挿話17 マヨネーズで言葉を失うダークエルフのエレン

 森の中を走り、山道を駆け上がってケンタウロスたちの里へやってきた。

 崖に変な形だけど、随分と立派な柵が出来ているが、聖女の転落防止だろうか?

 まぁ人間族に、この山道はきびしそうだからな。万が一の事を考え、ケンタウロス族が聖女用に作ったのかもしれない。

 ……さて、まずは聖女とやらの事を調べないと。


「チキン南蛮も旨かったが、この酢豚という料理も旨いなっ!」

「いや、本当に聖女さまさまだよ。我々には思い付かないような料理を作って下さる」

「そうだな。その最たるものがマヨネーズかな。これを付けるだけで、野菜が無限に食べられる」


 野菜に付けて食べるのであれば、我らダークエルフのもろみミソに敵うものは無いと思うのだが。

 キューリにもダイコンにも、もろみミソは合うからな……いや、待て。父に影響され過ぎだな。

 何でもダークエルフの文化が一番だと考えずに、他の種族の文化も認められるようにならなければ。


「すまない。そのマヨネーズというのを食べてみたいのだが」

「ん? あぁ、エレンちゃんじゃないか。今日は一人で来たのかい? ……そうかそうか。遠いところまでよく来たね。さぁどうぞ、これが我々ケンタウロスの里の新名物マヨネーズだよ」


 作ったのは聖女だと聞いているし、自分達でもそう言って居たのに、ケンタウロスの里の名物だなんて……なっ!? なん……だと!?


「どうだい? うちのビネガーを使った新しいソースなんだが、旨いだろ?」

「マヨネーズを付けると、ただでさえ旨いにんじんスティックが、無限に食べられるよな」

「そうだ。このマヨネーズも旨いんだが、もう一つ旨いタルタルソースっていうのもあるんだよ」


 ケンタウロス族たちが次々に話しだすが……これは、確かに凄い。

 しかも、このマヨネーズだけでも物凄く美味しいのに、まだ他にもあるのっ!?

 これを作った聖女とは、一体何者なんだっ!?


「……ところで、聖女はどこに?」

「なんだ、エレンちゃんも聖女様の事は知っていたのか。チキン南蛮と酢豚という料理の作り方をレクチャーした後、ビネガーをお土産に家へ帰ってしまったよ」

「家に帰った!? くっ……遅かったか。その家とは?」

「いや、悪いが俺たちは知らないんだ。鬼人族さんたちが連れて来てくれたからな」


 鬼人族か。彼らとは取引が無いんだよな。

 腐った豆など食べられないなどと言うから。

 ミソは腐っている訳ではなく、発酵だと何度も説明したのに。

 我々が作っているソイソースも、辛過ぎると言って扱おうとしないし……分量がおかしいんだよ。

 ……って、そんな事を考えている場合ではないか。


「鬼人族か。分かった、ありがとう」

「エレンちゃん。鬼人族のところへ行くなら、デュークって商人のところへ行くと良いよ。聖女様を紹介してくれたのが、そのデュークさんらしいんだ。まぁとはいえ、別件で聖女様が自らこの里へやって来られたんだけどね」

「えっ!? 聖女って人間族だよね? 人間族がこの山道を登って来たの!?」

「あぁ。流石に、荷物は鬼人族の若者が運んでいたらしいけど。……あ、そうだ。途中で何か柵みたいなのがあっただろ? あれも、聖女様の力で作られたって噂だよ」


 なるほど。あの柵は転落防止用に聖女自ら……凄いな。料理だけでなく、工作も出来るのか。

 しかも、あんな崖に……って、待てよ。そもそも聖女って何者なんだ?

 ケンタウロス族が聖女に頼んで、すぐに凄いソースが出来たから、私も……と思ったけど、先ずは聖女が何者かを調べるべきかもしれないな。

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