挿話18 聖女の家に向かうダークエルフのエレン

「失礼。デューク殿は在宅だろうか」

「はい。主人は居りますので、中へどうぞ」


 鬼人族の村へ行き、教えてもらったデュークという商人の家へ。

 通された先に居たのは……あぁ、こいつか。

 ロクに味も分からないのにわ我々のミソやソイソースを吐き捨てた奴じゃないか。


「おや、エレンさん。お久しぶりですね」

「……私のことを覚えているのか? 一度しか会っていないのに」

「えぇ、もちろん。仕事柄、人と会った事は忘れませんので。それで、今日はどうされたのですか? ダークエルフの方が我々の村へ来るなんて、かなり珍しいと思うのですが」

「あぁ、人間族の聖女に会わせて欲しい。ケンタウロスたちから、貴方に聞くと良いと言われたんだ」

「……まったく。聖女様の事は口外禁止だと言っておいたのに」


 そう言って、デュークが溜息を吐く。

 なるほど。聖女の力を、自分たちだけの物にしたいという事か。


「聖女は人間族だと聞いている。鬼人族が独占するのはおかしいと思うのだが」

「独占だなんて考えていませんし、そもそも我々がどうこう出来る方ではありませんよ。何か勘違いなさっているようですが、聖女様が自ら口外して欲しくないと仰っているのです」


 ふむ。それっぽい事を口にしているが、果たしてどこまでが真実だろうか。

 まぁ何と言われようとも、私の行動に変わりはないが。


「ひとまず、それは置いておいて、聖女は何処に居るのだ?」

「残念ですが、先ほど言った通り、お教えする訳にはいきません」

「やはり、聖女を独占しようとしているのではないか!」

「違うと言っているでしょう」


 デュークと真っ向から睨み合い……向こうが深い溜息を吐く。


「はぁ……わかりました。お話ししましょう。ここでゴネて、ダークエルフの族長が出て来るような事になったら、聖女様に申し訳がないですからね」

「……私が言うのも何だが、そうしてくれると助かる。父は見境がないからな」

「ここから南へ行くと、地面に二本の鉄の棒が敷かれて居ます。その棒に沿って南西へ行くと、聖女様の家があります」

「……感謝する」

「一つ言っておきますが、くれぐれも聖女様に失礼の無いように。貴女のためにも」


 そんな事、言われなくても分かっている。

 こちらは、聖女にお願いしに行くのだからな。立場は弁えている。

 それに、そもそも聖女がミソやソイソースに価値を見出せない場合、逃げてもらわなければならないからな。

 父は村の事になると周りが見えなくなるが、闇魔法の力は本物だ。

 ケンタウロスの村で作ったマヨネーズの旨さは本物だったが、だからと言って、全く知らない我々の食べ物に、即対応出来るとは限らない。

 父が暴走する前に、上手く収めなければ。

 そんな事を考えながら暫く歩くと、変わった形の棒があった。


「デュークの言っていた棒はこれか。延々と続いているが……何なのだ?」


 道に迷わないようにする為の道標……か?

 だが、これでは自分の家を周囲に教えているようなものだが。

 言われた通り、棒に沿ってあるくと、かの有名な死の川が見えて来た。

 流石に、この川の向こうという事はないだろう、

 そう思っていたのだが、こちら側で棒が途切れ、向こう岸に家? らしきものがある。


「し、死の川を渡れという事か!? ふざけるなっ! デュークめ、騙したのかっ!」


 家は確かにあるが、これでは行けない。

 かなり上流まで遡り、川を渡らなければと思っていると、


「ん? セシリアのお客さんかな?」


 誰かの声が聞こえ……ら、ライトニング・ベアっ!?

 マズい! 死ぬっ!


「どうしたのだ? セシリアの友人か?」


 ぐ、グリフォンっ!? あ、無理。逃げる事すら出来ない事が確定した。

 デュークめ……化けて出てやるからなーっ!

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