第114話



 特別なのはきっと料理くらいだろう。


 そんなふうに期待せずにいたものの、張り切ってしまうのは仕方ない。


 クリスマス当日。


 テーブルの上に並んだ料理を見て、彩花は歓喜の声を上げた。



「わあ……、なんだかすごく豪華になりましたね……!」


「まぁ……、せっかくのクリスマスなんで……」



 そう言いつつ、張り切った自分にちょっと苦笑いしてしまう。


 今回、初めてローストチキンを焼いてみた。


 小ぶりではあるものの、骨付きのローストチキンがあるとグッとクリスマス感と豪華さが出る。


 そこにビーフシチューにサラダ、冷凍だがピザを置いてみると、パーティっぽさが出てくるわけだ。


 


 料理が好きでもなく、レパートリーが少ない理久にしては、頑張ったほうだろう。


 今まで家でクリスマスなんて意識したことなく、普通に肉じゃがを作って、「クリスマスなのに?」と父に不思議そうにされたこともある理久が。


「じゃあチキンのひとつでも買ってきてくれればいいのに。晩ご飯それでいいじゃん」と文句を言っていた理久が。


 彼女のためならば、面倒なローストチキンも作ろうと思えるのだから。


 まぁ料理自体、彩花といっしょにやっているから楽しい、と言うのもあるのだけれど。



 いただきます、と手を合わせてから、彩花は早速カプっとチキンにかぶりつく。


 彩花は基本的に、育ちが良い。


 食べ方も綺麗だし、気遣いの仕方や言葉遣いも丁寧だ。


 見た目は可憐な美少女である彩花が、ローストチキンを握り、豪快にかぶりついている様はギャップがあって魅力的だった。


 おいしいです、と嬉しそうに笑っている。



 ……いやいや、人様が食べている様子をじろじろ見るもんじゃない。


 慌てて目を逸らそうとすると、「兄さん」と言葉が飛んできた。


 さすがに無遠慮過ぎただろうか……?


 ハラハラしたが、それは全く関係ないらしい。


 彩花はチキンを置いて、小首を傾げた。



「洗い物が終わったあと、ちょっと付き合ってもらえませんか?」



 そう言うのだ。



「いいけど……、何に付き合うんですか?」


「内容も聞かずに了承してくれるんですか? 嬉しいですけど」


 


 理久が前のめりな答え方をしたせいか、彩花はくすくす笑ってしまう。 


 それを言われると、さすがにちょっと恥ずかしい。


 彩花に頼まれたら、よっぽどのことじゃない限り断らないだろう、と自覚したことも含めて。


 彩花はひとしきり笑ったあと、綺麗な人差し指を口元に当てた。



「それは、あとのお楽しみです」



 珍しく、そんないたずらっぽいことを言う。


 けれど、すぐに照れくさそうに笑ってしまった。


 


「……って。るかさんに言ってみるといい、と言われまして」



 照れ隠しをするように、彩花はチキンに再びかぶりついた。


 そこで、ソースが口の端についてしまっている。


 その姿を含めて、理久は見惚れて食事の手が止まってしまった。


 ……あぁ本当に。


 どこまでも、彩花のことが好きになってしまう。


 彼女に連れていかれるのなら、地獄の果てまでついていってしまいそうだった。




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