9「仲間」
見通しが悪い工場の中でも、敵をばったばったとなぎ倒す快進撃だった。
ぶっちゃけ俺がいなくとも彼らの戦力は変わらなさそうなのだが、前衛三人、後衛三人という状態になったことで、後衛の出し惜しみがなくなった。敵の移動が大きく制限されたので、注目を集めてしまっても問題ない状態になったのだ。
俺の大太刀よりもさらにデカい得物を振り回す「クチナワの四つ浪人」は、とくに苦戦することもなく倒された。刀と尻尾の攻撃を止めさえすれば、それ以上に危険なことはしてこない。噛みつき攻撃はなかなか危なかったが、ナギサと雪見さんの合体魔法攻撃で阻止された。
「今日はかなりたくさんやれたね。でも、時間が……」
「もう夕方だねー。買い物はしてあるけど、帰らないと」
朝方から一度休憩も取って工場での戦いを続け、俺たちはものすごい量の敵を倒した。経験値を獲得すればレベルも上がるし、手に入ったアイテムを売ればそれなりの金額になる。とくに、発電所の燃料に加工される魔石は、探索者のおもな収入源だ。ランクによっても値段は違うが、数を多く狩ればそのぶんだけ儲かると思っていい。
工場を離れてしまえば、警備員であるクチナワナンバーは出てこない。プラントリザードを雑に処理して、俺たちはすぐにゲートへとたどり着くことができた。ナギサを格納庫に戻して、ゲート近くに併設された組合の事務所でざっと換金すると、いぶかしむような目を向けられてしまった。
「今日が初日でしたよね? クチナワナンバーの素材が入っているようですが……」
「途中で五人と合流しまして、臨時で組んだんです」
「ああ、そういうことでしたか。事前に申告してくださいね」
「すみません……」
魔石は低級のものばかりだったが、クチナワが持っていた武器、それに骨や鎧の破片はかなりの値段になった。どちらかというとそっちの方が安そうに思えるが、鋳溶かすだとかの加工で使えるからなのだそうだ。組合が引き取った素材を探索者が買い取ることもあるので、結果として現場での価格もちょっと上がるらしい。
待ってくれていた五人のところに戻ると、志崎が「連絡先、交換しておこうよ」と提案した。
「前衛と後衛三人ずつでちょうどバランスも取れてるしさ、もっと仲良くなれそうな気がするんだ。どうかな?」
「俺は賛成だよ。みんなは?」
女性陣もなんだかんだで賛成して、俺たちは全員でSNSのグループを作った。引っ込み思案に見えた雪見さんが、真っ先に顔文字付きで「よろですー!」と送ってきている。もしかすると、こういうネットとかゲームに親しんでいる人なのかもしれない。
ジョブコスチュームから平服に戻った女性陣は、思ったよりも特徴が消えていて、ぱっと見では探索者に見えなかった。単なるジャージ姿だった俺が言えることではないのだが、あそこまで露出が多くて特徴的だった波瀬さんが、平服だとパンツルックですっきりした姿をしているのは違和感がすごい。有名な探索者の写真が雑誌に載っているときはだいたいジョブコスチュームを着ているが、オフショットはこんな感じなのだろうか。
ベールを取った顔は、まるで人形のように整っていて、まったくの無表情でも感心するほどの美人だった。笑顔は誰でも美しく見えるものだというが、虚無の表情でもここまで美しい女性がいるとは思わなかった。
「どうしました?」
「ああ、いや……こんな顔なんだなって」
とくに反応もなく、微妙な空気で話が終わる。
「それじゃあ、解散しよっかー」
羽沢さんの言葉で、五人はそれぞれの方向へと散っていった。
「あれ? 駅いっしょなんだ」
「あ、羽沢さん。どこから来てるんです?」
「べつに敬語じゃなくていいよー、同期だし。新卒でしょ?」
「そっすね……」
雪見ちゃんもいっしょのアパートなんだよね、と彼女は当然のように言う。
「ラプロ有谷でしょ? お隣さんなんだよ、私と君」
「小宮だよ、小宮ショウ」
「こみっちね、りょーかい。おんなじアパートから三人とかヤバくない?」
「いいことじゃないんだろうな、きっと……」
苦笑いの小さな声に合わせて、ポニーテールがさらっと揺れる。
この世界に後付けで現れたダンジョンに潜る以外にも、仕事は山ほどある。ダンジョンに関わる仕事以外だけでも、世界は成立していた――言ってしまえば当然のことなのだが、探索者は今やインフラに食い込んでいる。だとしても、ダンジョンと関わらない生き方だって無数にあったはずだ。
「羽沢さんは、なんで探索者に?」
「あたし? あたしは、ダサいつまんない生き方したくなかったから」
「怪我しても、まだ?」
「写真上げたりとかテレビ出たりとかじゃないけどさ。あたし、小さいころからカッコいい生き方したかったんだ。これだ! って思った探索者、素質あったし」
前向いてたいから、と不思議なほど暗い言葉が聞こえた。
「まっすぐ歩いて生きたいんだ、あたし。こみっちは……うん、だいたい分かるけど」
「やっぱり、分かるか」
「会場でスーツ着てたし、いまジャージだし。おっきい武器使えるサモナーでしょ、すごいよね」
「なんでそこで……?」
家にいたりいなかったりだし、とじつにお隣さんらしい言葉が返ってきた。
「ちゃんと働いてたら、就活シーズン中にリズム決まるもんだと思うし。ハロワ行ったり面接行ったりまちまちで、でも決まんなかった感じでしょ?」
「みんな鋭いなぁ……」
お姉ちゃんもそうだったし、と彼女は笑った。
「ジョブコスなくても、めっちゃ強そうだったしさ。これからもよろしくね」
「ああ。俺こそ、よろしく」
同じ仕事をする同僚とグループができた――今日いちばんの収穫は、三万円少々の儲けよりも、ずっと大きなものだった。
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