第54話 安心感が欲しいセシリア

 草むらの中にある、コンクリートなどで舗装されていない土の道を、のんびり歩いて行く。

 海が近いからか、草の香りの中に潮の香りがして……とりあえず、凄くのどかな場所だ。

 天気も良いし、ピクニックにはもってこいの日ね。

 ただ、この土の道はデコボコで歩きにくいし、馬車を走らせるのも大変だろうから、賢者の里から帰って来る時に石畳で舗装してあげようかな。

 そんな事を考えながら歩いて居ると、同行してくれている鬼人族の青年たちが足を止める。


「セシリア様。ここからは山道になりますが、大丈夫でしょうか」

「えぇ、大丈夫よ。けど、賢者の里って山の上だったんだ」

「山の上というか、中腹ですかね。斜面に家を建てているのです」


 山の斜面に家! 建築が大変そうよね。

 とはいえ、これもお酢を手に入れる為!

 ちなみに、鬼人族のもう一人の青年は、お酢と交換する為の小麦粉を運んでくれている。

 私の土魔法は鬼人族全員に教えている訳ではないので、現地で小麦を生み出す……とは言えず、また食料問題の解決のお礼と言われてしまったので、今回はお願いする事にした。

 ただ、鬼人っていうのは角が生えているだけなのかと思っていたんだけど、実は凄く力持ちなのよね。

 小麦粉の入った大きな袋を軽々と担いで歩いているし。


「あら? この馬車はどこかで……デュークさんの馬車かな?」

「その通りです。ここから先は道が狭く、馬車で進めないのですよ」


 なるほど。勝手に山の木々を切って道を作る訳にはいかないもんね……と、道を作らない理由が自然を大切にするためだと思っていた。

 だけど、少し歩いて真の理由に直面する。


「あー、こういう事なんだ。山の斜面っていうか、殆ど崖よね」

「馬車が通るのは無理ですが、人が通る分には十分な広さです。ですが、落ちないように気を付けてください」

「そ、そうね。ちなみに、これまで落ちたりした人って居たりするの?」

「賢者の里の者には居ないでしょうが、我々鬼人族の中には、もしかしたら居るかもしれませんね」

「なるほど。勝手に落下防止の柵を付けたら、怒られるかな?」

「大丈夫ではないでしょうか? もう少し先へ進むと、柵がある場所もありますし」


 木々が生い茂る山道を登った先は、大きく開けた場所なんだけど、開け過ぎというか、左手が断崖絶壁だった。

 右手は垂直な壁で、幅が二メートルも無い道を踏み外すと、怪我では済まないと思われる高さから落下してしまう。

 うん。ガードレールを作ろう。

 ただ自動車が走る訳ではないから、もっと軽くして、万が一にも崖が崩れたりしないようにしないとね。

 確か、パソコンコーナを担当している時に、ノートパソコンに遣われている金属が軽くて丈夫だって聞いた気がする。

 金属の名前とかは知らないけど、とりあえずあの素材を薄いガードレールみたいな形に……出来たっ!


「えっ!? せ、セシリア様!? この板のような物は一体……先程まで、このような物はありませんでしたよね?」

「えっと落下が怖いから、落下防止用の柵を作ってみたんだ」

「作って……って、突然生み出されたような気がしたのですが。……はっ! そうか、これが聖女様のお力なのですね! 失礼いたしましたっ!」

「ただ、深く杭を打ったりしている訳ではないから、あんまり信頼され過ぎても困るけど……まぁ無いよりかはマシくらいな感じかな?」


 具現化魔法でガードレールを設置しながら……とりあえず、手すりも柵も無い崖の上を歩くのは精神的に怖すぎるので、私が安心感を得るためなんだけど、気持ち的には若干楽になれるかな。

 もちろん壁沿いを歩いているし、歩く分には道幅は十分なんだけどさ。

 そんな訳でガードレールを作りながら暫く進み……


「セシリア様、着きました。ここが賢者の里です」


 急な斜面に沢山家が建てられた村? に到着した。

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