第32話 セシリアの気持ち

 昨日、私がジャトランへ連れて来られて時と同じ船に乗り、コーディさんという人と、その仲間が帰って行った。


「とりあえず、無事に帰れたみたいで良かったわね」

「そうだねー。ただ、本当にあの人間たちは何だったんだろうね。セシリアに敵意を向けていたかと思ったら、すぐに逃げ出したり、その後セシリアの名前を叫びながら命乞いをしていたりさ」

「うん。何をしに来たのかは、本当に最後まで分からなかったね」


 二人の迎えの船が来るまでの間、私が魔物除けの結界を張り、幾つかの果物を生やしたので物凄く感謝されたんだけど……そこは夜に風よけとなる壁も無かったし、昼に陽の光を遮る屋根も無い場所だったんだよね。

 私としては簡易ながらも二人が安心出来る家を作ってあげたかったんだけど、セマルグルさんが物凄く怒っていたからさ。

 ……まぁあの二人の最初の態度が悪すぎたから仕方ないのかもしれないけど。


「我は、あやつらがセシリアの前に居なければ……こほん。いや、何でもない。それよりセシリア。あの二人に心当たりは無いようだったが、あの船は知っていたのか? あの船が見えた時、僅かに動揺していたようだが」

「あー、動揺かぁ。うーん……気にする程の事ではないんだけど、あの船にはちょっと心当たりがあってね」

「というと? 聞いて欲しく無ければ聞かぬが……」


 セマルグルさんが心配そうに私の顔を見てくるけど、昨日船が来た時ではなく、わざわざ私の心が落ち着くまで待ってくれたのだから、一応話しておいた方が良いかな。


「えっと、昨日あの二人を迎えに来た小舟が、離れた所に停まっていた大きな船に向かって行ったでしょ? 私も、あの船に乗せられてここへ来たんだよ」

「ふむ。今更だが、セシリアは一人でこの地へ来ているのは……」

「うーんと説明が難しいんだけど、私の説明不足による誤解が発端で、罪人みたいな扱いになっちゃってね」

「セシリアが罪人だと!? どういう事なのだ!?」


 物凄く不思議そうにされながらも、王宮での出来事――もう一人の私であるセシリアとルーファス王子との事をかいつまんで説明する。

 大変な勉強と辛い修行を行い、土魔法を極めた土の聖女と呼ばれていた事。

 元居た国の習わしで、土の聖女は王宮に嫁がなくてはならなかった事。

 古くからのしきたりなので、婚約者となった第二王子には、聖女の仕事について説明しなくても知っているだろうと思い込んでしまっていた事。

 その結果、土の聖女の役割が理解されず、何もしていない上に応じに反論したとして、ジャトランへ追放されてしまった事。


「ほぉ。だがセシリアの土魔法がなければ、その国は成り立たないのではないか?」

「成り立たない事はないと思うんだけど、国力が下がる事は確かね。で、第二王子ではなく、ちゃんと土の聖女の役割を理解している人から、私を連れ戻すような命令があって、あの人たちが派遣されて来たんじゃないかなって」

「なるほど。事情はわかった。それで、セシリアとしてはどうしたいのだ? 元の国へ戻りたいのか?」

「え? 全くそんな事は思ってないよ? 生まれながらに土魔法しか使えなくて、両親に良い暮らしをさせてあげたいと思って頑張っていたら、聖女になれたまでは良かったんだけど、無理矢理王子の婚約者にされちゃった訳だし」

「では、セシリアは元の国へ戻る意志は無いのだな?」

「うん! ヴォーロスとセマルグルさんが居て、自分の考えで、向こうの国に無い物を色々作れるこっちの方が暮らしやすいかなーって思っているしね」


 ウソ偽りなく、今の私が思っている事を話すと、


「わかった。では、次にあの船が来たら、我が絶対にセシリアを守ろう」

「もちろん僕もセシリアを守るよ! セシリアが帰りたいならともかく、そうではないっていう話だからね」


 セマルグルさんとヴォーロスが力強く私を守ってくれると言ってくれた。

 もちろん、私も自分の身は自分で守るつもりだけど、物凄く心強い味方が出来た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る