挿話5 鬼人族の小悪党な少年
「お、おい! 見たか、今の!」
「う、うん! こんな季節外れに小麦が一気に成長した!」
「それに、コーンもだ! あんなに大きく育ったコーンを見た事があるか!? ……ちょっと食べてみようぜ!」
弟分を誘い、目の前で急激に育ったコーンの一つをナタで切ると、皮をはがしてかぶりつく。
……旨いな。
「旨っ! 兄貴! これ、ちゃんとしたコーンだよ!」
「そうだな。味は普通のコーンより……少し甘いか? 何にせよ、大きいコーンが、一瞬で大量に収穫出来るなんて凄すぎるだろ!」
「ここって、デュークさんの畑だよね? 一体どうやったんだろ?」
「待て……そのデュークの声が聞こえたぞ」
コーン畑の中でしゃがみ込み、耳を澄ましていると、
「何かお礼を……聖女様……では、どうぞ我が家へ」
聞き慣れない言葉が聞こえた。
「どうやら聖女っていう奴が、このコーンや小麦を急成長させたみたいだぞ」
「兄貴。あそこ……デュークが人間族の女を連れて歩いてる!」
「こんな所にどうして人間族が? いや、まぁいい。弱そうな女だったな。……待てよ。アイツを脅して、コーンを作らせまくったら……」
「お腹いっぱい食べられる!」
「あぁ、それもあるし、何より金になるな」
コーンを他の街へ運ぶのは骨が折れるが、あの女さえ手下にすれば、無限にコーンが手に入るからな。
「よし! あの女を捕まえるぞ!」
「でも、デュークさんの家に行っちゃったよ? デュークさんって、他の街を行き来する商人だから、護衛を雇っているはずだよ?」
「待て待て。今日は例の集会だろ? この集会には、いつもデュークが参加している。つまり、この後デュークは外出できないはずだ。つまり、あの女を何処から連れて来たかは知らないが、送り届ける事が出来ないという事だ」
「なるほど。あの弱そうな人間族の女なら、簡単に倒せるね!」
「あぁ。人間族は俺たち鬼人族に力が遥かに弱い。いいか。この村の中で襲ったら、デュークの護衛が来るかもしれない。だから、村を出るまで待つぞ」
「うんっ!」
そう言って、弟分とデュークの家を見張っているんだけど……遅いな。
家から誰も出てこない。
「あっ! もしかして、裏口から出たのか!?」
「あー、デュークさんの家って、この村じゃ二番目に大きいもんね。裏口くらいあるかも」
「くっ……おい、ちょっと裏側を見て来い。見つからないように、大回りで行くんだぞ」
「わかったー!」
弟分に裏口を見に行かせたところで……くそっ! こんなタイミングで人間族の女が出て来やがった!
「本当にご馳走様でした。こんなにお土産までいただいてしまって」
「いえ。本当にありがとうございます。聖女様にしていただいた事に比べたら、これくらいのお礼しか出来ず、申し訳ありません。では、馬車で家までお送り致しますね」
な、何ぃっ!? 予想に反してデュークが送るだとっ!?
おい、いつもの集会は良いのか!? 毎回、村長とかと激しく言い合っているのに。
「あ、あれくらいの距離でしたら歩くので大丈夫ですよ。それに、奥様のお料理が美味し過ぎてつい食べ過ぎてしまったので、散歩して帰りたいんです」
「そう……ですか? では、せめて村の外までお送り致します」
よし! 何か知らないけど、人間の女……ナイスだ!
そのままデュークに見送られ、一人で西の道を歩いて行った。
あとは、俺一人でも余裕だが、逃げられたら面倒なので弟分が来るのを待つか。流石に俺が居なければ、人間を追って村を出た事に気付くだろう。
しかし……あの人間は何をしているんだ?
道に向かって手をかざして……なっ、なんだってー!? あのデコボコした土の道が、一瞬で綺麗な平らな道になった!
どうなっているんだ!? しかも……
「うわっ! 今度は道が石畳に!?」
しまった! 木に隠れながら後をつけているのに、人間がした事が凄すぎて、思わず叫んでしまった。
幸い気付いていないみたいだけど……あっ! そういえば、人間は力が弱い代わりに、魔法が使えるって聞いた事がある。
まさか、道を一瞬で綺麗な石畳にしたり、コーンを大量に実らせたのも、人間の魔法なのか!?
あれ? もしかして俺……とんでも無い相手に喧嘩を売ろうとしてる!?
だ、だけど、金があれば働かなくて済むし、大きな家に住めて、グータラし放題だ!
悪いが俺の自由の為に……って、この影は何だ? 何かが俺の上に?
「――っ!? どっ!? どうしてグリフォン様がっ!?」
「……そこの悪ガキよ。セシリアに何の用だ?」
「せ、セシリアとは? あ……もしかして、あの人間の女の事でしょうか?」
「その通りだ。あの者は、我の大切な友人だ。万が一、何かしてみろ。鬼人族の村ごと潰すぞ」
「め、滅相もありません! た、ただ、人間族が居るなんて珍しいなと思っただけでして……」
「言っておくが、我は常にセシリアを見守っておる。くれぐれも、おかしな事を考えぬようにな」
ははぁぁぁっ! ……よ、良かった。空を飛んで何処かへ行ってくれた。
というか、グリフォン様って喋れたんだ。
……いや、とりあえず生きていて良かった。とにかく逃げよう。
そう思った所で、
「兄貴ー! ……あ! なんだ、あそこに居るじゃないっすか! 早くあの人間の女をやっちまいましょー!」
弟分が大声で余計な事を言い……違うっ! 違うんですっ! お許しをぉぉぉっ!
グリフォン様が急降下してきて、俺と弟分に体当たりし、思いっきり吹き飛ばされた。
や、やっぱり……悪い事は考えちゃダメだな。
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