挿話13 ジャトランへ向かう第二王子ルーファス
「騎士団長よ。折り入って頼みがある。何も聞かずに、騎士団を貸してもらいたいのだ」
「はっはっは。面白い事を仰る。そんな事がまかり通らない事くらいご存知でしょう」
「それを分かった上で頼んでいるのだ。俺様は、どうしてもジャトランへ行きたいのだ」
「……ルーファス様。こそこそと騎士団の船を使っている事には目を瞑っておりますが、ジャトランに団員を上陸させるとなると、相応の理由が必要です。もちろん、正式な書類で申請を行いますので、国王様の目にも入るでしょう。どういった理由で、騎士団を動かすのですかな?」
短剣使いの男がセシリアを連れ戻す事に失敗し、最後の手段という事で、騎士団長へ直談判しに来たのだが……鋭い眼光が俺を射抜いてくる。
くっ……俺様はこの国の第二王子なんだぞ!?
むしろ、俺様の悩みを解決する為に、喜んで騎士団を派遣する……くらいの事があっても良いはずなのに。
「……ま、魔物退治はどうだ? ジャトランは、魔物がウヨウヨいるという話ではないか」
「この国とは陸地が繋がっておりませんので、海を渡ってまで倒しに行く必要があるとは思えませんな。我が国の領地であればまだしも、あそこは何処の国にも属さぬ無人の地ではありませんか」
「そ、そうだ! 未開の地だけあって、鉄が採れるかもしれないぞ?」
「……ルーファス様。仮にその通りだとしましょう。しかしながら、鉄の採掘に騎士団を送ってどうするのですか? 剣の代わりにツルハシを持てと? そもそも、我が国には土の聖女様が居られるではありませんか。無理に他の地から鉄を採取する必要など無いと思われますが」
だから、その土の聖女がジャトランに居るのだっ!
……と言えないのが辛いところだが、どうしたものか。
「百歩譲って、土の聖女様がお造りになられる鉄の量よりも、更に多くの鉄が必要だとしましょう。ですが普通は、まず鉄があるかどうかを調査するのが先かと思いますが」
「……それだっ! そう、それなのだ。実は既に俺様が斥候要員を送っていたのだ。だが、その者は魔物が強過ぎて無理だと言う。しかも、この騎士団を差し向けても勝てない……などと言っておるのだ! 悔しくはないか?」
「ふっ……仮にルーファス様が本当に斥候を出されたとして、何故その者たちが、騎士団が勝てないと仰るのですかな? その根拠が聞きたいですな」
お……騎士団の事を言われ、流石に顔色が変わったな。
この路線で押せば、いけるんじゃないか?
「いや、その者たち曰く、神の遣いと呼ばれる魔物が居て、命からがら何とか逃げてきたそうだ」
「神の遣い? 一体どんな魔物ですかな? まさかドラゴンが出ただなんて事は言わないでしょうな? あんなもの、お伽話ですぞ?」
「ドラゴンではない。グリフォンとライトニング・ベアに遭遇したそうだ」
「はっはっは。グリフォンですと? 確かに神の遣いと呼ばれてもおかしくはない魔物ですが、おかしいですな。空を飛ぶ獅子ですぞ? どのようにして逃げたと? それに、ライトニング・ベアは雷魔法を扱う、知能のある熊のはずですよ? 逃げようとしても、雷からは逃げられないでしょう」
「それはだな……その、グリフォンとライトニング・ベアとが同時に現れ、互いに牽制し合ったので、逃げる事が出来たそうだ。なので、決してその二体とは戦っていないと。だが、底知れぬ恐ろしさを感じ、騎士団でも勝てる訳が無いと言っておったのだ」
ふふふ……どうだ?
騎士団長の顔色がみるみる変わっていくぞ。
さぁ乗ってこい! 俺様の挑発に乗って、適当な理由をでっち上げて騎士団をジャトランへ送り出すんだ!
後は、派遣される騎士の内の数名に賄賂を渡し、セシリアを連れて帰らせる……うむ。我ながら完璧ではないか。
「わかりました。では、そうまで言うのであれば、騎士団の……そうですな。第五騎士隊を派遣いたしましょう。丁度再編したばかりの隊で、新たな編成で戦いを実践させておきたかったのですよ」
よし、乗って来た!
第五騎士隊か……まぁ後で若手の騎士でもつかまえて、誰が居るのか聞いてみるか。
「では、ルーファス王子。第五騎士隊と共にジャトランへ行っていただけますな?」
「……は? 何故、俺様が?」
「騎士隊に、グリフォンやライトニング・ベアの居場所を知る者は居りませんからな」
「いや、それなら斥候に行った者を……」
ダメだ。もう仕事を止めて、田舎へ行くと言い、すぐに街を発っていた。
「お、おぅ。お、俺様に任せるが良い……」
……ど、どうして俺様が自らジャトランなんかへ行かないといけないのだぁぁぁっ!
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