浮かんだ生首真後ろに

小林飛翔(Al)

信じる

         傷跡

困った男がいたものだ。男の名は丸海陵。180センチの長身だ。よほど女にもてていたのだろう。



         18歳

とちの木高校卒業式の日に、小柄な樹は告白した。

「雲母さん好きです」

雲母は顔を赤らめた。丸海はあざ笑った。

「おいおい、お前な。情けないな、見ろこの20センチ差だ!あははははは」

雲母は、ボーイッシュなかわいい子だ。

「ふざけんなよ、こいつがそんなにみじめかよ。違うよ。みじめなのは、丸海、お前の方だ」「え?お前ら2人共俺に歯向かうわけ?いいのかな?よーし、俺の父親の権限、なんてので雲母ちゃん、もーらいっと。今日から、丸海陵、雲母夫妻です!」

「ふざけるな!!お前がだ!雲母さんの意思がないだろう?!」

前に屈み込んだ。

樹は心臓が悪く病弱だがここまで怒り心頭に達したことはなかった。



        2年後

そして、その2年後に樹は、病でこの世を20歳の余りの若さで去るのだった。


        4年後

22歳の時に丸海が権力と金に物を言わせて選んだ高層マンション18階のこの部屋に新しい住人が増えるようだ。

「ねぇ、陵。樹君、死んじゃったんだって!私って何?これじゃあなたに飼われている不幸な人形じゃない⁉何で惚れたんだ、私は。それで今分かる、私は樹君の子を身籠るべきだった。うわー、樹君もう一回雲母って呼んで、うあー!」


「あ、泣きやがった」

と丸海は参ったと思った。

「お前が悪い」

後ろを振り返ると樹の生首がすーっと浮いていた。

「ひ、ひぃー!」

「あ、樹君生きていた」

「雲母さん好きです」

「雲母も樹君好きだったんだ           そろそろだな」

「さてと、赤ワイン、赤ワイン」

雲母は涙を流しながら樹との再開を果たした。


え?お腹の子は?まだ着床していない。


雲母は大量の睡眠薬を服用していた。

腕には注射針の跡もある。

「樹君、ありがとう」

そして、雲母も樹も黄泉の存在となるのだった。

                 終


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

浮かんだ生首真後ろに 小林飛翔(Al) @alpacahisho

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ