第8話 ウルトの能力
みんなの紹介を済ませ少し雰囲気が柔らかくなってきたので、そろそろ気になっていることを聞いてみる。
「それでウルト、ウルトはどんなスキル持ってるんだ?」
『【悪路走破】【無限積載】【瞬間加速】【瞬間停止】【慣性無視】【衝撃緩和】【自己修復】【車体サイズ変化】【重量変化】【生命感知】【形状変化】以上です』
多くね?
「11……ですか……」
「聞いた事のないスキルが多いですね……」
「すーごいッスねぇ……」
もはやデフォルトになりつつある驚愕顔で驚く3人。
俺? 俺は11個が多いのかどうかすらわかんないからね。
「それでどういう効果があるんだ?」
「え? クリード様落ち着いてらっしゃいますね……」
「それは住んでた世界が違うから常識が違うんだろうね。俺のいた世界にはスキルは無かったからね……正直11個って多いの? って感じだから」
「なるほど、言われてみれば私とクリード様の常識が違うのは当たり前ですね」
「そういうことそういうこと。じゃあウルト、どんな効果があるか教えて貰ってもいいかな?」
『はい。では順番に。【悪路走破】は多少の凹凸があっても揺れずに走ることが可能になります。物凄いサスペンションだと思ってください。ラリー車など比較になりませんよ』
いやラリー車って超揺れるくね?
さっきの試乗でも全然揺れなかったから街から街の移動とかめちゃくちゃ楽になりそうだな。
『次は【無限積載】ですね。積載容量の限界が無くなり異空間に荷物を積載可能です。積み下ろしもオートで行えます。先程のゴブリンの耳や魔石のように特定部位のみ積載することも可能です』
これめちゃくちゃ優秀なスキルだな……
俺自身が収納魔法が使えるようになるか分からないし、その代用としては十分すぎる。
『【瞬間加速】【瞬間停止】についてはマスターのスキルと同じですね。【自己修復】もマスターの【自己再生】と効果は変わりません』
うん。
『【慣性無視】と【衝撃緩和】は主に運転席や荷台の中に対してのスキルですね。乗り込んでいる間ほとんど慣性の影響を受けず外部からの衝撃を緩和するため快適な乗り心地となります。
【悪路走破】と【衝撃緩和】の2つでよりスムーズな走行が可能となっております』
乗り心地ね……至れり尽くせりなことで……
『【生命感知】は半径500メートルの範囲内にいる生物を感知できます』
500メートルって広くない?
ソフィアの目が驚愕でさらに大きく見開かれるのが見えた。
そういえばソフィアも【気配察知】のスキルを持ってるから範囲の広さに驚いたのかな?
『【形状変化】はある程度形を変えられます』
「形を? それは【車体サイズ変化】とは違うのか?」
『違います。【車体サイズ変化】はこのままの形で大きさを変えられるスキルで【形状変化】は形そのものを変えるスキルです』
ふむ? わかるような分からないような……
『最後に【車体サイズ変化】と【重量変化】ですね。
先程軽く触れましたが【車体サイズ変化】は車体を現在の大きさを最大としてミニカーサイズまで自由に変化することが出来ます。
【重量変化】は1グラム〜30トンまで自由に変化させることができます。
なので両方のスキルを使うと小さくて軽いミニカー〜総重量30トンの大型トラックまで自在に変化することが出来ます』
「持ち運び用、突進力増強用のスキルって感じ?」
『付け加えるならば狭い場所でも移動可能になりますね』
なるほど、聞けば聞くほど便利で強そうだな。
「なんでも出来そうだね」
『全てはマスターのために』
殊勝なことで……
『それとマスター、ステータスの確認をしてみてください。先程のゴブリンとの戦闘でレベルが上がっていますので』
「はい?」
言われるがままにステータスを開いて自分のレベルを確認してみると、確かにレベルが1から3に上がっていた。
「ステータスは……変化なしか」
なんでウルトが倒したのに俺のレベルが上がってるんだ?
『私はマスターに召喚された存在です。私の経験はマスターにもフィードバックされます』
「そういうもんか」
多分俺には理解できない話だろうしもう諦めよう。
「信じられません……」
ようやく現実に帰ってきたソフィアが呟き、続ける。
「異世界の勇者というのはここまでの存在なのですね……私にては理解が追いつきません……能力もそうですが、この状況を受け入れられるクリード殿の懐の深さも相当なものです」
なにか感心したように言うが懐が深いとか浅いとかじゃないと思う。
「いや、俺にも全く理解出来てないよ? もう諦めただけだよ」
「いえ、そうやって諦められるのがすごいと思うのですが……」
「そういうもんかな? まぁ人生諦めが肝心とも言うしね」
「異世界の格言ですか? 諦めて死をも受け入れるということでしょうか……」
ソフィアはそんな事を言って顎に手を当てるが怖いこと言わないで欲しい。
でもこの世界じゃ諦め=死に繋がることが多いってことの裏返しでもあるのかな?
「クリード様、少々よろしいでしょうか?」
「ん?」
なにか言いづらそうにサーシャが話しかけてきた。
サーシャも現実に戻ってきたんだな。あとはアンナだけど……あ、ウルトの周りを回りながら観察してるな。
「実は帰ってからお話しようかと思っていたのですが、パーティを組めないかと思いまして」
やっぱり聖女様御一行に組み込むつもりだったのね……
「その心は?」
「はい。ご存知の通り私は聖女です。聖女として人々のために活動したいと思っています」
うん。それでそれで?
「今この世界は魔の脅威に晒されています。本来でしたら勇者パーティと合流してこの力を活かして魔王討伐の役に立とうと思っていたのですが、門前払いされてしまいまして……」
「それはさっき聞いたね。つまり一応勇者の一人である俺を加えてなにかしたいって事?」
「はい。私たちだけで魔王討伐を成せるとは思いませんが勇者一行の手助けくらいは出来ると思うのです」
まぁ確かに……
聖女っていうくらいなんだから力はあるんだろうし、そこに俺というかウルトが加われば出来ることも増えるんだろうけど……
なんかアレだな、力があったから誘った感が拭えない……
「それは俺に力があったから? ウルトの力が魅力的に見えたからかな?」
少し意地悪な質問かもしれない。
けど力があったから誘ったけど力が無ければトラックを見て満足してサヨナラだった可能性もあるしなぁ。
「いえ、そんな事はありません。とらっくに興味があった事は事実ですが、クリード様を誘ったことと力に関係はありません」
……それはそれでどうかと思うけど。
「というより召喚された勇者の1人であるクリード様が無力とは初めから考えていませんよ? 力があることは前提です。それよりも異世界の勇者であることが重要です」
「どゆこと??」
よくわからない。
「こういう言い方はどうかとも思いますが、異世界の勇者であるクリード様と共に行動することが重要なのです。私は国から勇者と共に戦うことを指示されています。なのでクリード様共に行動することが国からの命令に従うということにもなるのです。
そして命令に従っている限り私が帰国して教国に縛られることもありません」
「えーっと……つまり?」
「クリード様と一緒に居れば私は帰らなくていいんです! あんな堅苦しくて自由に歩き回ることもできない場所に戻りたくありません!」
なんか笑ってしまった。完全に私情じゃん。
「それに異世界の勇者であるクリード様となら旅をするにも安全かなーと……ウルト様の存在は想像を遥かに超えていましたが……」
サーシャはそう言ってウルトを見る。
うん、ウルトはヤバいと俺も思う。
「なるほど、一応理解したよ。でもトラック運転手って職の俺にも力があると思っていたのはなぜ?」
「伝承によると異世界の勇者は後衛職でもこの世界の前衛職より強くなれるとありますので、クリード様がどのような職でも私たちより強い、または強くなると考えていました」
後衛職でもこちらの前衛職より強い?
見た目判断だけど、あのチビヒョロガリメガネ君が賢者だよね?
アレでソフィアやアンナより強くなるの? 不思議!
「そうなんだ、なら俺の職に拘らず力があると思っていたことと辻褄は会うね。でもなんで帰ってから話すつもりだったの?」
先に言えばよくね?
冒険者ギルドに登録した時とか。
「言っていませんでしたが実はもう1人仲間がいまして……彼女は宿でお留守番していますので顔を合わせてから話そうかと……」
「あー、なるほどね。そういうことならわかるよ。でもなんで留守番? 体調でも悪いの?」
「いえ……面倒臭いから寝てると……」
「……その人も護衛……なんだよね?」
「はい……でもまぁそういう人なので……」
歯切れが悪いな……しかしサーシャが納得してるなら俺が口出すことでもないか。ソフィアとアンナも居るんだし。
「わかったよ、話は理解した。俺もこの世界右も左も分からないし頼れる人もいない……仲間として受け入れて貰えるなら喜んで」
俺がそう言って右手を差し出すとサーシャは嬉しそうに両手で掴んできた。
「よろしくお願いしますねクリード様」
その時のサーシャの笑顔は今日一番の美しい笑顔だった。
不覚にもドキッとしてしまったが冒険者仲間に対してそういう気持ちになるのはあまり良くないだろうし気をつけよう……
いやでも追放系チーレム作品なら……
辞めよう、ファンタジー小説と現実は違うんだから辞めよう……
そもそも追放系だとしてチート枠は俺じゃなくてウルトっぽいし弁えないと……
俺は寄生虫……俺は寄生虫……俺は寄生虫……よし!
理想と現実は違う、俺はそのことをしっかりと胸に刻んでサーシャたちの顔を眺めた。
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