第9話 新たなモフモフ

 翌朝。

 モフモフでフカフカな、大きなヴォーロスの背中の上で目覚める。

 ……身体が全然痛くないっ!

 寝返りとかされたら危ないかも……と思っていたけど、そんな事もなく、熟睡出来た。

 それ以上に、ヴォーロスが眠り続けているけど。

 そろそろと静かにヴォーロスの上から降り、こっそり出入口の石を消したんだけど、


「ん……朝? ふぅ……この閉塞感が良すぎて、ついつい寝過ぎてしまいましたね」


 射し込んだ陽の光で起こしてしまった。


「おはよう、ヴォーロス。ごめんね、起こしちゃったね」

「おはようございます、セシリア。いえいえ、むしろ起きないといけない頃合いでしたし、良かったです」


 ヴォーロスと一緒に家から出て……うーん。やっぱり畑を作ったからかな?

 昨日よりも、結界の周りに魔物の足跡が多いように思える。

 とりあえず結界魔法を解除しようとして……ふと気付く。

 ドーム型の球状に展開された結界の上へ、ビタッと大きな何かが貼り付いている事に。


「えぇっ!? ヴォーロスっ! ヴォーロス来てーっ! 変なのが居るのっ! ほら、あの上っ! こっちを物凄く見てるっ!」

「……えーっと、セマルグル。何をしているのですか?」


 ヴォーロスを呼び、大きな背中に隠れながら、結界に貼り付く変な何かを見てもらうと……話し掛けた!?


「え? セマルグル……って、あの変なアレの事?」

「はい。昨日、呼びに行った僕の知り合いです」

「そ、そうなんだ。でも、あんな所で何をしているのかな?」

「んー、何となく助けて欲しそうにしている気が……って、もしかして結界に刺さってませんか?」

「えぇっ!? 刺さって……って、とりあえず解除するね」


 結界魔法を解除すると、セマルグルさんが落ちてきて……羽ばたいた!?

 ちょ、ちょっと待って!

 セマルグルさん……ライオンみたいな身体に、翼が生えているんだけど!

 しかも顔にはクチバシが……って、大きいっ! ヴォーロスと同じくらいの大きさで……モフモフっ!

 ライオンと鳥の良いトコ取り……猫っぽい身体なのに、羽があるモフモフ! 良いっ!


「ヴォーロス。この人間の娘が、昨日話して居たセシリアか?」

「そうだよ。それにしても、こんなに朝早くから何をしていたのさ」

「いや、昨日の用事を終わらせ、ヴォーロスが持って来た木の実を食べたら、物凄く旨い上に、頭が物凄くスッキリと冴えわたっておる。これは、この木の実を育てたという者に会うべきだろうと、日の出と共に全力で飛んで来たのだ。そうしたら、結界が張ってあって、急には止まれず……クチバシが結界に刺さってしまったという訳だ」


 あー、クチバシが結界に突き刺さって、動けなかったんだ。

 で、口も開けないから喋れないし……


「って、待って! セマルグルさんも喋ってるんだけどっ!」

「うむ。紅いリンゴという木の実を食べたら、人の言葉が話せるようになったのだ」

「あっ! リンゴ……って、そうだ! ヴォーロスの時と同じだぁぁぁっ!」


 普通に喋っていたから失念していたけど、あのリンゴの事をヴォーロスは『知恵の木の実』って呼んでいた。

 あのリンゴを食べたら喋れるようになったって言っていたけど、普通のリンゴにしか見えないから、手土産にどうぞって……また、やっちゃったぁぁぁっ!

 ま、まぁ円滑にコミュニケーションが取れるようになったと思えば良いか。モフモフだし。

 このライオンと鳥の境目って、どうなっているんだろ? 羽の付け根は……あぁっ! モフモフしてるっ!


「しかし、ヴォーロスよ。この娘……先程から、我の身体を撫でまくっているのだが、怖くないのだろうか」

「昨日は、僕の背中の上で寝てたよ」

「ヴォーロスも我も、人間や獣人たちの一部からは、神のように崇められているのだが……」

「セマルグルはグリフォンだもんね。でも、セシリアはそういう事を気にせず接してくれそうだし、良いお友達になれると思うよ」

「……とりあえず、あの木の実が食べたいな。非常に美味であったからな」

「まぁセシリアが満足したら、出してくれると思うよ」


 ……はっ! 暫く、セマルグルさんのモフモフに夢中になっちゃってた!

 二人が何か喋っていた気がするけど……とりあえず、お腹が空いたから、皆で朝ごはんね。

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