挿話9 ジャトランの情報を得た闇ギルドの短剣使いのコーディ

「という訳で、めちゃくちゃデカい儲け話だ。どうだい、乗らないか?」

「白金貨二十枚か……旨過ぎるな。何か裏があるんじゃないのか?」

「いや、本当なんだ。ほら、見てくれよ。前金で白金貨を二枚も貰っているからな」


 本当は全部で白金貨百枚という破格過ぎる仕事だが、その二割でも十分過ぎるくらいの話だ。

 あのルーファスって奴は、金の価値を知らない大馬鹿野郎の良い金蔓だぜ。

 とりあえず、白金貨八十枚は俺が貰って、仮に二十枚全部をこいつにくれてやったとしても、俺は大儲けだからな。


「しかし、行き先がジャトランだろ? そいつが探している女は、とっくに死んでいるだろ」

「だから、とりあえずジャトランに行くだろ? で、女を見つけたって言って帰って来るんだ。後は、適当な女をこっちで見つけて、ジャトラン暮らしで容姿や性格が変わって事にすれば良いんだよ」

「なるほど。つまり、一日か二日か、ジャトランで生き延びるだけを考えれば良いって事か」

「そういう事だ。アンタ、確か元傭兵だろ? 俺は街専門だからな。未開の地で生きる術を持ってないんだ」

「わかった。で、白金貨二十枚の内、俺の取り分はどれくらいなんだ?」


 おっと。二十枚がこいつの取り分だというつもりで話をしていたんだが……やはり額がデカすぎるからか、総額で二十枚だと思っているのか。

 まぁ無理もないが。


「経費を除いた半分があんたの取り分だ。ジャトランへ渡る船代と代わりに用意する女、食糧などをもろもろ引いて、白金貨九枚があんたの手に入る。どうだ?」

「……十枚だ」

「ちっ……ちゃっかりしてんなぁ。わかった、それで良いぜ」


 ふっ……そうは言っても、実際は俺が白金貨九十枚を手に入れるんだがな」


「オーケー、商談成立だ。とりあえず、俺が知っている情報を言っておくと、ブラッディ・アントっていうアリがやばいらしい」

「アリ? それの何がヤバいんだ?」

「ただのアリじゃねえ。大型犬くらいの大きさで、相手の体力を奪うバイタル・ドレインっていう闇魔法を使って来る上に、集団で襲って来るんだ」

「マジかよ。そんなのに遭遇したら、一巻の終わりじゃないか」


 何でも、このアリは平地に現れるのだとか。

 地面に穴があったら、十中八九こいつの巣らしいので、全力で逃げなければならないそうだ。


「じゃあ、森の中へ入った方が良いのか?」

「いや、森もヤバい。デス・トレントっていう木の魔物が居るんだが、その名の通り、即死魔法を使ってくる」

「絶対、森に近付いたらダメな奴じゃないか!」

「あと、川もヤバいぞ。グレート・トラウトっていう魚が居るんだが、こいつらは人を食う。この魚には、ワニでも近付かないそうだ」


 うぇ……じゃあ、食糧は元から持って行くつもりだったが、水も現地調達は無理か。

 木を切って火を点ける事も出来なさそうだし、水や薪も持っていかないといけないな。

 かなりの大荷物で面倒だが、凶悪な魔物に襲われる事と比べれば全然平気だろう。

 二日ほど、未開の地でキャンプをすれば白金貨九十枚だからな。


「それから極めつけが、ライトニング・ベアっていう熊の魔物だ。さっき言った凶悪な魔物たちが、尻尾を撒いて逃げる程こいつはヤバい」

「そ、そんなにヤバいのか?」

「あぁ。何と言っても、神獣と呼ばれている動物だからな。知能があって、雷魔法を使うという噂だ。出会ったら最期だから、とにかくこいつに出会わない事を祈るしかない」


 改めて、とんでもない場所へ行くのだと思い知らされたが……し、白金貨の為だ。

 これが終わったら、田舎へ帰って静かに暮らそう。

 うん。最後の仕事にするんだ。

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