第45話 迷宮前防衛戦
「落ち着いてくださーい! まずは迷宮から脱出をお願いしまーす! 慌てず騒がず落ち着いて行動お願いしまーす!」
広間ではギルド職員と思われる男性が周りに大声で指示を出している。
周りの冒険者はその指示に素直に従っているようで並んで迷宮から外に出て行っている。
「なぁ、この後はどうするんだ?」
周りに冒険者の姿が見えなくなったので職員に声を掛けて聞いてみる。
「柵の両側に冒険者、職員を配置して柵の内側を通る魔物を削ります。少しでも外に出る魔物を減らす必要があります」
「なるほど、ちなみに今は1階層にウルフが現れ始めてるが2階層以降はどうなってるか分かるのか?」
「おそらく異常発生は2階層のウルフですので3階層以降は特に問題無いかと……3階層以降に潜っている冒険者の方々が気付いて背後からウルフを削ってくれるとありがたいのですが、上手くは行かないでしょうね」
それってウルフの間引きが上手く出来てないからなのかな?
それが原因なら人の立ち寄らない5階層以降の魔物は異常発生したりしないのだろうか?
まぁ今考えても仕方ないか。
「とりあえず1階層にはもう冒険者は残ってないはずだからアンタも地上に戻った方がいい」
「本当ですか? 貴方は……?」
俺は自分の冒険者証を取り出し職員に見せる。
「俺は【気配察知】のスキルも持ってるし1階層はこの騒ぎが起きてから走り回ったから大丈夫なはずだ。それから俺はどこで戦えばいい?」
「ゴールドランク! 助かります! 出来れば迷宮入口で外に出てくる魔物を減らす役割をお願いしたいのですが……」
どう考えても1番危ない場所だよなぁ……ランク的にそれは仕方ないか……
それにウルフ程度ならいくら攻撃受けてもダメージは無いだろうし、適任と言えば適任だろう。
「わかった。他にその役割やる人は?」
「ゴールドランクの方が居ないのでシルバーランクでも名の通った方たちにお願いしています。クリードさんも危ないと思ったら撤退してくださいね!」
「わかった、ありがとう」
職員と一緒に迷宮から出ると、辺りは物々しい雰囲気に包まれていた。
ギルド出張所や屋台には人は居らず避難しているようだ。
子供たちの姿も見えないので一緒に避難しているのだろう。
職員の言っていた名の通ったシルバーランクパーティとやらを探してみるとすぐに見つかった。
と言うより俺と職員、そのパーティしかこの場に居ないから当然だが……
「ってさっきの5人組かよ」
「アンタは……子供たちはちゃんと無事連れ出したから安心してくれ」
「それは良かった。てかお前らは大丈夫なのか?」
3階層のボス部屋から逃げ出して来たの覚えてるぞ?
「僕たちは普段3階層で狩りをしてますからね、ウルフ程度ならどうにかなります」
「無理はしないけどね。お兄さんは1人? ソロの冒険者さんなの?」
「いや、パーティ組んでるけど今日は試したいことがあったから1人で来てるんだよね」
サーシャたち、特にリンが居ればウルフ程度何百匹出てきても問題無いと思うんだけど居ないものはどうしようも無い。
「そっか……ならアタシらが前に出て戦うからお兄さんはアタシらを抜いたウルフをお願いしてもいい?」
「いいよ」
向こうはパーティだし、魔法使いも居るみたいだし俺が前に出ちゃうと邪魔なんだろうな。
それなら言われた通り後ろで抜けてきたウルフ倒してる方が邪魔にならない。
「まぁ無理はするなよ? なんかあったらすぐに変わるから」
「はは……その時はお願いします……」
『間もなく先頭のウルフが迷宮から出てきます』
軽く打ち合わせをしているとウルトから警告、もう間もなくオーバーフローが始まるらしい。
「来るぞ! 前は頼んだ!」
俺の気配察知にも掛かったので5人に伝え数歩後ろに下がる。
「やるわよー!」
「おー!!」
5人もやる気に溢れているようだ。
「行くわよ!」
5人組の中の紅一点の魔法使いが火の魔法を撃つ。
それなりに大きな火球が飛び迷宮入口から飛び出してきたウルフの群れに直撃した。
魔法はウルフたちを燃やし後に続いて飛び出そうとしていたウルフの足も止めることに成功したようだ。
しかし足が止まったのもつかの間、すぐにウルフが大量に飛び出してくる。
「多いわね!」
魔法使いの女の子は文句を言いながらも火の魔法を放ちダメージを与えていく。
「来るぞ! エリーには近寄らせるな!」
剣と盾を持った男がエリーと呼ばれた魔法使いの前に立ち塞がる。
他のメンバーは少しだけ前に出てウルフに各々の武器を突き刺し仕留めている。
「あっ!」
そんな時数匹のウルフが攻撃を掻い潜り後方へ抜けてきた。
剣と盾を持った男やエリーのことも避けるように進んできたのですぐに俺の目の前まで走り寄ってきた。
軽く剣を振ってウルフの首を落とす。このくらいなら何匹来ても問題無い。
「ごめんなさい!」
「気にするな! もっと抜かしても構わない!」
謝罪してくる冒険者に気にするなと伝え飛びかかってくるウルフを斬り捨てる作業に戻る。
もっと抜かせないときみらがきついでしょ?
そのまましばらくウルフ討伐を続けるが、遂に危惧していたことが起こってしまった。
「魔力が……」
迷宮入口付近に火球を飛ばして足止めと攻撃を行っていた魔法使いの魔力が残りわずからしい。
俺が変わるか? とも思ったが俺に火魔法の適性は無いし、何より俺がここから抜けると外に抜けるウルフの数が一気に増えてしまう。
どうしたもんかね……
『マスター、ウルフリーダーの反応を感知しました。数は7』
「マジか」
前のパーティは……かなりやばいな、崩れそうだ。
この上ウルフリーダーまで来たら崩れるどころか全滅まであるか……
今のところウルフは俺たちを襲うより外に抜けることを優先してるっぽいからなんとか形は保ててるけどウルフリーダーが出たら総崩れ間違い無しだわ。
オワタ……
『マスター、ケイトの生命反応を確認、間もなく到着します』
……え?
なんでケイトが?
でもケイトが来てくれるならまだなんとかなるか……
「全員下がれ! ウルフリーダーが来るぞ! 俺が前に出る!」
とにかくケイトが到着するまで戦線を維持することが先決、前に出て全力で抑えよう。
前に出ていた戦士たちが魔法使いに合流するのを視界の端で確認して前に出る。
ウルフは……最悪何匹か抜かしてもどうにかなるよね?
とにかく目の前の敵を斬り裂いて数を減らす。
あのパーティが撤退してくれたらウルト出せるんだけど、撤退はしないか……
『ウルフリーダー来ます、ケイト到着まであと30秒』
30秒か、それなら耐えられる。
迷宮入口から飛び出してきたウルフリーダーの首元を貫いて屠る、まず1匹。
次は数体のウルフを伴って接近してくるウルフリーダー2匹、最小限の動きでウルフを斬り捨ててウルフリーダーの爪を回避、カウンターで首を刎ねる。
飛びかかってくる2匹目のウルフリーダーも落ち着いて最速最短の一撃で斬り裂く。
さて次は――
「クリードくん!」
迷宮から現れた5匹のウルフリーダーと大量のウルフを見つめどこから削ろうかと考えているとケイトの声、どうやら到着したようだ。
これならなんとかなるか……
「ケイト、助かる」
「オーバーフローだね、僕が前に出るからフォローよろしく!」
ケイトはウルフリーダーに向けて突進、一撃でウルフリーダーを仕留める。
「グルァ!」
その隙にケイトに飛びかかろうとしたウルフリーダーに向けて電撃を飛ばし頭を貫く。
ケイトは踊るようにステップを踏み一撃一殺、俺も次々と電撃を飛ばして援護する。
数分もしないうちにウルフリーダーは全滅、ウルフの数も最初の3分の1以下まで減らすことに成功した。
『迷宮内に巨大な生命反応、ウルフリーダーとは比べ物になりません』
ようやく終わりが見えてきたと思ったところにこれだ、今度はなんだろうか。
「クリードくん、今なんかゾクッとしたんだけど……」
「うん……なんかヤバいのが出てくるぞ……」
周りのウルフを蹴散らして迷宮入口に向けて構える。
俺の【気配察知】でもヤバい気配がビンビンに感じられる。
「グルル……」
迷宮の暗がりから現れたのは白銀の体毛を持つ巨大な狼。
さらに背後には数え切れないほどのウルフ、これは……
「クリードくん……アレはヤバい、僕じゃ勝てない」
「俺も無理かな……」
見た瞬間わかった、これは勝てる勝てないのレベルでは無いと。
諦めて撤退するか?
いや、背中見せたらその瞬間死ぬ未来しか見えない。
生き残るにはアイツを倒すしかない……
これは手の内隠すとか言ってる場合じゃないな。
「ウルト……アレに勝てるか?」
『お安い御用です。御命令を』
なんとも心強い。
何人かに見られるがここは割り切る。
「殺れ。あと目立たないように迷宮内でお願い」
『イエスマイマスター。前方に私を投げてください』
ポケットからウルトを取り出して全力で投げる。
ウルトは空中で元のサイズに戻りながら着地、そのまま加速して周りのウルフごと巨大な白銀の狼を迷宮内に押し戻して行った。
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