異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)

愛飢男

第1章……王都編

プロローグ

 今にも雨が降り出しそうな天気の中、俺はとある丘の上から不気味な城を見下ろしていた。


「あそこに……魔王とアイツらが居る……」


 今にも突撃しそうになる気持ちを鎮めて城から視線を外す。


「ウルト、現状は」

『現在8階層のボスと戦闘中、間もなく終了します。悪魔ではありません』

「そうか、なら引き続きよろしく頼む」

『かしこまりました』


 左耳に装着したイヤホン越しの短い会話を終えて俺は小さく息を吐いた。


「ステータスオープン」


 小さく唱え自分のステータスを表示、そこにはレベル97と表示されている。


 今から突入したとしても勝てる可能性は十分だろう、しかし念には念を、絶対に負ける訳にはいかないのだから。


「必ず……アイツらだけは必ずこの手で……殺す」


 ウルトが全ての準備を終わらせるのにまだ少しかかりそうだ。


 俺は一度その場から離れていい感じに身を隠せそうな岩場に身を潜めまずは腹を満たす。


 食事を終えて小さな焚き火を見つめながらどうしてこうなったのかを考える。


 始まりはあの日、胸に燻る殺意を燃え上がらせるように俺は目を閉じ過去を振り返る。





 ◇◆



「お疲れ様です、久里井戸です! えっと……海老名パーキングで本日の業務終了です!」

「おっ、久里井戸くんお疲れ様! じゃあ点呼するね」


 健康状態やトラックの点検の確認、明日の予定を聞いているかの確認などいくつか質問されるのでそれに答える。


「よし、じゃああとは電話切ったらアプリでアルコールチェックしてね。お疲れ様でした、ゆっくり休んでね!」

「わかりました! お疲れ様でした!」


 終話ボタンを押して電話を切りアルコールチェックアプリを起動する。

 アプリが立ち上がるのを確認して紐付けしているアルコールチェッカーの電源を入れて息を吹き込んだ。


 チェッカーの表示がゼロになったのを確認して送信ボタンを押して点呼終了だ。


 点呼を終えたら次は運転日報だ。

 記録簿に車番、名前、今日の積み地、走行距離をサラサラと記入していく。


「車番が8931で名前は久里井戸玲央っと……長いし画数多いしこれ毎日書くのめんどくさいな……積み地は香川県のA倉庫で、今日の走行距離はーっと……」


 スマホの電卓機能を使って出発時と今の走行距離の差を計算する。


「687キロっと……やっぱり遠いなぁ」


 今日走った経路を頭の中で思い返す。


「うん、長い。毎日これやってる先輩たちってやっぱ凄いな」


 今日から自分も仲間入りを果たした訳だが、毎日これだけ運転することを考えると背筋が冷える思いである。


「あの下ネタしか言わない先輩でもやってるんだ、俺だって頑張らないとな!」


 横乗りで三ヶ月間教えてくれた先輩は酷かった……


 ツーマンだとセン○リもコケねぇ! とか洗車機に入れることをソ○プランド行くべ! とか言いながら大笑いしたりとか……


 免許取る前から仲良かった先輩だからこっちも笑えたけど初対面でコレだと正気を疑ってたな……


 まぁ今日は積み地も降ろし地も同じ二台口だから同じパーキングに停まってるんだけどね!

 きっとセン○リこいて気持ちよく寝るんだろうね……


 思い出すと苦笑いしか出てこない先輩のことを考えても仕方ないのでネット小説サイトを開いていつもの巡回。

 何を隠そう俺の趣味はファンタジー小説を読んだりアニメを見たりすることだ。


「お、更新されてるじゃん」


 ブックマーク登録されている小説が更新されていることに気付いて嬉しくなる。

 ニートがトラックに轢かれて異世界へ転生してなんやかんやする物語だ。


 最近の異世界転生物はトラックに轢かれて死ぬパターンが多いことには少し思うところがあるにはあるけど創作物に文句を言っても仕方ない。面白ければ正義なのだ。


「やっぱこの作者は神だと思う。この展開は予想出来ないし流石だなぁ……アニメ化してる作品はひと味違う」


 サイトを閉じて時計を見ると22時を少し回ったところ。


「明日は6時には起きないとだし、少し早いけど寝ようかな」


 アラームを忘れずにセットして横になる。

 明日からもしっかり安全運転を心掛けて頑張ろう。

 そう心に決めて布団に入った。

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