第47話 掃討戦

 2時間ほどかけて1階層の隅々まで探索、残っていたウルフを全滅させて2階層へ。


 2階層はやはりというかウルフが大量に徘徊していた。

 中にはウルフリーダーやファイアウルフなどの色付きも混じっておりかなり危険な状況だ。


「これは……やばいな、手分けして狩った方がいいかな?」

「クリード様、あまり分散するのは賛成しかねます」


 サーシャが窘めてくるがパーティを分断するつもりは無い。


「ウルト」

『はい』


 ポケットからウルトを取り出して元のサイズに戻す。


「なるほど、ウルト様ですか、これなら確かに戦力分散は最小限に抑えられますね」

「うん、ウルトなら負けることは無いし俺たちもこのメンバーなら何かあってもウルトが救援に来るまで耐えることくらいは出来るだろうしね」


 俺とウルトは離れてても会話出来るし俺、アンナ、それにケイトが専守に徹すればサーシャの回復魔法込みで考えればあの白銀の巨狼クラスが相手でも何とかなるだろ。


『マスター、マスターのスキル【トラック召喚】を使えばどこに居ようとすぐに合流可能です』

「そうなの? そういや最初に使ったっきりだったからなぁ」


 基本ずっと召喚しっぱなしだから使う機会も無かったしな。


「よし、ならウルトは別ルートで間引きを頼む。リーダーや色付きは特に念入りにな」

『かしこまりました』


 ウルトを送り出して俺たちも別ルートを進む。


 時にリンの魔法でなぎ払い時に前衛アタッカーを交代しながら進んで行く。

 ウルフ程度ならアンナも十分にアタッカーとして通用するので4人で回せるのだ。


 時折現れる色付きは魔法を使われる前にリンが感知、先制の魔法で周囲のウルフごと蹴散らしてくれるので対応する必要も無い。

 やはりパーティでの戦闘は役割分担出来て楽である。


「【飛翔閃】!」


 そしてなによりケイトの存在だ。


 今も大きく剣を横に一閃、剣から放たれた光の斬撃がウルフたちをスライスして行く。


 飛ぶ斬撃……超かっこいい……


 そんなリンとケイトの活躍もあり2階層も2時間ほどで一通り駆除を完了させることが出来た。


 ウルトの【生命感知】でも通常ウルフ以外の魔物は感知しなくなったので問題は無いだろう。


「よし、一通り回ったしもう大丈夫かな?」

「そうですね、これだけ狩ればしばらくは大丈夫でしょう」

「じゃあそろそろ出ましょうか」


 1階層への階段へ向かおうとした時それを止める声がかかった。


「あ、ごめん、ちょっと待ってもらってもいいかな?」


 ケイトだった。


「どうしたの?」

「いや、【アイテムボックス】に回収した色付きの魔石を回収しようと思って……外でやると片付けるのが面倒だからね」


 魔石の回収か……って戦いながら回収してたのか、気付かなかった。


「なるほど、ここに全部出せる?」

「え? あ、うん」


 ケイトは色付きとウルフをこの場にドサドサと出していく。

 えーと……100は居ないくらいかな?


「ウルト」

『回収します……完了しました』

「はい、終わったよ」

「え!? もう!?」


 今日何度目かのギョッとした顔をするがもう見慣れたな。


「うん、あとはスライムに任せて戻ろうか」

「え……あ、うん……」


 手にウルトが回収した魔石を出現させて見せるとケイトも納得したようでカクカクと階段に向けて歩き出した。




「おい! 出てきたぞ!」

「中は!? 中はどうなってる!?」


 迷宮から出ると、そこには数十人の武装した人とギルド職員と思われる人が数人待っていた。


「ギルドマスター……」

「え?」


 ケイトの呟いた言葉に思わず反応してしまう。

 ギルドマスター? 何でこんなとこに……ってそりゃ来ても何もおかしくないか。


「待っていたぞ! お前たちがオーバーフローを鎮めてくれた冒険者パーティだな? ちょっと話を聞かせてくれ」


 ギルドマスターと呼ばれた男は40代半ば程の筋骨隆々な偉丈夫だった。

 声もでかいしあんま得意なタイプじゃないかもな……


 俺たちはギルドマスターに連れられて出張所の中に入る。


「聞き耳立てるヤツが居ないか監視しとけよ!」


 中に居た職員に簡単に指示を出して出張所の1番奥の席に案内された。


「さて……全員ゴールドだな? そっちの3人はさっき面談したばかりなのに悪いな」

「いえ、お話をどうぞ」


 そういやそうだ、サーシャたちはついさっきまでギルドマスターと面談してたんだよな。


「分かった、ところでお前さんたちのパーティに名前は付けてるのか?」

「いいえ、付けていませんが」

「そうか、全員ゴールドランク以上なんだ、パーティ名くらい付けといて損は無いぞ? さて本題に入るが……」


 前置きとしては短いし微妙な話をしていたがようやく本題に入るようだ。


 ギルドマスターは初動、現れた魔物、討伐した魔物など事細かに尋ねてきた。


 それを俺とケイトで重要な部分は上手くボカシつつ説明をした。


「なるほど……白銀の巨狼ね……その死体は残ってるか?」

「回収してますよ。出しますか?」

「ここで出せるのか?」


 言われて周りを見るがここで出したら大変なことになりそうだ。

 部屋が白銀の巨狼の死体で埋まってしまいそうだ。


「無理ですね、ここじゃ狭すぎます」

「話を聞く限りそうだろうな。まずは確認したいから裏の解体所まで来て貰えるか?」

「わかりました」


 解体所に移動して解体テーブルを脇に寄せてもらい白銀の巨狼を出すと、ギルドマスター始め解体所の職員たちも言葉を失ってしまった。


「こりゃあ……すげぇな……」


 ギルドマスターはなんとか声を絞り出したが職員はまだ固まっている。


 スライム寄ってきてるし片付けていいかな?


「よし、確認した。片付けてもいいぞ」


 聞こうかと思ったら許可が出たので再度ウルトに積み込み片付ける。


 ギルドマスターは無言で先程の部屋に戻り話を続けた。


「あれは……初めて見たがおそらくグレートウルフだろう。魔王住む地の奥深くに出現したと記録が残っている。討伐したのはその時代の勇者パーティ、それ以外の事例は無いはずだ」

「グレートウルフ……ですか」


 俺はもちろん聞いたことは無い名前だが名前からしてヤバそうなのは分かる。実際ヤバかったし。


「伝え聞いている特徴が一致しているしこの特徴が合致するほかの魔物は居ない、つまりお前たちが討伐したのはグレートウルフで間違いないだろう」


 ギルドマスターはふぅ、と息を吐いて続ける。


「さらにウルフリーダーや各色付きウルフが多数、これは普通のオーバーフローなんてもんじゃない」


 オーバーフローじゃない?


「これは大暴走……スタンピードに該当する」


 スタンピード……よく聞く言葉ではあるけどオーバーフローと何が違うんだろう?


「スタンピードを鎮めたお前たちには相応の報酬を出す必要がある。まずは金だが、おそらく国から白金貨数枚、ギルドからも大金貨を何枚かと今後お前たちパーティからの買取金額の割増を約束する」


 白金貨? 白金貨って確か日本円換算1000万とかじゃなかったっけ?

 いやここで日本円換算する意味は無いんだけど……それが数枚……


 さらにギルドから大金貨数枚、しかも今後買取金額が割増されるって……相当ヤバくない?


「何を驚いた顔をしてるんだ? もしあのまま討伐出来ずにグレートウルフが外に出て暴れてみろ、白金貨数枚程度の損失じゃない」

「それは……確かに……」

「むしろ安いくらいだと思う。これだけしか出せなくてすまない」


 ギルドマスターは膝に手を付き深々と頭を下げた。


「勘弁してください、俺は気にしないので頭を上げてください」

「ぼ、僕も気にしないので……」


 俺とケイトがそう言うとギルドマスターは頭を上げた。


「それから……あのグレートウルフを討伐したのはお前ら2人だな? お前らには特例でミスリルランクへの昇格申請を出しておく、まず認められるだろう」

「ミスリルランク!?」

「いや、あの、僕何もしてない……」

「あの場に居た、グレートウルフと対峙した、それで生き残ったんだ、それだけの価値はあるさ」


 テンパってカミカミなケイトにギルドマスターは優しく告げる。

 でもなぁ、それなら……


「あの……俺たちの他に確かシルバーランクの冒険者が5人居たと思うんだけど」

「あぁ、彼らなら全員ゴールドランクへの昇格申請を出してるぞ。アイツらも認められるはずだ」


 よかった、ちゃんと彼らにも見返りはあるんだな。


「そう言う訳で1週間はこの街に滞在して欲しい。それくらいにはおそらく結果も出るだろうからな」

「1週間ですか、わかりました」


 ミスリル装備の完成までに2週間かかるからな、なんの問題もない。


「話は以上だ。疲れているところ悪かったな」

「いえ、失礼します」


 簡単に挨拶を済ませて俺たちは出張所を後にした。


 それにしてもミスリルランクか……どうしたもんかね?

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