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「娘さんは今何してるの? 写真家さんは一人旅だって言ってたよね」
「早々に就職して独り立ちだな。今は欧州魔術会支部の研究室所属らしい」
「へえ!」驚きの高い声が上がって、そういえば言ってなかったなと今更気がついた。買取屋で身分偽装させた件も、万一があれば研究員に親族がいると明かすつもりだったのだ。こういう界隈で信用は宝だ。
「じゃあ、久しぶりに会えるんだね」
「会えるかどうかは分からねえな、連絡もしてないし。この姿じゃ俺と気づかないかもしれん」
「小さくなっても写真家さんは写真家さんだよ」
大きい俺を知らないくせに、心からの言葉だと分かる真摯さが言った。器用な指先がとても不器用に伸びて俺の肩を優しく撫でる。親愛と励ましが込められた仕草だった。
俺はその指を受け入れながら穏やかに微笑む。
「そろそろ、寝るか」
「何だか目が冴えちゃったよ」
「勘弁してくれ、もう俺は眠い」
肩にある手を軽く叩いて退け、俺は自分の寝床へ移動した。同じベッドでは潰されかねないので、例のキャスケット帽に布切れを詰めて簡易のクッションとしていた。
「ぼくのほうが運動量あったのに。あれかな、年齢の問題かな」
苦労してサイドボードまでよじ登る俺を手伝いもせずに奴は何やら暴言を吐かしている。
「寝ろ! ガキ!」
一声吠えて、リモコンで直ったばかりの電気を消した。
狭い宿の一人部屋はそうしてしまうとたちまち暗く、穴ぐらのようにひんやりする。
つまらなそうに寝返りを打った善い隣人が明るい夢を見られるといいと案じた。昼間の光が寝静まった深夜、静かな寒さというものは、いろいろな思案を誘うから。
ともかく、寝て起きれば朝になるのだ。
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