第1話 勇者召喚と追放

「んむぅ……」


 なんか肌寒い……てか背中痛い……

 毛布どこ……てか固くね? 布団どした?


「痛たた……」


 流石に寝ていられず体を起こすがどう見てもトラックのベッドでは無い。


 周りを確認してみるが様子がおかしすぎる。


 場所は……石室? 石造りの部屋でそれなりに広い部屋だ。

 壁にいくつもの松明? が掛けられており暗いということは無い。


 床には一応絨毯が敷いてあるが布団と比べるとやはり薄いようで体中痛い……


 さて、敢えて見ないようにはしていたがすぐ近くには俺と同じように倒れている人が何人か居る。

 えっと……男3人女2人か?


 そして倒れている人の向こう、扉の前には数人の人影が見える。

 ここからでは少し暗くて見えづらいが10人ほどか?

 男女の区別は付かないが真ん中に居るのはデブってことだけはシルエットでわかる。


「……え?」


 思わず声を出してしまった。

 起きたこと気付かれたかな? いや、体起こしちゃってるからそりゃもう既に気付かれてるよな。


 俺が起きたからか向こう側の人影が話し合っているように見えるが小声なのか聞き取ることができない。


 え? マジなにこれ? ドッキリ?


 目が覚めたら石造りの部屋でしたドッキリ?

 でも俺一般人だし知り合いに動画投稿者なんて居ないぞ?


 一人で混乱していると、周りに倒れていた人たちが次々と目覚めた。


「痛たた……」や「ここどこ?」や「夢?」など口々に呟きながら起き上がってくる。


 全員が起き上がった時、パンッと大きく手を打ち鳴らす音が聞こえてきた。

 俺を含め全員が音の方へ注目する。


「我らの召喚に応じてくれて感謝するぞ勇者たちよ! このまま話をするにはここは適さぬ、すまぬが移動願えるだろうか?」


 声を発したのは大柄な人影。数歩前に出てきて話していたので松明の明かりに照らされてその姿を見ることが出来た。


 大柄な男で豪奢な鎧に身を包み腰には剣を携えている中年男性。


 こちらの全員が現状を理解出来ず立ち尽くしているのを無視して踵を返し部屋の外へ向かい歩き始めた。


 俺たちも慌ててその男に付いて部屋を出る。


 この男以外の部屋にいた人たちは男が話しているうちに一足早く部屋を出ている。

 その集団に続いて男、さらに俺たちが続いて歩いていく。


 何度か角を曲がったり階段を登ったりしながら10分ほど歩くと先頭集団はとある扉に入っていった。


 俺たちも続いて部屋に入ると、さらに複数の人間がその部屋で待っていた。


 最初に俺たちに声をかけた大柄な男は俺たちに長机の前に座るよう指示して扉の前に立つ。

 これで逃げ道は塞がれた感じかな?


「ここまで御足労ありがとうございます勇者殿方。私はこの国で宰相を務めるエラルド・カーチスと申します。以後お見知り置きを」


 エラルドと名乗った禿げあがった頭ででっぷりと太った男は右手を胸に当てて軽く頭を下げた。


 釣られて会釈を返してしまったがこのデブ多分さっきの部屋で真ん中に居たデブだろう。


「そしてこちらに御座すは我らがエルヴニエス王国国王、エルリック・セラフ・フォン・エルヴニエス国王陛下です。皆様粗相のないようにお願いします」


 国王と紹介された男性は一際大きな椅子に座っていた。

 歳の頃は40前後だろうか、俺に仕事を教えてくれた変態……いや先輩と同じくらいに見える。

 宰相エラルドとは違い服の上からでも鍛えているのがわかる体つきをした髭の似合うナイスミドルだ。


 エルリック陛下は軽く頷いて話の続きを促す。


「皆様を召喚するに至った経緯としましては、伝説に謳われる魔王が復活しまして……我々も立ち向かいましたが歯が立たず、藁にもすがる思いで伝承に残っていた勇者召喚を行ったところ皆様が現れた、ということです」


 勇者召喚……

 その言葉で俺の胸は高鳴った。


 何を隠そう俺はオタクだ。異世界ファンタジーが大好きだ。

 21にもなって異世界転移や異世界転生を夢見るチーレム大好きお兄さんだ。


 これは俺の人生始まったかもわからんね?


「まず皆様にはステータスの確認を行って頂きます。紙とペンをお配りしますので、ステータスを書き写してください」


 おっけ、ステータスね? テンプレテンプレ、どうやって見るの?


「ステータスオープンと唱えてください。そうしますと自分のステータスが表示されますので」


「ステータスオープン」


 俺含め6人がほぼ同時に唱える。


 すると目の前に半透明の……ウインド? が表示されて色々書かれている。


 えっと……なになに?



◇◆


 名前……久里井戸玲央 Lv1

 職業……トラック運転手

 年齢……21

 生命力……D 魔力量……E 筋力………D 素早さ……E

 耐久力……D 魔攻……F 魔防……E


 スキル

【トラック召喚】【トラック完全支配】


◇◆


 ……ん?

 おかしな表記がいくつか見られたのでもう一度読み直す。


 ……うん、何回みてもトラック運転手って書いてるね?

 スキルにトラック召喚とか支配とかあるけど全く意味わからんぞ?

 いやいや、まぁ確かに俺はトラック運転手ですけども……


 え? 職業ってそういうもの? と思い隣の男の子の紙を盗み見ると、そこには職業……勇者と書かれていた。


 ……あるぇ? これあれか? 勇者としてパーティで戦って魔王を倒す! 系じゃなくてバカにされて役立たず呼ばわりされて追放される系か?


「端の方、どうかされましたか?」

「あ、いえ、なんでもないです」


 勇者にビビったけどステータス表記にもビビる。俺とは別次元て感じ?


 嘘を書いてもバレそうだしバレたら余計マズそうなので正直にありのままを書く。


 全員が書き終えた所で兵士のような人が用紙を集めて最初エラルドに手渡した。


「ふむ、忍者に賢者、聖騎士、剣聖に勇者……ん?」


 職業を読み上げていたエラルドの声が止まる。

 呼ばれてないの俺じゃないですかー、完璧に見咎められてるじゃないですかー……


「トラック……運転手?」


 はい、トラック運転手です……


「陛下、なにやら変な職業が混ざってしまった様子。職業も聞いた事のない職業ですしステータスも……平均よりはやや上ですが他の勇者殿方とは比べ物になりません」


「左様か……強者の集団に1人でも弱者が混ざると機能せん。その者にはいくらか金を渡してお引き取り願え」

「かしこまりました、おい!」


 宰相エラルドは近くにいた細身の男に声をかけて走らせる。

 おそらく手切れ金を取りに行かせたのだろう。


「クリイド殿、すまぬが貴殿に勇者としての力は無いようだ。しばらく困らぬよう取り計らうので勇者殿方の邪魔をしないようにしてもらえぬだろうか?」


 丁寧に話してくれてはいるが侮蔑の感情が見え隠れする。

 しかしいきなり処刑だの無一文で放り出すなどしないところを見るとまだマシな対応ではなかろうか?


「お持ちしました」

「うむ、ではクリイド殿、これを持って行くがいい。そこの騎士に城外まで案内させる」


 傍に控えていた兵士が一歩前に出たので俺は立ち上がり部屋を出る。

 逆らっていい事は無いだろうし。


「ではこちらに」

「どーも」


 立ち去る際に一緒に召喚された人たちに目をやるがあからさまに逸らされてしまった……

 下手に暴言吐かれてバカにされるよりはいいか……


 俺は先導する騎士に付いて歩いてやがて大きな門の前にたどり着いた。


「ではこちらを。大変かもしれませんが頑張ってください」

「ありがとうございます」


 騎士さんは俺に金の入っているであろう袋を手渡して戻って行った。


 さて、これからどうしよう……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る