挿話14 トイレに行きたい第二王子ルーファス

 くそっ! 何故だ!? どうして俺様がこんな目に遭うんだ!?

 洞窟の中では魔物に襲われ、長く暗い道を進んだ挙句に行き止まり。

 幸い地下を流れる小川があったから、喉は潤せるが腹は減る。

 変な虫やコウモリが居る中では、満足に眠る事も出来ず……


「ぐっ……な、何だ!?」

「ルーファス様。どうかされたのですか?」

「は、腹が……腹が痛い」

「あー、何度か川の水をそのまま飲まれていますよね? だからではないでしょうか?」

「お、お前たちだって飲んでいるではないか」

「いえ、我々はちゃんと煮沸していますので」


 何だと!? な、何故お前たちだけ、そんな事をしているのだっ!

 つまり、この腹の痛みに苦しむのは俺様だけなのかっ!?


「あの……我々は何度も言いましたからね? 生水は危険だと」

「……あ。す、過ぎた事はもう良い! 誰か治癒魔法を使える者は……」

「居るわけないじゃないですか。治癒魔法の使い手なんて、魔法学園にすら居るかどうか怪しいのに」

「で、では、薬だっ! 腹痛の薬を持って来い!」

「そんなのある訳ないじゃないですか。あるのは、傷薬とか包帯とかですよ」


 つ、使えない奴らめ!

 そもそも、どうして飲み水や食べ物を用意しておかないんだ!

 船の中には、沢山食料が積まれていたというのに!


「えぇいっ! 地上にはまだ辿り着かんのかっ!?」

「わかりません。ここから地上までの距離が把握出来ませんので」

「だったら今すぐ掘れっ! 俺様が苦しんでいるのだぞっ!」

「言われなくても、ルーファス様の指示通り掘っています。しかし、皆が疲労困憊で今にも倒れそうです。撤退致しましょう」

「バカな事を! あと少しで地上なのだぞ!? ここで頑張らずにどうす……あっ!」

「ルーファス様? ……何か、臭いますね。ま、まさか……」

「ち、違うぞっ! 違うからなっ! とにかく進めっ! 前進あるのみだっ!」


 騎士隊長に指示を出し、川へ移動すると服を洗い……どうして俺がこん事をしたければならないのだっ!

 その後も、空腹と腹痛と気持ち悪い虫たちに悩まされながら、騎士たちを叱咤激励し、ついに……


「ルーファス様っ! 地上ですっ! 地上に出ましたぁぁぁっ!」


 掘り進めた甲斐があって、ようやく陽の光が射し込んできた。

 どうだっ! 俺様の言った通りではないかっ!

 やはり戻るよりも進むべきだったのだ!


「お前たち、よくやった! 早く俺を地上へ出すのだっ! どけっ!」


 狭い穴の中を登って行き、久しぶりに地上へ出ると、すぐ近くに大きな熊が居た。

 あ、これはヤバい。流石に俺でも分かる。


「戻れっ! 今すぐ穴の中へ入らせろっ! おい、そこのお前っ! 囮になって、俺様が逃げる時間を稼げっ!」

「ルーファス様!? 一人がやっと通れる程の穴なのです! 無茶しないでください!」

「うるさい! とにかく早くしろっ! あぁぁぁっ! こっちへ来る……嫌だっ! 死にたくないっ!」


 俺に気付いた熊が凄い勢いで走って来た!

 ど、どうする!? そ、そうだ! 熊といえば死んだフリだ!

 さぁ、早く何処かへ行け! そして、騎士どもは早く出て来て、俺の身代わりになれっ!


「うわっ! ヤバい魔物がいるぞっ! 戻れ戻れっ!」


 戻れじゃねーよっ!

 出て来て俺様を守れよ! 何しに来たんだよっ!

 辺りが静かになったので、そろそろ熊の魔物が何処かへ行ったのかと思い、薄目を開けて見ると、


「あばばばばっ!」


 目と鼻の先に凶暴な熊の顔があり……どういう訳か、股間付近が温かい液体で濡れてしまった。

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