第13話 村の人たちのお礼
「この家が最後……よし、元気になったか? 良かったな」
「……旨っ! あれ? 身体が動く!? どうなっているんだ?」
「お前の所も、マティスが配ったキノコを食べたんだろ? 実はアレが毒キノコだったらしくてな。偶然この村に立ち寄ってくださった聖女様が、この毒消草のジュースを作ってくださったんだよ」
リリィちゃんのお父さんと一緒に、最後の家に来たけど、これでどうやら村の人が全員助かったみたい。
間に合って本当に良かった。
「あ、土の聖女様! こちらへ来ていただけますか? 村長が村を代表してお礼を言いたいと」
マティスさんに呼ばれて家を出ると、村長さんと思われる年配の方を先頭に、三十人くらいの獣人が並んでいた。
「土の聖女様。この度は、この村を救っていたただき、本当にありがとうございました。聖女様に何とお礼を言ってよいやら」
「いえいえ。とりあえず、皆さんが無事で良かったです。それで……ですね。私は元土の聖女で、今は違うんですよ。ですから土の聖女ではなく、セシリアと呼んでいただければ」
さっきまでは緊急事態だったから、むしろ積極的に聖女っていう立場を使ったけど、もう皆元気になったからね。
聖女じゃないのに、聖女だなんて呼ばれるのも変な感じがするし、一応訂正いておいたんだけど、
「セシリア様が現在どのような立場かは存じませんが、我々にとってはセシリア様は土の聖女様ですよ」
そう言って、村長さんと村人さんたち一同が深々と頭を下げる。
えっと、そんなに何度もお礼を言っていただかなくても、気持ちは伝わったよ?
「ところで、その……聖女様へ何かお礼をしたいと思っているのですが、ここは辺境の小さな村です。この村で作っている作物や、乳製品くらいしか差し上げる事が出来る物が無くてですね……」
「あ、お礼なんて良いですよ? 単に苦しんでいらっしゃる方が居て、私にそれを治す手段があったので、お配りしただけですので」
「え!? しかし、毒消草は貴重な物ですし、その上あのように美味しい飲み物にしていただいて……」
「いえいえ、本当に構わないですから」
うん。だって、人の命が関わっていたからね。
それに報酬を求めるなんて事は流石に出来ないよ。
だけど、村長さんやマティスさんが物凄く申し訳なさそうにしているわね。
「あ、そうだ! 実は私、元々チーズか牛乳が欲しくて、このお魚と交換して欲しくて……って、あれ? お魚が無いっ!」
「それなら、こちらです。私どもの家にお忘れになられていたのですが……物凄く大きなお魚ですね」
「ありがとうございます。えっと、向こうの方に川があると思うんですけど、そこで取れたお魚なんです。これと乳製品とか布なんかと交換していただけたらなーって思っていまして」
どうやらリリィちゃんの家に置き忘れていたらしく、お母さんが持ってきてくれていた。
乳製品を作っていると言っていたので、この魚と幾らか交換してくれないかと思っていたら、
「な、何と! 向こうの……死の川の魚ですかっ!? しかもこれは……グレート・トラウトではありませんかっ!?」
「え? な、何かマズいお魚なの!?」
「いえそうではなくて、物凄く美味しいのですが、非常に狂暴で、滅多に食べる事など出来ない貴重な魚でして……こちらを乳製品や布と交換しても宜しいのですか?」
「はい。野菜や果物は作れるんですけど、流石にそれらは自分で作れなくて」
「畏まりました。……皆の者、聞いたな? 聖女様が乳製品と布を御所望されておられる! 村中から集めるのだ!」
「待って! そんなに無茶苦茶な量は要らないから! 普通に……私が持てそうな分で十分だからーっ!」
何だかとんでもない量のチーズや布が集まりそうだったので、大慌てで村の人たちを止める事になってしまった。
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