第38話 セマルグルさんの魔法

「……はい? あの、ルーファス王子。迎えに来たとはどういう意味でしょうか? 王子が私を追放したのですよね?」

「…………それは何かの間違いだったのだ。俺がセシリアを追放する訳ないだろ? さぁセシリア。王宮へ帰ろう」


 いやいや、私の目の前でルーファス王子が追放だって言ったじゃない。

 どうしたら、こんな発言を堂々と言えるようのだろうか。


「お断りします」

「は? おい、セシリア。お前……今、何と言った?」

「お断りしますと言いました。私は、王宮には帰りません」

「何を言っているんだ!? わざわざ俺様が、お前なんかの為に、こうして来てやったのだぞ!? 第一、お前だってこんな何も無い場所で暮らすよりも、王宮で暮らせる方が良いだろう!」

「いえ。王宮より、こちらの方が快適に暮らせていますが」


 王宮と違って、王族に気を遣わなくて良いし、具現化魔法でいろいろ作れるし、何よりモフモフがいっぱだし!

 私にとっては王宮で暮らすよりも、ここで気ままに暮らす方が絶対に合っているもの。


「き、貴様……ふざけるなっ! 何が、こっちの方が快適だ! そんな訳があるかっ! 俺様を怒らせるのも大概にしておけよっ!」


 そう言って、ルーファス王子が腰の剣に手を伸ばした瞬間、


「ごふぁぁぁっ!」


 ルーファス王子の身体が大きく吹き飛んだ。


「セシリアに剣を向けようとしたね? 許さないよ」

「ヴォーロス!?」

「大丈夫。セシリアは僕が守るよ。それに、軽く押しただけ……って、あれ? 起き上がって来ない?」

「えーっと、足が変な方に曲がって……ど、どーしようっ!」


 土魔法で薬草を生やす事も出来るけど、薬草で何とかなるレベルなのかな?

 私は治癒魔法の類は使えないし、どうしようっ!

 ルーファス王子と一緒に帰る気なんてさらさらないけど、流石に大怪我をさせるのはマズいと思い、慌てていると、


「ヴォーロス。人間は脆いのだから、力加減には気を付けねばならぬぞ」

「ごめんごめん」

「ほれ……とりあえず動ける程度には治してやったぞ。そこの人間の男よ。起き上がるのだ」


 セマルグルさんがやって来て……ルーファス王子の足が治ってる!


「セマルグルさん。今のって、まさか治癒魔法ですか?」

「うむ。我は氷魔法と光魔法が使えるからな」

「凄っ! セマルグルさんは、氷魔法だけでなく、光魔法もつかえたんですね」

「はっはっは。その通りではあるが、セシリアの土魔法や結界魔法の方が凄いと思うが」


 セマルグルさんが謙遜していると、ルーファス王子が起き上がり……物凄く怯えている。


「ち、近付くなっ! おい、騎士ども! 何をしている! 俺を守れ……って、本当に何をしているんだ!? どうして、そんな所にテープセットがあるのだっ! というか、お前たちは何を食べているんだっ!? 俺にも寄越せっ!」

「聖女様に許可いただいたので。あと、我々は命の恩人である聖女様と、そのご友人に剣を向ける事は出来ませんので」

「はぁっ!? 何をバカな事を言っているんだっ!?」

「何と言われようとも、我々は聖女様の味方です」

「こ、この愚か者どもがっ! 許さ……ほげぇっ!」


 あ、またルーファス王子が吹き飛んだ。


「セシリアの前で剣を抜こうとするな! ……あ、これでも強いの?」

「人間は弱いからな。我が見本を見せてやろう」

「なるほど。それくらいなんだね。……こうかな? あ、まだ強い?」

「そうだな。よし、もう一度だ」


 ヴォーロスに押されたルーファス王子がセマルグルさんの治癒魔法で治療され、再び押され、また治療され……流石に可哀想なので止めに入ると、


「セシリア。お前は……いや、貴女は本物の聖女だ。もう帰る。だから、許してくれ」


 ルーファス王子の瞳が完全に怯えきっていて……えっと、とりあえず自身の態度を振り返ってくれたみたいだ。

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