第44話 オーバーフロー
部屋に戻って光源の魔法を使用して練習を開始したがふと思った。
「攻撃魔法、使いたい」 と。
しかし宿で攻撃魔法を打つ訳にはいかない。
どうする? 迷宮まで行くか?
片道徒歩1時間ほど、走れば往復で1時間切れるか?
体力トレーニングにもなるし、迷宮前に居る子供たちのことも気になる……
走っていって飯食わせて1、2時間くらい練習してから走って帰るか……
心の中でそんな予定を立てつつ自室を出てほぼ正面の部屋の扉を叩く。
「はーい、誰ー?」
やはりリンは部屋にいたな。
ソフィアとアンナが帰ってきていたのだから当然だが……
「俺、クリードだよ。ちょっと迷宮行ってくるから」
「は? え? 迷宮に?」
迷宮に行くと告げると慌てたように部屋の中でバタバタする音が聞こえてきてすぐに扉が開かれた。
「ちょっとクリード、こんな時間からいきなり迷宮に行くなんて何かあったの?」
「いや別に? さっきまでケイトと剣術の訓練してたんだけど、魔法の練習もしたいなって思ってさ……街中で攻撃魔法の練習するのもどうかと思うし、子供たちも気になるからサクッと迷宮行ってこようかなと」
俺が説明するとそういうことねとリンは納得してくれた。
「分かったわ。あまりやり過ぎないようにね」
「分かってるよ。走って行くから往復で1時間くらいだろうし、迷宮も1階層の角ウサギ相手に練習するから。練習自体は1時間ちょいくらいの予定かな?」
予定を伝えて了承を取り出発。
持ち物はポケットにウルトだけだ。
街中は軽くジョギング程度、街を出てからは速度を上げなんと20分で到着することが出来た。
体力的には割とキツい、息は乱れ汗が吹き出している。
今度からはもう少しペース落とそう……
「お兄さんだ」
「今日もご飯くれるのかな?」
「バカ! 聞こえちゃうぞ!」
子供たちは俺の姿を発見してヒソヒソと……丸聞こえだが会話しているようだ。
内容は食事のこと、やはりあまり食べられていないらしい。
俺は子供たちに近付き手招きして呼び寄せる。
「腹減ってるか?」
俺がそう問いかけると子供たちは神妙な顔で頷いた。
「よし、好きな物食え、腹いっぱいまで食っていいぞ!」
「ありがとう!」
「お兄さん優しい!」
神妙な顔をしていた子供たちだが食べられるとわかると花が咲くようにみんな笑顔になった。
屋台で腹いっぱい食べさせて代金を支払う。
銀貨1枚と少し、黙っていてもいいけどリンには子供の様子も気になると言って出てきた手前伝えた方がいいんだろうなぁ……
「ごちそうさまでした」
勢いよく食べる子供たちを眺めながら考えていると、早い子は食事を終えたようだ。
次々と食べ終わる子供たち、それを見ていて思いついた。
今日は1階層ウロウロするだけだから何人か連れていこう。
というか松明かランタン持って貰わないと暗くて練習どころじゃないことに気がついた。
俺、ツインマジックのスキル持ってないんだから魔法の同時起動は出来ないわ……
「よし、食べ終わった子何人か着いてきて。仕事しようか」
食べ終えていた大きい子たちが顔を上げる。
何人くらい連れて行こうかな?
どれだけ狩れるかわからないけど成果は全部子供たちに渡してもいいし、とりあえず食べ終わった子全員連れて行こうかな?
「顔上げたのが6人か、よしじゃあ着いてきて」
6人の子供を引き連れて迷宮前で道具屋をやっている屋台で買い物、ランタンと長い棒を数本、それとナイフを2本と袋を数個購入してそれぞれ子供たちに持たせる。
「じゃあ行こうか。魔物見つけたら教えてね」
はい! と子供たちの元気な返事を聞いて迷宮入口の階段を下る。
以前地図を購入した広間を抜けて通路へ、ここからは魔物が出現するから気を付けなければ。
ランタンに火を灯して持たせる。
これ思ったより暗いな……目が慣れるまではほとんど見えないぞ……
対して子供たちは慣れているようで緊張はあまりしていない様子、これなら安心かな?
『前方ウサギ1匹来ます』
イヤホン越しに聞こえるウルトの声、俺は魔力を手に集め雷の魔力に変換して角ウサギに備える。
俺の【気配察知】でも捉えたので暗くても場所は分かるし動きも読める。
ある程度引き付けたところで魔法を発動、指先から放たれた一筋の稲妻が角ウサギを貫き絶命させた。
中々威力あるな……
子供たちは辺りを警戒しながら進み、手早く倒れた角ウサギら魔石を回収して血抜きを行い完了したら棒に括り付ける、かなり慣れた手付きだ。
子供たちの作業が終わったことを確認してさらに奥へ進む。
出会った角ウサギに色々な属性の魔法を浴びせて倒していく、やはり以前ウルトが言っていた通り雷の魔法が1番威力もあるし変換がスムーズに行えるので使いやすい。
倒した角ウサギが10匹……10羽? を超えたのでそろそろ戻ろうかと子供たちと話していると、奥から大慌てで走って来る5人組をウルトが感知した。
どうやら以前3階層のボス部屋に挑み敗北していた5人組冒険者パーティのようだ。
そんなに大慌てでどうしたのだろうか?
「おい、どうした?」
姿が見えたので声を掛けてみる。
5人は後ろを気にしながらも立ち止まって説明をしてくれた。
「魔物の大量発生だ! オーバーフローが起こる可能性がある、あんたらも急いで戻った方がいいぞ、2階層はウルフで溢れそうになってる!」
それを聞いて不安そうな表情を浮かべる子供たち。
「わかった、戻るぞ」
慌てさせないよう敢えてゆっくり告げる。
迷宮内で騒いではいけないことは理解しているようで、無言で首をコクコクさせている。
『マスター、2時の方向に冒険者、数は4です』
「おい、あっちに別のパーティが残ってる、俺はそっちに声掛けてるくるから子供たちを頼んでもいいか?」
「わかるのか? わかった、子供らは任せろ!」
5人組に子供たちを託してウルトが感知した冒険者の方へ駆ける。
『次の分岐を右へ』
「了解」
ウルトのナビに従い走ること数分、角ウサギの群れと戦闘中の若い冒険者集団を発見した。
本来なら手を出すのは厳禁だが今は非常事態、可及的速やかに倒す必要があるので冒険者から離れた位置に居る角ウサギに電撃を放ち討伐する。
「な! 誰だ!?」
「緊急事態だ、下で魔物が異常発生しているらしい! 倒した後の素材はやるから介入するぞ」
獲物の横取りを懸念した若い冒険者に睨まれるが一喝、冒険者たちの持っている松明の明かりを頼りに魔法を撃ってさっさと角ウサギを仕留める。
「解体は後にしろ! さっさと迷宮を出るぞ!」
「わ、分かりました! おい!」
「お、おう!」
若い冒険者たちはそれぞれ角ウサギを掴み出口に向けて走り出す。
俺も光源の魔法を浮かべながら冒険者たちについて走り出す。
『マスター、前方よりウルフ、数は10』
「あら……ウルフってことはオーバーフローってやつ?」
「え? 今ウルフって……」
ウルトからウルフ感知の報告を受けて呟くと前を走る冒険者に聞こえたようでこちらを振り返って目を見開いている。
「聞こえた? 君らウルフと戦ったことある?」
「一応……1匹くらいなら……」
「そっか、なら俺がやるよ、10匹前から来てるから」
「え!?」
まぁ1階層でウサギ狩ってる冒険者にウルフはキツいか……
見るからに装備も整って無いしね。
「下がってて」
俺は腰に差してある鉄の剣を抜いて前に出る。
「グルル……」
すぐにウルフと遭遇、魔法で数を減らしたいところではあるが光源の魔法は解除出来ないので仕方ない。
しっかりと腰を落として構えて1匹も後ろへは通さない構えだ。
まずは1匹、音も立てずに襲いかかってきたがその場で迎撃。
最小限の動きで首を刎ねて仕留める。
1匹殺られたのが見えたのか残りは俺を包囲するように動きながら迫ってくるが問題無い。
1匹1匹飛びかかってくるのを撃ち落とし難無く10匹を殲滅する。
「行くぞ」
後ろの冒険者たちに短く言って駆け出す。
ウルフの毛皮や魔石の回収をする時間は無いので放置だ。
しかし1階層にウルフが現れるなんて……これがオーバーフローか……
それから1階層入口の広間に着くまでに数度の襲撃があったが全て5匹以下の群れだったのであっさりと倒して通過、誰も怪我させることなく広間までたどり着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます