


 ソフィアが立ち上がり部屋を出ていく。

 そういえばケイトだけ部屋3階なんだよな、あとで2階に移れないか聞いてみよう。


 すぐにソフィアとケイトが現れケイトも準備は問題ないそうなので移動、宿を出る前に今日明日外泊することとケイトの部屋の移動を宿の人に伝えてから出発する。


 迷宮へ行く時とは別の門から街を出る。

 ゴールドランクの冒険者証を見せて通過、通行税が無料になるのは財布にも優しいが手間と時間がかからないのがいい。


 街から出てすぐにポケットからウルトを取り出して地面へ。

 ウルトはすぐに元のサイズに戻る。


「大きい……」


 一度迷宮で見たはずだが改めて見ると驚いたのかケイトは口を半開きにしてウルトを眺めている。


 門兵も始めは唖然としてこちらを見ていたがすぐに腰の剣を抜いてウルトに向けて構えた。


「あぁ、ごめんなさい、これは俺が使役してるから危険はないよ」


 門兵に向けて一応謝罪しておく。

 ちょっと近すぎたかな、次からはもう少し離れてからウルトを出そう。


 固まっているケイトを元に戻して全員でウルトに乗り込む。


 俺は運転席へ、みなは後ろの箱に……

 ケイトだけは初めて乗るからとみんなから助手席を勧められて緊張しながら乗り込んできた。


「ケイト、左肩の所のベルトを引っ張って……そうそう」


 シートベルトの締め方をレクチャーしてしっかりと締めさせる。

 正直全く揺れないし危険もほとんど無いので必要無いのかもしれないが癖みたいなものだ。


 後ろを覗くと全員ちゃんと着席していたので出発、たまには自分で操作するのもいいな!


「す、すごいねこれ……」


 出発して数分、窓に張り付いて外の景色を眺めていたケイトがようやく口を開いた。


「すごい速いよ! こんなの僕見た事ない!」


 どうやら緊張も解れたようだ、上機嫌で話しかけてくる。


「迷宮で見た時はそんなじっくり見ることも出来なかったし気にはなってたんだ。まさか乗ることが出来るなんて……」


 興奮気味に言ってそれから車内をキョロキョロと見回し始めた。


「それに肌寒くない。この時期のこの時間なら少し肌寒いはずなのになんで?」

「エアコンって言ってね、ケイトの前にも吹き出し口があるだろ?」


 俺がそう教えるとケイトはエアコンの吹き出し口を発見、手を近づけて温風を感じたのに驚いたのか慌てて手を引いている。


「本当にすごい……これが異世界の技術なんだね……」

「まぁ……この世界来てから俺もびっくりするくらいこいつの性能上がっちゃってるけどね……」


 サーシャたちに対しても思ったがこれが走り回ってるなんて勘違いはやめて欲しい。


 それからしばらく走ると後ろからサーシャが前に来てケイトに交代を告げる。

 やはり1時間ほどで交代らしい。


「そうだ、サーシャこっちに座るか? 助手席は別の人に――」

「座ります!」


 俺がいい切る前に食い気味にサーシャは返答して来た。

 どうやら運転席に座ってみたかったらしい。


 まぁ助手席より色々ボタンやらなにやら付いてるからな、気になるのだろう。


 一度ウルトを停車させて席替え、助手席には以前教えたジャンケンに勝利したソフィアが座るようだ。


 サーシャには変なところを触らないよう注意して俺とケイトは後ろに移動した。


 ウトウトしてるリンは置いておいてジャンケンに負けて少し落ち込んでいるアンナを慰めながら時間を過ごす。


 すぐに交代の時間が来てソフィアが運転席へ、アンナが助手席、そしてサーシャが後ろに戻ってくる。


 後部→助手席→運転席→後部のローテーションが自然と組まれてそれからはジャンケンをすることもなく平和に解決した。


 そんなローテーションを続けながら俺たちは王都への道を走り続けた。


 ちなみにウトウトしていたリン、別にそこまで前に乗りたい訳では無い俺の2人はローテーションから外されていた。

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