第34話 上陸出来ないルーファス王子

「あー、うん。あれはこの前と同じ船ね」

「ふむ。では我が行って沈めてこよう」

「ま、待って! 流石にそれはやり過ぎだってば。私としては、ここへ上陸するのを諦めて、そのまま帰ってもらうのが一番良いのよ」


 セマルグルさんが背中に乗せてくれたので、昨日作った壁の上まで飛んでもらい、一緒に船を眺める。

 まだ距離はあるけど、あと一時間もしない内に近くまでやってくるだろう。


「セマルグルさん。今すぐ来る訳でもないですし、とりあえず朝ごはんにしましょうか」

「む……そうか。セシリアの作ってくれる料理は旨いからな。奴らに灸を据える前に腹ごしらえだな」


 一旦地上に降ろしてもらい、先ずは顔を洗って……何を作ろうかな。

 あんまりゆっくりしていられないし、簡単に出来るもの……これかな。


「え? セシリア。今作り出した、その変な形の鍋……というか、鉄の板みたいなのは何なの?」

「ふっふっふ。これはね、時間の無い時でもすぐに朝食が作れる凄い調理器具なのよ」

「そうなんだー」

「えぇ。まず、この鉄板の窪みにパンを乗せるでしょ。その上にベーコンとレタスとトマトを乗せて、もう一枚パンを乗せたら、こうやって……もう一つの鉄板で挟んで、後は焼くだけで美味しいBLTサンドの出来上がりっ!」


 という訳で、具現化魔法を使ってホットサンドメーカーを作ったので、乗せて挟んで焼いただけで、温かいサンドイッチが出来てしまった。

 出来上がったのを取り出したら、斜めにカットして……ふふっ、たったこれだけなのに、美味しい朝食になっちゃうのよね。


「うむ。やはりセシリアの料理は旨いな。これは熱すぎず、良いな」

「まだまだあるわよー。こっちはチーズとアボガドを挟んでみたの」

「僕はこっちの方が好きかな。やっぱりチーズは正義だよね」


 皆で一緒にホットサンドをいただき、後片付けをしたり着替えたりと、朝の準備を終えた所で、


「む……何やら気配がするな。どうやら、あの大きな船が近くまで来たようだ」


 様子を見に行って居たセマルグルさんが戻って来た。

 私もヴォーロスと一緒に西の海岸へ移動すると、


「王子。一体、この壁はなんですか? こんな壁があっては、とてもではないですが、上陸出来ませんよ?」

「こんなの俺が聞きたいくらいだ! 俺が行かせた斥候どもは、こんな壁があるとは言っていなかったし、普通に上陸したと言っていたぞ。どこかから上陸出来る事は確かなのだ! 上陸出来そうな場所を探せっ!」


 壁の向こう側から、どこかで聞いた事のなる声が聞こえてくる。

 ……あの無駄に威圧的な話し方は、おそらくルーファス王子だろう。

 斥候とかって言っていたし、やっぱりこの前の二人はルーファス王子によって派遣されてきた人たちだったんだ。


「おい、そっちはどうなんだ!?」

「こちらも、この壁が延々と続いていますね。見た所、この壁は鉄のような物で出来ていますし、破壊は無理でしょう」

「チッ……こんな事なら魔法使い共を連れて来るんだった。おい、何とかならぬのかっ!」

「……無理ですよ。こんなのどうしろって言うんですか」


 しかし……壁の向こうでルーファス王子が延々と騒いでいるから、何処に居るかが簡単に分かるわね。

 今は南の海岸へ移動しているけど、そっちは少しずつ崖に変わっていくから……


「王子、無理です! 一度国へ戻って、風魔法が使える者を連れて来た方が良いかと」


 でしょうね。

 諦めて帰った方が良いと思うなー……というか、このまま帰ってくれないかなと思っていると、諦めずにそのまま進んで行き、


「王子! 洞窟です! 崖の下に、洞窟を発見しました!」


 予想外の言葉が聞こえて来た。

 えぇっ!? 南側の崖下に、そんな洞窟があったの!?

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