第103話
そして、後日。
佳奈からるかのスマホに連絡がきた。
実は勉強会の際に、連絡先を交換していたのだ。
とはいえ、それまで勇気が出ずに連絡できていなかったのだが、なんと向こうからメッセージが飛んできた。
ベッドで足をバタバタさせ、スマホを持ったまましばらく悩み、弾む心臓を落ち着かせてそのメッセージを開いたのだが。
「…………………………」
その内容に、ひどく微妙な気分になってしまう。
まじまじと見つめると、そこには無愛想にこう書かれていた。
『そのうち彩花から連絡が来ると思いますが、またあの五人で集まりませんか。
わたしはやっぱり、彩花と後藤くんにはいっしょになってほしいです。
るかさんも、協力してくれたら嬉しいです。』
ふう~……、と大きなため息が漏れてしまう。
いやきっと、佳奈は今までと同じような警戒はしていないと思う。
ただ、やはり最後の最後で理久を信じ切れない。
不安が消えない。
まぁそれは当然と言えば当然で、見知らぬ年上の男性よりも、同じ教室で二年間過ごしてきたクラスメイトのほうが信頼できる。
理久が、何かのきっかけで、魔が差さない保証は確かにないのだ。
それだったら保険として後藤がいてくれれば安心、なのはそうとしか言えない。
言えないのだが……。
「わたしは、あの理久を見ちゃってるからなぁ……」
先日、理久たちはちょっとした事故で後藤に小山内家の事情がバレてしまった。
さらに、理久は彩花への想いが後藤に筒抜けになっており、そのことでいたく責められたらしい。
翌朝、明らかに落ち込んだ状態で登校してきた。
多少は元気づけられたと思うけど、それだけにここで追い打ちをかけるのはやめてほしい。
ふたりがこのまま穏やかに暮らしていけるかどうか、それは理久に掛かっている。
理久は自分の想いを抑える、という相当にしんどいことを日常的にやらされているのだ。
これ以上、おかしな圧力を周りから掛けないでほしい。
この集まりに応じて、佳奈が何かしら仕掛けるようなことがあれば、状況が悪化することも十分に考えられる。
「……はあ」
るかは大きな大きなため息を吐く。
そして、佳奈に連絡を取った。
そして数日後。
るかは、佳奈をファミレスに呼び出していた。
「あ、佳奈ちゃーん。こっちこっち」
制服姿でファミレスに入ってきた佳奈は、周りをきょろきょろ見渡していた。
店員さんに話しかけられて、ちょっとあたふたしているのがとてもかわいい。
和みながら手を挙げると、佳奈はほっとした顔でこちらに近付いてきた。
「ごめんね、佳奈ちゃん。呼び出しちゃって」
「いえ。るかさんが協力してくれると聞いて、嬉しかったです」
佳奈はるかの向かい側に座ったので、メニューを差し出す。
「好きなの頼んでいいよ。お姉さんがお金出すから」
「え……、いいですよ。そんなの」
「まぁまぁ。受験生の子を呼び出しちゃってるわけだし。わたしはバイトしてるし、懐あったかいから気にしなくていいよ」
「え、るかさんバイトしてるの?」
「たまーに短期で? 面白そうなバイトがあればやる感じかな。夏休みとかはずっとしてたよ~。楽しかった」
「……それなのに、学年トップなんですか」
「うん? あぁ、だってあんなの効率だもん。長い時間勉強したって意味ないよ。やるべきことをサッとやったほうがいい」
「……わたし、長い時間ずっと勉強してるのに……」
「あ、あぁあぁぁ、そうじゃない、そうじゃなくてねぇ!? そういうことが言いたかったわけじゃなくて……。いや、なんて言えばいいんだろうなぁ~……」
あたふたと慌てふためいてしまう。
普段は他人と話していても、こんなふうに慌てることも、取り乱すこともないというのに。
取り繕って、迷って、頭をフル回転させて。
相手の一言一言に、感情を揺さぶられて。
なのに、それがとても楽しかった。
好きな子とふたりきりで話しているのだ、楽しくないわけがない。
思えば、るかが佳奈とふたりきりでいるのは、この瞬間が初めてだ。
制服は着崩さず、見るからに真面目そうな顔。
けど、表情がころころ変わる、その感情表現の仕方。
可愛くって仕方がなかった。
こんなふうに、何気ない会話を積み重ねているだけで、るかは十分に幸せなのに。
店員さんに注文をすると、佳奈はすぐに本題に入ってしまう。
「……まぁいいです。それより、呼び出した理由ですよ。佳奈と小山内さんのことですよね?」
「うん、そう」
「るかさんも協力してくれると聞きました。それなら心強いです。今度、五人で遊びに行くときに上手く立ち回りましょう。三人もこちら側なら、きっといくらでも……」
佳奈は嬉しそうに言葉を並べていく。
グループの過半数を味方につけたのだ、押し切ることも可能だと思っているのかもしれない。
実際、明らかに理久側についているるかが佳奈の陣営に回れば、いくらでも切り崩せると思う。
多少強引な手を使えば、ふたりをくっつけることだってそう難しくはない。
だからこそ、佳奈はこの呼び出しにも応じたのだろう。
多分、何の土産もなしに「ちょっと会わない?」と訊いたところで、きっと佳奈は来てくれない。
そもそも、連絡先の交換だって、こういった画策のためにした節さえある。
つまり、佳奈にとってるかはその程度の存在なのだ。
正直、その事実はとっても悲しいけれど。
受け止めきれないような現実でもない。
少しずつでもいいから、前に向かって歩けるよう、努力すべきだと思うだけだ。
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