第39話 快適な暮らし

「か、壁が……壁が消えたっ!? これが聖女様の奇跡の力なのかっ!?」

「えーっと、あの壁は元々私が土魔法で作り出しただけなので、それを消しただけなんですけど」

「なんと……流石は聖女様。凄まじい魔法の力です。やった……帰れるぞぉぉぉっ!」


 ルーファス王子が帰るというので、海の近くへ行って鉄の壁を消すと、男性――騎士さんたちから歓声が上がる。

 そんな騎士さんたちに引っ張られ、ルーファス王子も海へ向かって行くんだけど、目が完全に死んでいて……いや、一瞬暗い光が目に灯り、


「……どうかしたのかな?」

「……何でもない」


 私とルーファス王子の間へ、ヴォーロスが瞬時に入り込むと、再び死んだ目に戻る。

 どうやら、まだ私を連れて帰る事を諦めていなかったみたいだけど、ヴォーロスがしっかり守ってくれて助かったみたい。

 それから小舟に乗り込み……沖合で停まっている大きな船に向かって行ったので、もう大丈夫だろう。


「さてと。これでもう変な人は来ないだろうから、やろうとしていた事の続きを頑張ろーっと」

「あの事だね。僕も手伝うよ」

「我も手伝おう。何か出来る事はあるか?」


 ヴォーロスには雷魔法を。セマルグルさんには、私が錬金魔法で敷設する物が誤っていないか空から見てもらって……出来たーっ!


「ふむ。これが、セシリアの言っていた、安全に移動出来る装置か?」

「うん。電車って言う電気で動く乗り物で、この敷設したレールの上だけを走るから変な所へ行く心配も無いし、鉄で出来ているから、無理矢理入ったりする事も出来ないし、安全だよ」

「ほう、なるほど。動く砦と行った所か」

「砦は言い過ぎだけど、荷物を沢山運んだりも出来るし、しかも速いの」

「なるほど、荷物か。速度であれば負ける気はせぬが、我は大量の荷物を運ぶ事は出来ぬな」


 セマルグルさんと話した後、貨物用の車両に収穫した作物を積み込み、私とヴォーロスは先頭車両へ。

 ここ数日、錬金魔法でモーターだとか、車両だとか、レールだとか……頑張った甲斐があって、何とか動く物になった。

 近距離での試走行では大丈夫だったけど、果たして無事に目的地まで辿り着けるだろうか。


「じゃあ、ヴォーロス。お願い」

「うん。じゃあ、雷魔法を使うね」


 少し緊張しながらもヴォーロスにお願いすると、雷魔法の電力でモーターが回転し、その力が歯車から車輪に伝わり、レールの上を車両がゆっくりと走り出す。

 動き出した電車は、徐々に加速していき、あっという間に敷設したレールの終点――獣人の村の近くへ。


「凄いね。物凄く速かった! こんなに短時間で、この村へ着くとは思わなかったよ」

「そうだな。この速度であれば、飛び乗れる者は居ないであろうし、安全であろう。敷いて言うなら、この電車という物に乗るまでの間だが……まぁそれくらいの間であれば、我が警護しよう」


 ヴォーロスとセマルグルさんが、それぞれ電車について話をしていると、


「な、何だぁー!? こ、このデカい箱は!?」

「誰か居る……って、聖女様っ!?」

「あー! せーじょのおねーちゃんだー!」


 獣人の村の人たちが、大勢で出て来た。

 あー、少し距離を離したつもりだったけど、大きな見慣れない物が突然現れたらビックリするよね。

 一先ず、村の人たちにも電車について説明し、今後は鬼人族の村までレールを延ばして、新たな交通手段にするつもりだと話す。

 それから、持ってきた作物を獣人の村で作っている乳製品や布と交換してもらい、電車で家へ帰る事に。

 冷蔵庫にオーブン。水道やお風呂があって、電車も作った。

 どんどん便利で快適になっていて、絶対に王宮暮らしよりも、こちらの暮らしの方が良いと思う。

 モフモフなヴォーロスやセマルグルさんも居るしね。

 さて、次は何を作ろう。私だけじゃなくて、この周辺に住む、皆が快適に暮らせるようにしていけると良いな。

 日本の記憶と土の聖女の魔法を活用して、これからも頑張ろーっと!

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