挿話7 大事な事を忘れていた第二王子ルーファス
「ぐ……酷い目にあった。水だと思っていた液体が、物凄くキツい酒だったなんて」
出された水をグイッと飲み、燃えるような喉の痛みで苦しんでいたら、店員が普通の水を持ってきて……危うく喉が潰れる所だった。
さっきの男を、王族への反逆罪で牢屋にぶち込んでやろうか。
だが、このキツ過ぎる酒はさておき、ポイズンリザードとやらの肉は旨い。
これなら、この店の一番旨い料理だと言われても納得出来るな。
……ただ、何か忘れているような気がするのだが。
「そうだ! 短剣使いの男だ!」
料理を下げさせ、適当な飲み物を飲みながら、店の中を伺う。
しかし、元々の噂では夜更けに現れるという話だった。
仕方が無い。ここでチビチビと酒を飲みながら待つか。
……
三杯目となる酒を、ゆっくりと飲んでいると、
「うぐっ……な、何だ!?」
急に腹が痛みだした。
一体どうなっているんだ!?
ついさっきまでは、何とも無かったと言うのに!
「お、おい! そこの女……」
「はーい! どうされましたー? お客さん。何だか、顔色が良くないですよー?」
「こ、この酒に何か入っていたんじゃないのか!? これを飲んで居たら、急に腹が痛くなったんだが!」
「……あ! 思い出した! お客さん、ポイズンリザードを注文された方ですよね? ちゃんと毒消草サラダは食べました?」
「…………あ」
しまった!
言われてみれば、あの異様にキツい酒のせいで、毒消草サラダとやらを食べるのを完全に忘れていた!
「おい、今すぐ毒消草を……」
「あの、残念ながら……その様子だと、既に手遅れかと」
「て、手遅れとはどういう意味だっ! そ、それならば、治癒魔法が使える者を呼んで来い!」
「治癒魔法……って、光魔法が使える人の事ですよね? そんな凄い人が、そこら辺に居る訳ないじゃないですか」
「き、騎士団でも、魔法学校でも良い! どちらかには居るはずだっ! お、俺様が呼んでいると言えば、必ず来るはずだから、早くするんだっ!」
お、俺様はこの国の第二王子なんだぞ!?
それが、酒場で魔物の肉を食って死亡だなんて、末代までの恥だ!
というか、こんな所で死んでたまるかっ! 絶対に……絶対に生き延びてやる!
とりあえず、今からでも自力で王宮へ戻れば、宮廷魔術師に光魔法が使える奴くらい、絶対に一人は居るはずだ!
「ちょ、ちょっと! お客さん、どこへ行くんですかっ!」
「家に……帰るんだ!」
「ですから、もう手遅れですって! それより、こっちへ来てください!」
「お、おい! 止めろ! 俺はまだ死にたくないんだぁぁぁっ!」
身体中に毒が回っているからか、か細い腕の女性店員に引っ張られ、それに抗う事も出来ずに何処かへ引きずられて行く。
一体、どこへ連れて行く気なんだっ!
まだ助かるはずなのにっ!
だが、弱った身体でもう何も言えずにいると、変な椅子に座らされ……
「じゃあ、後は頑張ってくださいね」
店員が何処かへ行ってしまった。
この椅子は一体何だ……って、これはトイレ!?
そう思った瞬間、物凄い腹痛の波に襲われ……あぁ、大変だった。
後で聞いた話だが、ポイズンリザードという名前ではあるが、食べても腹を壊すだけで、死んだりはしないらしい。
ただ、凄まじい腹痛に襲われるので、毒消草がセットになっているらしく……トイレから出た時には、すっかり夜が更け、真夜中になっていた。
「あ、大丈夫ですか? とりあえず、お会計を先にお願いしますね。そろそろ閉店なので」
何も言い返す気力もなく、ポケットから白金貨を一枚出す。
「釣りは要らん」
「えぇぇぇっ!? お、お客さん!? これ、白金貨ですよ!? 普通の金貨百枚分ですよっ!? あと、お客さんの代金って、金貨一枚でも余裕で足りるんですよっ!?」
「気にするな。それが俺の持っている一番小さい貨幣だ」
これは冗談でも何でもなく、ただの事実なのと、俺がフラフラなので早く帰って寝たいという想いからなのだが、
「兄さん。随分と羽振りが良いねぇ。噂で、俺を探しているっていう奴が居るって聞いたんだが、もしかして……兄さんの事かい?」
幸か不幸か、こういう時に限って、探していた短剣使いらしき男が話し掛けて来た。
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