第46話 白銀の巨狼

「ク、クリードくん、今のは?」

「後で説明するよ。これより……」


 俺は振り返り後ろの5人に向けて口を開く。


「今ここで見たものは秘密で頼むね?」


 俺がそう言うと、5人は首を縦にコクコクと何度も振ってくれたので黙っててくれるだろう。


「よし、俺たちも行こうか」

「行くって? もしかして迷宮内にかい?」


 俺が頷くと、ケイトは首を横にブンブン振った。


「いやいや! クリードくんも見たでしょ!? あんな化け物のいる迷宮に入ってどうするのさ!?」


 ケイトは大慌てで俺を引き留めようとするけど中にはウルトも居るし問題無いだろ。


「大丈夫、なんとかなるよ。というか既になんとかなってるかもしれない」

「は? え?」


 戸惑うケイトに頷いて迷宮入口に向けて歩を進める。

 ケイトは困惑しながらも着いてくるようだ。


 中に入り光源の魔法で周囲を照らすとそこには凄まじい光景が広がっていた。


 絶叫と共に宙を舞うウルフたち。

 その中にはウルフリーダーや先程の白銀の巨狼も混じっている。


「……え?」


 案の定ケイトはこの光景が信じられず絶句している。

 俺はなんか……うん、予想してた。


「クリードくん……なんなのこれ……」

「説明難しいな……後でゆっくり説明するよ」


 壊れた機械のようにぎこちない動きでウルトを指差しているがどう説明しようかね?


 あ、また大量に撥ね飛ばしたな……

 というかなんかサイズ違いや色違いのウルフが居るような?


「それよりあの色違いとかのウルフってなんだろ?」

「それよりって……あれはファイアウルフだね、火球を放ってくる厄介なウルフだよ。あの緑色のはウインドウルフ、こいつも風を操る厄介なウルフだよ」


 へぇ、そんなのが居るのか……


「それにあの黒いのは……もしかしてダークウルフ? こんな各属性のウルフが居るなんて……まるでウルフの宝石箱やぁ……」


 なんて? 今なんて?


「それで……ファイアウルフとかウインドウルフとかって強いの?」

「うん、普通のウルフはカッパーでも気をつければ狩れるけど属性狼は一般的なシルバーランク冒険者じゃソロじゃ無理かな? パーティならなんとかなるかな? ってレベルだと思う」


 へぇ、結構強いんだなぁ……

 十把一絡げに吹き飛ばされてるけど……


「なんでウルフたちの死体残ってないんだろ……あれだけ派手に戦ってるのに……」

「あー、それウルト……あのデカいののスキルだね」


【無限積載】を使って邪魔な死体を片付けてるんだろうね。


「スキル……一体あれはなんなの……」

「一応俺のスキルで召喚したヤツかな、使い魔みたいなものだって言ってたよ」

「使い魔!? 言ってたって喋れるの!?」


 何度目かの驚愕に満ちた表情、ウルトが絡むとみんなこんな顔になるよね。


「一応オフレコね。ケイトはエルヴニエス王国が勇者召喚やったのって知ってる?」

「知ってるよ。大々的に布告あったもん」

「そか、俺その召喚された勇者の1人なのよ」


 軽いノリで暴露してみるとまたしてもケイトは言葉を失ってしまった。


「アレはトラックって言ってね、俺がこの世界に召喚された時に覚えたスキルで召喚したの」

「えっと……どこまで冗談?」

「残念、全部ホントのことだよ」


 話をしているうちにケイトはだんだん挙動不審になっていく。


「え……なら僕は勇者様に対して偉そうに稽古付けるとか言ってたの? それにクリードくんが勇者の1人ってことはリンやサーシャも?」

「俺だけだよ。リンやサーシャ、ソフィアアンナはこっちで知り合ったんだよ。俺は召喚されてすぐ力不足だって追い出されたからね」


 ここまで話したんだから俺のことは全部言っちゃってもいいだろ。

 俺の中ではケイトはもう身内みたいなもんだしね。


 けどサーシャが聖女なのは伏せといた方がいいかな?

 結構ソフィアが聖女様って呼んじゃってるから意味無い気もするけど。


「あ、もう終わるね」

「終わる? ……え?」


 ウルトと白銀の巨狼に目を向けると今まさにウルトが白銀の巨狼を撥ね飛ばした瞬間だった。


 白銀の巨狼は空中で姿勢を整えることも出来ず壁に叩きつけられそのまま地面に落下した。


 まだ辛うじて息はあるようで、白銀の巨狼は起き上がろうと藻掻くが足の骨が砕けているのか立ち上がれない。


 そこにウルトの突撃、白銀の巨狼は防御も回避もできずそのまま撥ね飛ばされ動かなくなった。


 白銀の巨狼はすぐに薄い光に包まれ消失、無事ウルトに積み込まれたようだ。


『マスター、討伐完了致しました』

「お疲れ様、ありがとう。怪我……破損は無いか?」

「はい。何度か爪での攻撃を受けましたがダメージはありません」


 ありませんですか、あの太い腕から繰り出される攻撃受けてダメージありませんか。

 俺なら作業服装備しても胴体ちぎれる気がするけどね。


「そうだ、ウルト紹介するよ、お友達のケイトだ。ケイト、こっちは俺の……使い魔? なんだろ? とりあえずウルトだよ」

『はじめましてマスターのお友達の方。私は【2030年式ウルトラグレート冷凍車モデル】個体識別名称ウルトです。株式会社三葉トラック開発に製造された大型トラックです』

「え……と……ケイトです。クリードくんのお友達です」


 ぺこりとお互い軽く頭を下げてご挨拶。

 よし、これで紹介も完了だな!


「じゃあ1階層に残ってるウルフと2階層の間引きに――」


「クリード! 無事!?」

「クリード様! お怪我は!?」


 行こう、と言おうとしたところでリンたちが迷宮に飛び込んできた。


「オーバーフローが起こったと聞き急いで馳せ参じたのですが……」

「ウルフって聞いてきたんスけど、居ないッスね」


 ソフィアとアンナはキョロキョロと周りを見渡していたが、ケイトを見て動きをとめた。


「ケイトさん? どうしてここに居るんスか?」

「ホントに来てたんだ……」


 アンナはキョトンとしているがリンは何か知っているようだ。


「みんなどうして?」

「私たちがギルドマスターと面会中に伝令が来まして、オーバーフローが起こったと聞きました」

「あたしは部屋でゴロゴロしてた時に緊急の鐘が聞こえてね、何事かと思ってギルドに聞きに行ったらサーシャちゃんたちが居て事情を聞いたのよ」

「なるほど、それで急いで来てくれたんだ」

「えぇ、クリードが迷宮に来てたのはあたしが知ってたし……」


 やっぱり出掛ける前に伝えておいてよかったな。


「僕は……ちょっとクリードくんとお話したくて部屋に行ったらリンに迷宮に行ったって教えて貰って……迷宮に向かって歩いてる時に伝令からオーバーフローの話を聞いて急いで来たんだ」


 お話? なにか相談事でも合ったのかな?


「そうなんだ、ケイトのお陰で助かったよ、ありがとう」

「いやいや、ほとんど終わってたじゃないか、それにあの巨狼倒したのはウルトさんだよ?」


 ウルト……さん(笑)


「いや、正直ウルトはまだ見せたくなかったんだよね……プラチナに上がってからって話してたからさ」

「そうなんだ……」

「うん、あのタイミングでケイトが来てくれなかったら迷宮の外でウルトに頼るとこだった、だから本当に助かったんだよ」


 巨狼さえ現れなければあの5人にも見せずに済んだろうけどあれは仕方ない。


「それより1階層に残ったウルフと2階層の間引きに行こうかと思うんだけど、みんなどうする?」


 あとは俺だけでもなんとでもなるし戻っててもいいよ?


「僕は着いて行くよ」

「あたしも行くわ、せっかく来たのに何もせず帰るのはね」

「そうですね。みんなで行きましょう」

「分かった、ならウルトまたポケットに戻ってて」

『かしこまりました』


 小さくなったウルトを拾ってポケットへ。

 それから一旦外に出てへたり混んでいる5人に白銀の巨狼の討伐完了、それから1階層の見回りをすることを告げて全員で迷宮を進んで行った。

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