第19話 鬼人さんたちの困り事

「えーっと……ど、どういうことなんだっ!?」

「と、とりあえず、リリィちゃんが無事で良かった。リリィちゃん、大丈夫?」

「せーじょのおねーちゃんも、あそびにきたのー? さっきまで、おじちゃんたちと、おえかきしてたのー!」


 そう言ってリリィちゃんがトコトコ走って来たかと思うと、私の足にぎゅーっも抱きついてきた。

 やだ、可愛い!

 ……じゃなくて、どうやら本当に遊んでいてもらったみたいで、楽しそうに笑っている。

 とりあえず、リリィちゃんには何もしていないという事はわかったけど、それにしても私を呼ぶ為に、こんな事をするのはダメでしょ。


「リリィちゃん。先ずはお父さんとお母さんの所へ帰ろっか」

「うんっ!」

「せ、聖女様っ! お、お待ちください! どうか私どもの話を聞いていただけないでしょうか」


 リリィちゃんを抱っこして出て行こうとすると、鬼人族の男性たちが心底困った様子で声を掛けてくる。

 無理矢理、私をどうこうしようとしない辺り、めちゃくちゃ悪い人たちでは無いのだろうけど……


「貴方たちのお話は後でお聞きします。先ずはリリィちゃんをご両親の許へ返してからです」

「おぉ、聖女様……申し訳ございません」


 まったく。こんなに可愛くて幼いリリィちゃんを人質にするなんてっ!

 困惑するマティスさんと共に、一度獣人族の村へ行くと、


「パパーっ! ただいまーっ!」

「リリィ! リリィーっ! 聖女様っ! 本当にありがとうございますっ!」

「リリィちゃんが無事で良かったです。では、私は少し用事がありますので」


 リリィちゃんのご両親へリリィちゃんを引き渡し、再び先程の場所へむかうことに。


「あの、聖女様……僕が利用されて巻き込んでしまい、すみませんでした」

「マティスさんは悪くないわよ。あの人たちのやり方が酷過ぎるのよ。だから気にしないで」


 私を巻き込んでしまった責任があるので……と、マティスさんが先程の休憩所までついて来ようとしてくれる。

 だけど、鬼人族の狙いが元々私のだった訳だし、むしろマティスさんやリリィちゃんが巻き込まれた側だと伝え、丁重に断って一人で休憩所へ。


「おぉ、聖女様。お戻りくださり、ありがとうございます!」

「はぁ……それで、私にどういう用事なのでしょうか」

「はい。実は我々の村には、先祖代々から村を守って頂いている守り神様が居られるのですが、突然お供物の量を増やせと言ってきまして」

「お供物を増やせ……って、神様がそんな事を言ってくるの!?」


 神様へのお供物って、アレでしょ?

 お仏壇の前にお供えして、時間が経ったら神様からのお下りをいただく……じゃないの?

 この世界では、実際に神様がお供物を食べたりする……つまり、神様が実在するという事なの!?


「あの、守り神様は普通に語りかけてきますが……」

「そ、そうなんだ」

「はい。それで、守り神様からのご要望ですし、出来るだけの事はしようと村人一同で頑張っていたのですが、流石に対応出来る範囲を超えてしまい、このままでは村の者が食べる分が足りなくなる……そんな時に、獣人の村で何も無い所からブドウという木を生み出し、一瞬で実を生らせた聖女様がいらっしゃるとお聞きしたのです」

「そういう事情なら、普通に私へ相談すれば良いじゃない! どうしてリリィちゃんを!?」

「その、獣人のたちが頑なに聖女様の事を教えてくれなかったので……」


 あー、確かにブドウの事は村の中だけにしてと言ったけど……獣人さんたちは私の事を思ってなんだろうな。

 この鬼人さんたちも、それだけ切羽詰まっていたっていう事ね。

 リリィちゃんをさらったのは許される事ではないけれど、この人たちも困っているようなので、ひとまず詳しく話を聞く事にした。

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