第58話 何故か叫びまくる銀髪の女性

 誰かが来たらしく、ヴォーロスとセマルグルさんが出て行ったんだけど、すぐに戻って来た。

 何故か、銀髪の小柄な女性を抱きかかえて。


「ヴォーロス? その女性は大丈夫?」

「んー、大丈夫だとは思うんだけど、何故か突然倒れちゃったんだよねー」

「何だろ? 髪の毛とか見た事ない色だよね。遠くから来て家を見つけたから、ホッとして疲れがドッと出てきちゃったのかな?」

「あー、そうかも。ケガならセマルグルの治癒魔法で治してもらえば良いけど、疲労は寝かせておいた方が良いかもね」


 そう言って、ヴォーロスが女性を家の中へ。

 夜までには起きるかな?

 でも、突然倒れたりするくらいだから、一晩中歩いてきたのかも。

 一度、お昼頃に様子を見てみよう。


「そうだ。お腹が空いているかもしれないから、何か作っておいてあげようかな」

「む! それは良いな。我はマヨネーズとチーズを使ったピザが良いな」

「セマルグルさん。最近、マヨネーズにハマってますよね?」

「ふふふ。あのソースは凄いからな。流石はセシリアだ」


 セマルグルさんは見事にマヨネーズ好きになったけど、これで野菜も食べてくれるようになったので、良かったのかも。

 ちなみに、ヴァーロスは以前からバランスよく食べてくれているし、あまり心配していないけどね。


「さてと……私としては、せっかく手に入れたお醤油を使いたいのよねー」

「む? それは以前に作った酢豚を作るのか? あれも旨かったな」

「んー、酢豚も良いんだけど、お昼ご飯だし、女性も消化に良い物が良さそうだから……パスタにしよう」

「ふむ。醤油というのは、あの辛くて黒いソースの事だな? あれがパスタに合うとは思えぬのだが」

「ふっふっふ。そこは任せて。じゃあ、パスタはすぐに出来るから、先にサラダからね……あ、マヨネーズはあるから安心してね」


 サラダと言っただけでセマルグルさんが顔をしかめたけど、マヨネーズというと一瞬で表情が和らいだ。

 うん、わかりやすいわね。

 という訳で、早速サラダを作ったら、次はパスタを茹でて、その間にソース作りね。

 パスタを茹でている横でソースを作って居ると、背後で誰かが動く気配がした。


「こ、ここは……な、何だ!? この鍋やテーブルは……それに、この香り! これは……」

「あ、大丈夫ですか? ……でも、ごめんなさいね。パスタを茹でているから、ちょっと手が離せなくて。少しだけ待っていてね」

「え? あ、あぁ……しかし、パスタでどうしてこの香りがするのだ?」


 この香り……っていうことは、この女性も醤油は大丈夫なのかな?

 鬼人族さんたちは、お酢も醤油も馴染みがないみたいだけど、この女性は大丈夫そうね。

 ソースが出来たから、後はパスタの茹で加減を見極めて……今っ!


「ヴォーロスー! セマルグルさーん! お昼ご飯が出来たわよー!」

「昼ご飯!? 私はそんなに気を失っていたのか。しかし、生きていて良かった。どうして、無事だったのだろうか」

「なんだか大変だったみたいね。貴女の分もあるから、遠慮なく食べてね」

「え? それは、すまない。作っていただいた料理を残す訳にはいかないので、ありがたくいただ……なっ!? 何ぃぃぃっ!?」


 椅子に座った女性が、突然大声を出したかと思うと、思いっきり後ろへ跳ぶ。


「お、おい! そこの……に、逃げるんだっ! ライトニング・ベアが……」

「え? 逃げるって? ……あ、後ろ。危な……」

「ん? 何か踏んだ……って、またグリフォンがっ! ま、回り込まれて……」

「だ、大丈夫ですか? とりあえず、ヴォーロスもセマルグルさんも怖くないわよ?」


 女性が顔面蒼白になっていたけど、私の言葉で持ち直して……


「あ、あの……実はグリフォンの足を踏んでしまったんだが」

「うむ。許さぬ」

「ぴぇぇぇっ!」

「冗談だ。せっかくセシリアが作ってくれた料理が冷める。とりあえず食事にしようではないか」

「な、何なのぉぉぉっ!?」


 セマルグルさんの翼で背中を押され、女性が強制的に席に着かされていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る