第37話 前世の自分と重ね合わせるセシリア
翌朝。昨日、ルーファス王子たちが穴を掘っていた場所へ行ってみると、目印にした木の場所から、大きく掘り進められていた。
おそらく、夜通し掘り続けたのだろう。
何度か地中の様子を探る魔法を使い、この先に出てきそうな感じなので、少し待つ事に。
具現化魔法でオシャレな感じのテーブルと椅子、それからカップを作り、オレンジを生やすと、生搾りオレンジジュースに。
「セシリア。この前のブドウを貰っても良い?」
「うん。構わないわよ」
ヴォーロスとセマルグルさん用に種無しブドウを生やして、みんなでお喋りをしていると、地面から剣の鞘が出てきた。
「やった! ようやく地上だっ! あのバカ王子の無茶振りに耐え、俺たちはやったぞーっ!」
「バカ! 声がでけぇっ! とりあえず俺は隊長に伝えて……あ、もう伝わっているってさ」
「よし! 何か食えそうな物は無いか探そう! 今なら何でも食える気がするぜ!」
地面に開いた穴から、身体中が土まみれになった二人の男性が姿を現す。
地中の様子と、聞こえて来た会話から、とにかく空腹と疲労が蓄積しているというのが伺える。
「セシリア? 何処へ……」
ヴォーロスに大丈夫だと伝え、男性の元へ向かうと、
「大丈夫ですか? オレンジジュースとブドウです。あまりお腹が膨れる物ではありませんが、フルーツは疲労回復に良いと聞いてますので、どうぞ」
新たに作ったオレンジジュースと、もいだブドウを手渡す。
「え? 良いのか? ……誰かは知りませんが、ありがとうございますっ! ……うっはぁぁぁっ! 染み渡るぅぅぅっ!」
「な、なんだ、この果物はっ!? 物凄く旨い! それに、この飲み物も飲むだけで疲れが消えていくかのようだっ!」
休み無しで洞窟を掘り進めさせるなんて、ブラックどころじゃないでしょ。
この人たちの様子を見て、私が前世のブラック過ぎる職場で過労死してしまった事を思い出し、居ても立っても居られず、動いてしまったんだけど……ちょ、ちょーっと思っていたより多いわね。
流石にこの人たちの目の前でブドウを生やして、獣人族の村で起こった事件みたいな事になっても嫌なので、手持ちのブドウなどがなくなったら、一旦セマルグルさんたちの所へ戻り、木にブドウやオレンジを実らせて、再び男性たちの元へ。
「生き返るようだ……貴女は女神様ですか!?」
「いえ、普通の人間ですけど」
「では、聖女様だ。飲むだけで、疲労が取れて、体力が回復するオレンジジュースを作れるなんて」
いやまぁ確かに元聖女だけど、ただオレンジを絞っただけだからね?
そう思っていると、男性たちの一人が大きな声を上げる。
「お、おいっ! この熊……ら、ライトニング・ベアじゃないのかっ!?」
「なっ……せ、聖女様っ! 危険ですっ! ここは我らが時間を稼ぎます! どうかお逃げくださいっ!」
「ま、待って! ヴォーロスは私の大切なお友達なのっ! 剣なんて向けないでっ! あと、ヴォーロスも大丈夫だから! きっと話せばわかってくれるから」
男性たちに声を掛け、今にも飛び掛かりそうなヴォーロスを宥めていると、
「せ、聖女様がそう仰るのであれば、そうなのでしょう。わかりました。我々は貴女を信じます」
「ありがとう。よければ、向こうにテーブルと椅子があるから、休憩してくださいな。先程のブドウやオレンジも、傍の木に生っていますので」
「えっと、一応確認しておきますが、その近くに居るグリフォンは……」
「もちろん私のお友達よ。セマルグルさーん! この人たちが、そっちで休憩したいらしいけど、行っても……あ、大丈夫だって」
頷くセマルグルさんを確認し、男性たちがテーブルに移動していった。
私も一緒に向かっている所で、また新たに誰かが出て来た。
……って、何だかどこかで見た事がある気がするわね。
ボロボロの服だけど……あっ! もしかしてルーファス王子っ!?
そう思った所で、
「戻れっ! 今すぐ穴の中へ入らせろっ! おい、そこのお前っ! 囮になって、俺様が逃げる時間を稼げっ!」
何故かルーファス王子が穴の中へ戻ろうとする。
「セシリア。あの人間も連れてこようか?」
「そ、そうね。一応、休ませてあげましょうか」
「じゃあ、僕が連れて来るよ」
そう言って、ヴォーロスが向かってくれたんだけど、何故かルーファス王子が倒れ込み、
「あばばばばっ!」
よく分からない事を言い出した。
とりあえず、私も行った方が良いかもと思い、ルーファス王子の所へ近寄ると、
「えーっと、ルーファス王子? 大丈夫ですか?」
「むっ!? その声……その姿。セシリアかっ!? あの恐ろしい熊は!?」
「ヴォーロスの事ですか? 全然怖くなんてないですけど?」
「そ、そうか……」
ルーファス王子が薄目で私とヴォーロスの姿を見て……立ち上がる。
そして、
「セシリア。迎えに来たぞ! さぁ、俺と一緒に王宮へ帰ろう!」
プルプルと身体を震わせながら、ルーファス王子が口を開いた。
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