アイリスとガス 2

 アイリスは慣れた手付きでどんどん芋を剥いていく。私はシオンに皮むき魔法を教えながら一緒にゆっくり剥いていく。

 蒸した芋を熱いうちに潰し、ベースを作り三つに分ける。マッシュポテトにはバターと牛乳を入れ混ぜて塩と胡椒で味を調えれば完成。


「この調理法はグリッツに似ていますね」


 ガスがマッシュポテトの味見をしながら言う。


「簡単にできるし、お肉ともよく合うと思いますよ」


 次にニョッキに取り掛かる。強力粉は見掛けていない。購入していた小麦粉と卵に塩少々を入れ混ぜ始めると、アイリスとシオンは自分たちが混ぜると仲良く手を上げる。


「じゃあ、任せるね」

「おうよ」

「まかせて!」


 楽しそうに二人でニョッキの生地を混ぜ始めた隣で潰して滑らかになった芋の中に卵、小麦粉、それからチーズを落としポテトパンケーキの生地を作る。


「これは私が混ぜましょう」

「じゃあ、ガスさんにお願いしますね」


 私だけやることがなくなったので使い終わった皿を洗浄クリーンして元の位置に並べた。


「混ぜるの疲れたぜ」

「ぼくはもっとまぜられるよ!」

「二人ともありがとう。次はね、ニョッキに形を整えましょう」


 ポテトパンケーキの生地を混ぜ終えたガスがニョッキ生地のボールを覗く。


「これは、前回のポテトダンプリンに似ていますな」

「そうですね。似ているかもしれないですね。あとはポテトパンケーキを焼き、形を整えとニョッキを煮るだけです」

「焼くのなら私がやろう。丸形でいいですか?」

「はい。お願いします」


 ガスがパンケーキを焼く間、ニョッキの生地を細長い棒状になるまで転がし適当な大きさにカットする。仕上げはシオンとアイリスに任せる。


「仕上げはフォークでこうやって押して形をつけてね」

「なんでこの形なんだ?」

「この方が、ソースが絡みやすいからからかな」

「ふーん。そっか」

「エマ、これでいいの?」


 シオンのニョッキは少し不格好だったけど、初めてにしては上出来だ。


「いい出来だよ。押しすぎて潰すのだけは気をつけてね」


 そんな話をしているとガスが次々とポテトパンケーキを重ねていくのが見えた。まとめて焼ける鉄板のおかげであっという間に焼けたね。


「こっちは終わりました。味見しましたが、ポテトパンケーキは腹持ちが良さそうですね。そちらも終わりそうですか?」

「これをお湯で煮て、ニョッキが浮かんできたら出来上がりです」


 お湯にニョッキを投入、四人で見守る。


「エマー、ニョッキさんういてきたよー」


 シオンが目を輝かせながら鍋を指差す。


「うんうん。できたね」


 ベースができたので、ガスにはアレンジを教える。マッシュポテトにはディルやタイムを加え、ニョッキはガーリック、ケシの油、ベーコンに芽キャベツを加え贅沢に胡椒を振り、クリームソースの作り方も教えた。


「ニョッキさんおいしいね」

「うん。美味いな」


 二人ともニョッキを気に入ってくれたようでうれしい。


「ガスさん、ポテトパンケーキにも生地に野菜を入れることができますし、いろいろと試してください……」


 あれ? ニョッキを口に入れたまま、ガスが黙り込んでしまった。


「あの――」

「エマ様! 私を弟子にして下さい! 三十年料理をやって来て、揚げ物もですが、こんなに新しい調理法とレシピに巡り会うなんてそうそうないです」


 ガスが涙目でそう訴えかけてくる。


「爺さん泣いてんのかよ。エマのも美味いが爺さんの料理も美味しいぞ」

「爺さんではない料理長だ」

「みんなおいしいよ。ぼくぜんぶすきだよ」


 いいい子たちだ。でも、ガスはこれ……本気泣きだな。


「えーと。私のレシピも人から聞いたりしたものなので、誰かの師匠になるのは無理だと思います」

「それでも素晴らしいのです。ぜひ弟子に!」

「ガスさんはここの料理長ですから……」

「駄目ですか?」


 ガスが上目使いで見てくるけど、私の料理はあくまでも家庭料理止まりだ。


「あー、それなら次回、また会った時にレシピを教えるというのはどうですか? それまでに、今回教えた料理からアレンジしたものや別の新しいレシピを発見して私に教えてください。お互い教え合いましょう。それでいいですか?」

「かしこまりました師匠! しかしアレンジと新しいレシピですか。それはなかなかの難題」

「いろいろ悩んで頑張って下さい」


 それからアイリスとガスが二人きりでしばらく話してお別れの挨拶をしたところで四の鐘が鳴った。

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