挿話8 ルーファスの依頼を受ける闇ギルドの短剣使いのコーディ
「……という訳で、ある女を探して欲しいのだ」
この辺りの酒場で、金持ちそうな男が俺を探している。
闇ギルド御用達の情報屋から話を聞いて、適当に酒場を回っていたが……依頼が、ただの女探しか。
どうせ、入れ込んでいた女に捨てられたとか、男を作って逃げた女を探して欲しいとか、その程度の内容だろう。
まぁこっちとしても、お偉いさんの暗殺やら、どこそこの娘をさらって来いだなんて、無駄にリスクの高い依頼よりは良いけどな。
ただリスクが減る分、実入りも減るが。
「なるほど。女……ねぇ。行き先や潜伏先の目星は付いているのかい? 付いて居ないとなると、人を使って色んな街で情報収集する事になるから、依頼料が増えるぜ」
「目星も何も、何処へ行ったかもわかっている。あと、金に糸目は付けぬから、必要なだけ人を使え。あと、強引な手を使っても構わんから、連れ戻してもらいたい」
「ほぅ。例えばだが、薬で眠らせたり身体の自由を奪っても良いという事か?」
「もちろんだ。だが多少の怪我は構わんが、決して殺さぬようにな」
へぇ。どうやら、コイツは当たりみたいだな。
どこかの貴族の息子なのか、自分では何も出来ないくせに、女一人を手に入れるのに幾らでも人を使えと来たか。
まぁこういう奴らは、俺たち庶民から巻き上げた金で生きているからな。
生きていれば良いという辺り、好きな女とかって訳ではないようだが、相当大事な女らしいし、搾り取れるだけ取っておくか。
「わかった。ちなみに、その場所は何処なんだ? 遠い場所なら、人を大勢動かすとなると、移動費用や滞在費用なども要るのだが」
「移動手段はこちらで用意する。滞在費用も、必要な準備に掛かる金も、全て出そう。で、場所は……ジャトランという場所は知っているか?」
「ジャトラン? そんなの当然知っているに決まっているだろ。人の住まない未開の地で、魔物の巣窟となっている場所だろ?」
「うむ。俺が探している女はそこに居るのだ」
「……は? いやいやいや、ジャトランなんて行く事すら困難な場所だというのに、どうしてそこに居るという事が分かるんだ!?」
「俺がその女をジャトラン送りにしたからだ。だが訳あって、その女をこちらへ戻す事になってな」
いやいやいや、ジャトランはマズいだろ。
というか、絶対にその女は死んでいるに決まっている。
あのジャトランだぜ!?
大昔に魔王を倒そうとした勇者様とやらが、修行を行った地と言われる程に厳しい場所だ。
仮に、上手く魔物から逃げたり隠れたりしたとして、食べ物なんかも無いだろうし、生きていけないだろう。
残念だが、普通の人探しの十倍――金貨百枚くらいふっかけて、諦めてもらうか。
「わかった。俺は依頼された事は何でも受ける男だ。だが場所が場所で、人も使う必要があるだろう。だから、その依頼なら最低でも百は貰わないといけないな。その内、三割が前払いだ」
「む……百か。中々高額だな……だが、仕方ないか」
「すまないが、こっちも危ない橋を渡るからな」
「いや、わかっている。確か三割が前払いだといったな。三十枚くらいなら何とか手持ちであるから、今渡そう」
げ……受けるのかよ。うーん。まぁとりあえず、行くだけ行って、すぐ帰るか……って、おい! ちょっと待て!
こいつの出した三十枚の金貨……全部白金貨じゃねぇかっ! これ一枚で、一年は遊んで暮らせるんだぞっ!?
それが三十枚……というか、俺が言った百を白金貨百枚と勘違いしたのかっ!?
こ、こいつ、一体どれだけ金持ちなんだよっ!
ここいらで、こんなに金を持っているのは……ま、まさか王族なのかっ!?
「た、確かに前金を受け取ったぜ。そ、そうだな。準備に時間が掛かるから、二日後の夜に、ここで待ち合わせだ。俺はコーディと言うんだ。あんたは?」
「俺様はルーファスだ。……わ、悪いがそろそろ限界でな。よろしく頼む」
そう言って、男が走って……トイレかよっ!
そ、それより女を探し出したら、白金貨百枚だっ! それだけあれば、もう一生働かなくて済む! 急いで準備だっ!
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