第2話 隣国の聖女様
王城の門を見上げて思案に耽る。
追放系なら追放系でもっとテンプレ通りにボロカスになじられてから放り出された方がいくらかマシだと思う。
微妙に親切にされちゃうと恨めないしざまぁwwwwできないし……
そもそも実は最強パターンも無いっぽいしどうしたものか……
一応この世界の言葉と文字は理解できるみたいだし、ステータスも平均よりは上みたいなこと言ってたから冒険者にでもなろうかな?
あるのかは分からないけど。
とにかくこんな目立つ場所に居ても仕方ないし移動しよう。
行くあても無いけどとりあえず歩いていればなにかしらあるでしょ。
「あの……」
まずは適当に歩き回ってみようかな?
テンプレなら王城付近って貴族街みたいになってること多いしまずは一般人区画? 平民区画? とにかくそういう場所に出よう。
「あの……!」
俺のカンによれば……こっちかな?
「すみません!」
「はいっ!」
いきなり耳元で大きな声が聞こえてびっくりした。
振り返るとそこには長い金髪の修道服を着た美女が立っていた。
「どちら様で?」
「いきなり申し訳ありません。私はサーシャ・ライノスと申します。失礼ですが貴方は勇者様ではありませんか?」
ふむ? 勇者……なのかな?
「俺はついさっき勇者としての力が無いって追い出されたところだから……違うんじゃないかな?」
「でも異世界の方ですよね? 着ている服が私たちとは違いますし、それにその黒髪……」
「あぁ、異世界人かどうかなら異世界人で間違いないよ。それで何か用?」
Tシャツにハーフパンツ、サンダルだからな。
というかなんでサンダル履いてるんだろ? 寝てたらここに来てたんだからサンダルなんて履いてるわけないのにな。
「やはりそうでしたか! あの、少しお話よろしいですか?」
「アテも無いし構わないけど、どこで話すの?」
「近くに喫茶店がありますのでそこで……」
サーシャさんはそう言うと俺を先導して喫茶店へと連れてきた。
席に座って俺はコーヒーを、サーシャさんは紅茶を頼んでから話が始まった。
「まずはいきなりのお声かけ大変失礼致しました。改めまして私はサーシャ・ライノスです。エルヴニエス王国の隣、アルマン教国にて聖女の地位を預かる者です」
聖女……そういえば召喚された職業の中に無かったな。
聖女とかテンプレのかたまりなのにね。
「俺は久里井戸玲央、目が覚めたら城に居て今でもなにがなんだかわかってないんだ」
さっぱり分かってないね。
今でも夢だと思ってるくらいだし。
「王城ではあまり説明は受けられなかったのですか?」
「えっと……魔王が復活してヤバいから助けを求めるために勇者召喚で俺たちを喚び出したとは聞いたけど、それくらいかな? あぁ、あとはステータスを確認したくらい」
王城内であったことを思い出しながら伝えると、サーシャさんは複雑そうな顔をした。
「そうなのですか……ちなみに勇者召喚では何人の勇者様が召喚されたのでしょうか?」
「確か俺含めて男4人女2人の合わせて6人だったかな?」
こういうのって話してよかったのかな? 口止めはされてないし大丈夫かな?
「その中でクリードレオ様だけが追い出されたのですか?」
「そうだね。他の人は勇者だの剣聖だの賢者だの……立派な職業だったみたいだしステータスも俺よりはるかに高かったみたいだしね……
それとクリードレオじゃなくて久里井戸、玲央だよ。ちなみに久里井戸が苗字だからね」
俺の名前のイントネーションがおかしかったので訂正しておく。
クリードじゃなくて久里井戸だよ。
それを聞いたサーシャさんは不思議そうな顔をしている。
「苗字……?」
「えっと……家名って言えばわかるかな?」
苗字が分からなかったんだね。
「なるほど、クリード家のレオ様ですね! 覚えました」
「だから久里井戸……もうクリードでいいや。それでサーシャさんはどうして俺に声をかけたのかな? 勇者召喚の話が聞きたかったの?」
名前談義は諦めた。
外国人には日本の名前は発音しずらいっていうのは聞いたことあるし仕方ないだろう。
「そうでした。本題に入らせてもらいますね」
サーシャさんはコホンと小さく咳払いをして姿勢を正した。
「実は……私は教国の聖女として勇者パーティと共に魔王討伐に向かうべくここまで来たのですが、門前払いされまして……それでどうしようかと思っていたところに見たことのない服を着たクリード様を見かけてつい声をかけてしまいました!」
……ん?
特別用事があったわけではないの?
「つまり……勢いで声をかけてみたけど特に用は無かったと?」
「そう言われると間違いではないんですが……」
間違いないのかよ……少しは取り繕えよ。
「ま、まぁそれはいいのです。クリード様はこれからどうなされるのですか?」
思い切り話逸らしたな……まぁ乗ってやろうか。
「とりあえずしばらく困らないくらいの金銭は貰ったけどなにか仕事しないといけないなーとは思ってる」
「なるほど、それでなにか希望のお仕事はあるのですか?」
なんでこの人面接官みたいな空気出してるの?
「うーん……どんな仕事があるのかわからないけど、この世界には冒険者とか探索者とかそういった職業ってあるのかな?」
この際だからサーシャさんから色々聞いて教えてもらおう。
「冒険者はありますよ。魔物退治したり採取したり護衛したりするお仕事です」
「おぉ、あるなら冒険者をやってみたいとは思うかな」
あるんだね、やはりテンプレは偉大だ。
「クリード様は戦えるのですか? 勇者は召喚された際武具を召喚できるスキルを得ると聞いたことがあるのですが、クリード様の召喚できる武具は何でしょうか?」
「武具召喚か……剣とか槍とかを召喚するスキルは持ってないけど、トラック召喚ってスキルはあるな」
「とらっく? どのような武具でしょうか……?」
分からないか……まぁ分からなくて当然だろうなぁ。
一応石畳にはなってるけど車一台も走ってるの見てないもん。
馬車が走ってるのは見たけども。
「なんと言うか……めちゃくちゃ大きい鉄の塊って言えばいいのかな?」
「盾のようなものでしょうか?」
サーシャさんの頭の上にクエスチョンマークが見えるな……
それでどうやって戦うの? って顔だ。
「自走するというか、馬車みたいに操れるんだよ。戦えるかというと……微妙?」
撥ね飛ばして戦うのもどうかと思うし、それやるとトラックめちゃくちゃになりそうだし……
「うーん……一度召喚して見せてもらうことって出来ますか?」
「それは構わないけどここじゃ無理かな? 幅3メートル弱あってそれが長さ12メートルくらいあるし……」
正確な数字は覚えてないけどそれくらいなハズ。
「そんな大きな鉄の塊を動かせるのですか? それってめちゃくちゃ強いんじゃ……」
「まぁそれはなんとも……」
まぁ実際見てみないことには想像もつかないだろうな。
「では冒険者ギルドへ行きますか? そのトラック召喚というのも見てみたいですし」
「はぁ……別に構わないけど……」
「では行きましょう! あ、ここのお金は私持ちますので!」
「あ、ちょ!」
止める間もなくサーシャさんは支払いに走っていってしまった。
一応金は持ってるから払うつもりでいたんだけど……初対面の女性、しかも年下っぽい女性に奢らせてしまうなんて……
若干後悔しているとすぐにサーシャさんは戻ってきた。
「では行きましょうか、アンナ、ソフィア、行きましょう」
「はい」
俺たちの座っていた席のすぐ隣でお茶を飲んでいた2人組が返事をして立ち上がった。
お連れさんだったの?
「すみませんクリード様、隠すつもりは無かったのですが、この2人は私の仲間です。私1人で大丈夫だと言ったのですが……」
「聖女様、ここは他国ですので念には念を」
「そうッスよ、何かあってからじゃ遅いッス」
「本来なら見知らぬ男性と2人でお話など言語道断です。しかし勇者の1人であるから私共も妥協したのです。お分かりいただけますか?」
「もぅ、分かってますよ! クリード様紹介しますね。こちらは私の仲間のアンナとソフィアです。とっても頼りになるんですよ!」
「お初にお目にかかります勇者クリード殿。私は聖女様の護衛騎士のソフィアと言います。以後お見知り置きを戴きたく」
「自分はアンナであります! ソフィアと同じくサーシャ様の護衛騎士を務めているッス! よろしくお願いしまッス!」
2人はそれぞれ自己紹介をして軽く礼をした。
ソフィアさんは皮の鎧を身にまとい先端に布を巻き付けた長い棒……槍かな? を持った金髪ポニーテールのキリッとした無表情な女性。
アンナさんは皮の胸当てと両手にグローブをしていて腰に剣、背中に盾を背負った栗色ショートカットの元気良さそうな女性だ。
「俺は久里井戸玲央、サーシャさんとは話したけど久里井戸が家名だよ。よろしくお願いします」
こちらも自己紹介を返して軽く一礼。
「じゃあ紹介も終わりましたし冒険者ギルドへ行きましょう!」
元気よくサーシャさんはそう言って1人先行して歩き始める。
「聖女様! お待ちを!」
「1人は危ないッス!」
護衛の2人も慌ててサーシャさんについて行く。
せっかく冒険者ギルドに案内してくれると言うのだから俺も遅れずについて行こう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます