第11話 元土の聖女の力

「あれが獣人たちの村だよ」

「ありがとう。じゃあ、ちょっと行ってくるね」

「……何かあれば、我らを呼ぶのだぞ? すぐ助けに行こう」


 ヴォーロスとセマルグルさんが、遠目に村が見える所まで案内してくれたので、お礼を言って村へ。

 ふふっ、セマルグルさんは心配症なのかな? チーズを買うくらい一人で出来るんだから。

 ちなみに、元居た国のお金が使えるとは思えなかったので、ボールに山盛りになっているブドウと、ヴォーロスが獲ってくれた大きな川魚を数匹持って来ている。

 これでチーズが手に入れば良いんだけどな。

 そんな事を考えながら村へ到着したんだけど……


「えーっと、人が居ない?」


 小さな家が数えられる程しかない村だから?

 皆、何処かへ出掛けているとか、ご飯の時間なのかな?

 誰一人として歩いて居ないんだけど。


「すみませーん! 誰か居ませんかー?」


 大きな声で呼び掛けながら歩いていると……家の陰から、幼稚園児くらいの小さな女の子が顔を出して私を見ていた。

 驚かさないように、ゆっくり近付くと、しゃがんで目線を合わせて話しかけてみる。


「こんにちはー! 私の言葉はわかるかな? お父さんがお母さんは居る? お姉ちゃんね、このブドウを沢山採ったから、何かと交換して欲しいなーって、思って来たの。あ、このブドウ、食べてみる? 美味しいよー」


 そう言ってブドウを一粒取ると、女の子の小さな手の平に乗せてみる。

 女の子は、猫の獣人なのかな?

 茶色い髪の毛から、大きなモフモフの猫耳がぴょこんと生えている。

 あぁぁぁ……可愛い。モフモフ……モフモフしたいっ!

 けど、こんなに小さな女の子を怖がらせる訳にもいかないので、モフモフしたい気持ちを抑えつつ、女の子の様子を見守る。


「それは食べても良いよー? お姉ちゃんがあげたんだから。このまま食べられるんだよー」


 目の前で私がブドウを食べると、女の子も小さな口でブドウをかじり、


「おいちー!」


 幸せそうな笑顔を見せてくれた。

 良かった良かった……じゃないわね。


「ところで、大人の人は居るのかな?」

「いる……けど、びょーきで、くるしそう」

「病気? ちょっと待ってね……おっけー! ねぇ、その病気の人の所へ案内してくれないかな? こう見えて、実はお姉ちゃんはお医者さんみたいな感じなんだー」

「おいしゃしゃん?」

「あ、えーっと、元聖女なの。だから、病気を治せるかもしれないのよ」


 状態異常を防ぐ魔法を、私と女の子に掛けたので、家の中へ案内してもらう。

 日本人としての私には病気を治す事は出来ないけど、土の聖女セシリアとしての私は、治癒魔法こそ使えないけど、そういう知識は沢山あるからね。


「パパー! せーじょのおねーちゃんが、なおしてくえるってー!」


 女の子について行くと、両親と思わしき獣人の男性と女性が床に臥していた。


「せ、聖女!? まさか、治癒魔法を極めた光の聖女!? しかし、こんな所へ来る訳が……」

「すみません、失礼します。光ではなく、土魔法ですが……なるほど。最近、キノコを食べませんでしたか?」

「え? 三日くらい前に食べた気がする。村の若い奴が、沢山採れたからお裾分けだって……まさか!?」

「えぇ。毒キノコですね。ちょっと待っていてください。すぐに戻りますので」


 一旦家から出ると、すぐに毒消草を育てて採取し、すり潰して……お水が無いので、代わりにブドウと一緒に潰してジュースにすると、


「毒消草のジュースです。奥様もどうぞ」

「う……旨っ! 何だ、このジュースは!? 毒消草って、めちゃくちゃ苦いはずなのにっ!」

「美味しいっ! 一体何に混ぜたら、毒消草がこんなに美味しくなるんですかっ!?」


 寝込んで居た二人があっという間に回復した。

 えーっと、見た感じは症状が重そうだったんだけど……元気になったから、まぁいいか。

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