第20話 鬼人族の村へ

「貴方たちの話をまとめると、村人たちの食べる分を残してギリギリまで守り神様に毎週食べ物をお供えしていているけど、それでも毎回もっと沢山欲しいって言われているって事かしら?」

「そうなのです。村の中で、何とか守り神様の求める分をお納めしようという考えの者たちと、これまで通りにしてもらおうと考え直してもらおうと願う者たち、そして守り神にお供えするのを止めようという者たちの派閥が出来てしまいまして」

「なるほど。ちなみに貴方はたちは、今の三つの内のどれなのかしら?」

「私どもとしては、これまで村を守ってきてくださった神様ですので、出来るだけお応えしたい……ですが、無い袖が触れずに困っていたところです」


 うーん。とりあえず作物を出す分には別に構わないと思う。

 鬼人族さんたちが実際に困っている訳だし。

 ただ困るのは、何処かでまたこの話が違う村や町の人たちの耳に入って、じゃあ自分の所にも……と続いてしまうパターンだ。

 日本の記憶を取り戻してしまっているからか、私が作り出す作物はこちらの世界の食べ物ではく、しっかり品種改良された日本の――地球の食べ物だから、余り広めたくないのよね。

 まぁそうは言っても、食べ物で困っている人が居るのに、作物を出せる私が出さない……なんて選択肢は無いけど。


「わかりました。とりあえず、貴方たちの村へ行きましょう」

「本当ですかっ! ありがとうございます! お、おい! 今すぐ出発だ! 大急ぎで……しかし、極力揺れたりしないように注意して進んでくれ」


 ひとまず鬼人族さんたちの商売用の馬車の荷台へ。

 幌で日差しが遮られるのと、歩かなくて良いのはありがたいけれど、その……決して乗り心地は良くない。

 だけど、鬼人族の商人さん――デュークさん曰く、御者も同じ様なものなのだとか。

 日本のバスとかだったら、まず道路が綺麗に舗装されていて、タイヤがゴムで、サスペンションっていうのかな? バネみたいなのが衝撃を吸収してくれて、座席も柔らかい。

 一方で、この世界の馬車は、まず道がデコボコで、車輪は木や鉄な上に幅も決まっていないのか、轍がバラバラというか……うん。比較する事自体が無謀っていうくらいに色々と違い過ぎる。

 ……流石に車を作るのは無理だろうから、この道を綺麗にして、極力ガタガタ揺れないようにしてあげようかな? と、そんな事を考えるくらいに激しく揺られながら、鬼人族の村へ。


「聖女様。到着致しました。こちらが我々の村です。主に鶏や豚の飼育をしておりますが、農業もしております」

「……私が作物を植えて、貴方たちがリリィちゃんを巻き込んだように、獣人の村と同じ事が起こるのを避けたいと思っています。ですので、新たな木を生やしたりするのではなく、今ある作物の収穫量を増やす……という対応で良いかしら」

「そ、そのような事まで出来るのですか!? あ、あの……もしかして、鶏の卵を増やしたりなんかも出来たりするので?」

「そんな事は出来ないわよ。私は土の聖女なので、力が及ぶのは土に関する事……作物の収穫量を増やしたり、木を生やしたりするまでです」


 いやいや、卵を増やす……って、食べたり商品として出荷していたら忘れちゃうかもしれないけど、鶏さんの子供なんだからね!?

 流石に命を扱うような魔法は、土では無理よ。

 光魔法っていう、治癒魔法が使えるかなりレアな魔法でも、生命に関与する事は出来ないんだから。

 とりあえず、鬼人族が行っている村の農業について見学させてもらい、小麦や野菜といった普通の作物を扱っていたので、土魔法でそれらの収穫量を増やしてあげる事にした。

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