どうして尻ばかり

 午後からアリアナの訓練を受けるが……私限定でSっけ満載の鬼のアリアナ監修の訓練内容だ。子供たちはディエゴと楽しそうに剣の稽古をしている傍ら、アリアナに本気度の高い体術を教わっている。

 アリアナさん……二日目なのに、何で私は地面に何度も投げ飛ばされているのでしょうか? とそんなことを尋ねる暇もなくアリアナに再び投げ飛ばされる。


「エマ様、力技で攻めても意味がございません。きちんと相手の動きを観察してください。正面から正直に攻めてもすぐに隙を突かれます。ほらこの様に」


 アリアナにバシンと尻を叩かれる。


(え? なんでお尻?)


 その後どうにかアリアナに勝とうとするが、何度もお尻を叩かれて尻が痛い。この世界にきて私のお尻はずっと可哀そうな目にあっている……。


 バシンバシンバシン――


「アリアナさん! お尻だけを叩くのをやめて下さい!」

「嫌なら、エマ様が頑張って防ぐしかないですね」


 くっ。アリアナめ。これじゃ馬車を改良した意味がない。

 尻を摩りながら立ち上がると、アリアナの口角が上がるのが見えた。

 アリアナはこの状況楽しんでいるよね? どうにか一泡吹かせたい……アリアナに一直線に向かう。


「またそれですか? エマ様、先程と進歩がありませんよ」


 真正面から攻め、アリアナの足を狙うフリしてスキルのステップを使い後ろへと寸前で回り込む。


(行ける! とったぞ!)


 腕を大きく振りかざしアリアナの尻を狙う――が……


 バシン


 痛い! また私の尻が叩かれた! 地面に四つん這いになり尻を撫でる。


「エマ様、なかなか良い動きでした。ですが、殺気がダダ漏れです。視線にも気を付けてください」

「お尻が痛いです」

「まだいけますよね? 早く立ち上がらないとまた尻を叩きますよ」


 鬼だよ鬼!

 訓練二日目からハードすぎるでしょ。子供たちを見るとディエゴとキャキャウフフと木剣で稽古をしていた。


 バシン――


 また尻!


「今、立ち上がろうとしていたのです!」

「遅いです」


 鬼!

 その後、稽古の時間も終わり……部屋に戻り尻にヒールを掛ける。痛みはもう消えたけど心が痛い。

 シオンが心配そうに私を覗き込みながら言う。


「エマ、おしりだいじょうぶ?」

「ありがとう。もう大丈夫だよ。稽古は楽しかった?」

「たのしかったよ!」

「それは良かったね」


 精神的な疲れから盛大にベッドへ横になる。


「だから言っただろ、アリアナは鬼だって」

「マークも剣の稽古を楽しめた?」

「まぁな。ディエゴは兄貴みたいな感じで優しいからな。遊びみたいな稽古だった」

「そっか。二人とも楽しそうに稽古をつけてもらっていたから安心したよ」

「エマはキツそうだったけどな」


 否定できない……。

 少し休んでから水浴びをして夕食をとった。今日は芋と肉のシチューに蒸した芋だ。ガスさん、芋の消費を頑張っているのかな?

 夕食の終盤でリリアが口を開く。


「エマ様、食後にロワーズ様が執務室におこしになるようにとの伝言です」

「分かりました。子供たちはすでにお風呂に入れています。長くなるようでしたら、デイジーさんに寝かせまでお願いしてもいいですか?」

「もちろんでございます」


 部屋を退出、リリアの案内で護衛のディエゴと執務室へと向かう。

 日が沈むと一気に室内は暗くなる。ところどころに灯りは付いているが、それでも暗い。リリアは灯りの魔法を照らしながら前を進む。リリアの魔法もやはり松明のような灯りだ。


「ロワーズ様、エマ様をお連れしました」

「入れ」


 リリアに促されロワーズの部屋へと入る。ロワーズは軽装でリラックスした感じの部屋着で挨拶をする。


「まぁ、座れ。リリア、茶の用意を。ディエゴは外で待て」

「はっ」


 あれ? ハインツさんはいないのかな? いつもいるのに……ディエゴとリリアが部屋を退室するとロワーズと二人きりになる。


「今日は、ハインツさんはいらっしゃらないのですね?」

「ああ。ハインツはヨハンに付き添ってリーヌへと向かわせた。二人ともすでに出立した」

「そうですか。無事に解決するといいですね」

「単純な水増しなら直ぐ解決だろうが……ヨハンなら問題は無いだろう」


 疑問があったら徹底的に解決――尋問しそう。ヨハンの心配なんてしていないけど、ハインツさんがヨハンに振り回されていないか気の毒だ。


「それで、ご用件は?」

「今回呼んだのは、エマへの仕事の依頼だ。この砦にいる騎士、文官や使用人のすべての鑑定を頼む。敵がまだ潜んでいるのなら問題だ。レズリーには使用人や下級騎士の鑑定をさせているので、エマには上級騎士、それから特に貴族出の者たちの鑑定を頼む」

「かしこまりました。早速明日から始めますが……北の砦にはどれ程の数の騎士と文官がいらっしゃるのですか?」

「下級騎士も入れれば千人だ。使用人は二百。文官は百五十いる」

「お、多いですね。鑑定する時間はどれくらいありますか?」

「必要なだけだが、早急に願いたい。それから、気付かれぬように鑑定をするように。騎士は良い言い訳をつけて一箇所に集めるのでまとめて鑑定をできる機会がある。ただ文官は仕事場にこもっている者が多い。無理に呼び出すと怪しまれるので、そこは上手く文官を鑑定できるようにリリアに申し付けているので後から話を聞いてくれ」


 また鑑定地獄……なかなかのハードワークの決定だ。

 ドアからノックが聞こえ、リリアが入室する。


「リリアです。お茶をお持ちしました」

「入れ。リリア、明日からエマには北の砦に敵が紛れていないか調べてもらう。詳しくはリリアからエマに説明してくれ」

「かしこまりました。ロワーズ様」


 リリアのお茶を飲みホッとする。やっぱり美味しい。


「して、エマもアリアナから体術を学んでいると聞いたが、初日からずいぶんと絞られたようだな。アリアナは真面目で教えるのは上手いが、鍛えがいがあれば、その分手厳しいからな」


 え? 知っていたの? アリアナが適任って言ったのはどこのどいつだよ! 確かに教えるには上手いが……あれが続いたら心が折れる。精神耐性レベル高いから問題は無いだろうが、尻はヒールで治せても叩かれている時は痛いんですよ!

 小言のように不満を漏らせば、ロワーズが笑う。


「ククク」


 クククじゃあないよ!

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ある日、近所の少年と異世界に飛ばされて保護者になりました。 トロ猫 @ToroNeko0101

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